思いを繋いでみたい
細萱千夏
コーヒー
「(YSLのリップ、かぁ。)」
何番の発色がいいとか、男ウケがいいとか、正直どうでもよかった。
メッセージの返信が遅いことでこっぴどく彼氏に怒られたあとの、井戸端女子会。今日はなんだか二重に疲れてしまった。
(暖かいもの、買って帰ろう。)
いつもの自販機の前で数十秒悩む。今日の私には甘いコーヒー。優しさも思い出せる気がするから。
「それ、気に入ってくれてるの?」
背中に懐かしい声が刺さる。声を聞くだけでどきどきしてしまうほど、この人の声も、甘い。
「泰ちゃん!元気やったと?」私が好きだった、泰輔くん。
「相変わらず上手に愛想笑いしちゃって(笑)。」
友達との別れ際を見られていたらしい。
「もう!気づいとったなら声かけてや!」
なんでもお見通しの泰輔くんなら、心臓が止まりそうなほどどきどきしていることにも気づいているんだろうか。
泰輔くんとは、大学1年のとき、少しだけ親密だった。お互い不器用で、生き辛くて、そんな部分をわかりあえるのは世界で二人だけみたいな気がしていた。
「(この人と、キスしたんだよなあ。)」
あの頃、好き同士だったのかそうじゃなかったのか。その場の勢いでキスしてしまったことが気まずくて、いつのまにか遠くなってしまった。
「彼氏とはうまくいってんの?」
泰ちゃんと居る方が暖かいよ、を何とか飲み込んで
「まあ、ぼちぼち。」と私。
泰輔くんにも彼女ができたと聞いた。私たちは、もう、一人と一人になっちゃったのかなあ。
「そういえば、」泰輔くんがどこか憂いのある横顔のままで、言う。
「この前月が綺麗でさ。雪も見てるかなーって思った。」
なんだ、泰輔くんの生活の中に
ちゃんと私残ってるんじゃん。
「泰ちゃんもみとるかなーって、私も思った!」
きっと、好きだったなんて伝えることはないけれど。
私たちの関係は確かに、二人だけの、特別。
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