勝負服を脱ぐためにひと肌脱いでみろよ
ちびまるフォイ
勝負服とは呪いの服
「博士――。なにか着るものない?」
知り合いの博士の家に遊びに来て風呂を借りたが、
すっかり着替えを持ってくるのを忘れてしまった。
「博士?」
いつものように研究で忙しいのだろうかどこかへ行ってしまった。
しょうがないのでそこら辺にある服を着ることに。怒られないだろう。
「うげっ……なんだこのダサイパンツ」
デザインに問題あったが、着れないことはないし、誰に見せるわけでもないのでパンツと部屋着を着た。
博士が戻ってくると、目を血走らせてすっとんできた。
「お、お前! ここにあった服を着たのか!?」
「え? なにかまずかった?」
「まずいわ! 今、お前が着ている服は『勝負服』といって
なにか勝負をして勝利しないかぎり脱げないんじゃ!」
「はああ!? なんだその拘束具!?」
着ていた勝負服を脱ごうとしてもぜんぜん脱げない。
ひっぱっても、噛んでもびくともしない。なんだこの生地。
「とにかく、なんとかして勝負するんじゃ」
「わかった! 博士、ボクシングしようぜ!」
「わしがいけにえになるの!?」
博士をノックアウトしたが、まるで勝負服は脱げない。
「そんなありきたりの勝負じゃダメなんじゃ……。
勝負服を脱ぐには"勝つか負けるかわからないギリギリの勝負"に賭けて
勝利したときに勝負服を脱ぐことができるんじゃ」
「なんでそんなめんどくさいことを!!」
このままダサイ服で学校に行くわけにもいかない。
俺はかねてから気持ちがある女子のもとへと向かった。
「俺と……付き合ってください!!」
「えっ……/// いいよ」
「うっしゃあああ!!」
ご都合主義というなの不思議パワーで告白は大成功。
こればかりはギリギリの勝負に違いない。勝負服が一気に緩んだのがわかった。
「やった!! これで脱げるぞ!!」
さっそく服を脱ごうと手をかけたのがまずかった。
「え!? いきなり、お互いを知らないのにそこまでする気!?」
「へっ。いや、何を勘違いして……」
「ひどい!! カラダ目的だったのね! サイテー!」
ビンタされてものの数秒でフラれてしまった。
俺が告白成功と同時に服を脱ごうとしたのがまずかった。
勝負服はふたたびきゅっと締め付けるようになってしまった。
「ああ……なんてことだ……一世一代の勝負が……」
落ち込んでいると、この状況に追い打ちをかけるようにお腹が痛くなってきた。
「し、しまった……!! このままじゃ……トイレに行けない!!!」
勝負服を脱ぐことができない。
イコール、トイレで用を足すことはできない。
こんな不潔なタイムリミットがあるなんて想定していない。
「うおおおお!! どうすればいいんだよぉぉ!!」
博士の家に戻って、トイレの前で限界のおたけびをあげる。
でもこれ以上勝負できることなんてもう残ってない。
「諦めるんじゃ……すべてを悟れば恥ずかしくない……」
「諦められるかぁぁ!! 仮に漏らしたとして、その服のまま生活するんだぞ!?」
そうなれば俺の人間生活が完全に終わる。
歩く汚物として国で指名手配されても文句は言えない。
ギュルルルル……。
腹からさらに急かすような音が聞こえてくる。
すでに思考できる状況じゃなくなったのがわかった。
「ちくしょおお!! こうなったらやぶれかぶれだぁぁぁ!!」
台所にいって包丁を取り出す。
「な、なにをする気じゃ!?」
青ざめる博士の制止を振り切って、包丁を自分につきたてた。
限界まで追い込まれた自分の力加減が絶妙な位置で包丁を止めた。
着ていた服をつらぬき、肌の前で包丁の刃先はぴたりと止まった。
「や、やった……! やった! 切れたぞ!」
わずかな裂け目ができると勝負服はそこからはがれるようにばらばらと床に脱げ落ちた。
下着姿になると、いまだかつてない解放感が襲ってきた。
「や、やりおった……! 包丁を自分に突き立てて服だけ破るという離れ業をやってのけた!
こんなギリギリの勝負に勝っちおったのじゃ!!」
博士も感動のあまり拍手を送っていた。
俺はゆうゆうとトイレに向かった。
さながらレッドカーペットを歩く俳優のように。
トイレに入ると、小さな個室が天国の花畑のように魅力的に見えた。
そっとかがんでパンツに手をかけるとトイレの向こうから博士の声が聞こえて来た。
「ところで、"勝負パンツ"が見当たらないんじゃが、知らないか?」
勝負服を脱ぐためにひと肌脱いでみろよ ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます