幸せ

「んで、結局そいつと一緒の就職先になって。まじ、ありえん!」

職場の学生アルバイトの旬くんが、楽しそうに話す。どうやらこの春からの就職先が、苦手だった同期と同じ企業になったらしい。


「神様は仲良くするように仕向けてたんだよ。これも縁。」

当たり障りのない、いかにもおばさんらしいことを言う。それでも「縁かぁー。」なんて笑う旬くんはやっぱりかっこいい。


「奈央さんはどうなんすか、最近。」

自分の話だけじゃなくて、ちゃんと切り替えてくれるところも、優しくて…。

なんて。だめだめ、この子には彼女が居るんだ。

それに、3月には辞めてしまうんだから。


「最近も、なーんにもない。昨日なんてさ、一人日曜大工よ。自分で花壇作っちゃったよ。(笑)」

自虐をひとつ。悲しきおばさんの末路を未来ある少年にお伝えするのは、抵抗もあるけど。


うっわ、やっばー。とひとしきり笑ったあと真剣な顔で。

「俺に頼んでくれたら、するのに。」


おれにたのんでくれたら するのに 。


不覚にもときめいたじゃないか。

また、一言で簡単に舞い上がる。


(年下なのに、勝てないなあ。)


もう、負けを認めて、

久々に楽しんでみるのもいっかな。


「あ、じゃあタイヤ換えたいかも!」

「それはプロに頼んで(笑)」


君の卒業まで、もう少し。

小さな幸せを噛み締めてもいいですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る