第41話 反乱軍④
「はぁぁ!」
「いい切り込みだ! だが遅い!」
地面を強く蹴り出した鋼色の機体が、同じく鋼色の機体の懐に潜り込む。
下から振り上げた刀を、ぎりぎりと音を立てながら受け流す。
「今日はここまでにしようか、一樹くん」
「やはり自分はまだまだですね......北川さんには遠く及ばないです」
これから強くなればいいよ、とにこやかな声。
正式に日本国軍のパイロットになってから、1週間が過ぎようとしていた。
実際に戦闘機兵、量産機に乗ったこともあったが、バーチャルとは違い、かなり体力や筋力を使うものだった。
朝は6時から筋力トレーニングや座学、昼を超えたらバーチャル訓練や実機訓練、夜寝るのはいつも1時を超えている。
「いつも言ってるだろう? 涼平でいいって」
「ははは、まだ慣れなくって、すいません」
タオルで汗を拭いながら、シャワールームへと向かう。
他の5人はすぐに自室へ帰ってしまったが、北川さんと話をするために残っていた。
「そういえばこの前の......!」
北川さん、涼平さんの話を遮るように、何年も聞いたことなかったアラームがスピーカーから流れる。
日本やアメリカなどに反対する国や組織から攻撃を受けた時のみ鳴るその警報は、鳥肌が立つような体の奥底から恐怖を感じる。
『日本海沖にて日本軍と反乱軍が交戦状態へ入りました。戦闘機兵パイロット各位は至急戦闘準備を整えて、救援要請に備えてください』
「これは......!」
「これが君達の初陣になるようだね」
急いで隊服に着替え、機兵格納庫へと走る。
神奈川基地のカラーは赤色のため、黒ベースの隊服には左胸にロゴが印刷されてあり、体には赤色のラインが数本入っている。
格納庫に入り、いつも訓練で使っている俺専用の機体に乗り込む。
量産型戦闘機兵"ジュピター"の登録番号A-13508。
「頼むぞ......戦闘機兵ジュピターA-13508起動!」
いつ見ても、やはり本物は違うのだと改めて思ってしまう。
整備が終わった後の機体は、いつもよりも関節の動きがいいようにも感じる。
人の何倍もある塊が、地面を揺らしながら何機も何機も出ていく。
『新潟基地よりSOS信号を受信。神奈川基地はこれより特別救援任務を開始します。戦闘機兵隊北川小隊、
「了解しました。北川小隊出ます!」
「白影小隊、同じく」
『ご武運を!』
神奈川基地のオリジナル機パイロットは2人。
1人は俺達の小隊を取りまとめる、トールパイロットの北川涼平さん。
もう1人は、ヘルパイロットの
その2人と、管制塔との会話が、涼平さんのマイク越しにこちらにも聞こえた。
ついに出番か......
「聞こえたね? オリジナル機の僕は一足先に行くから、君達は僕の呼んだガイドについて行くといい。まずは肩の力を抜いて、とにかく冷静にね......!」
そう言い残して涼平さんは、フルスピードで飛んで行った。
流石はオリジナル機。
量産機では到底出せないような速度を出して、あっという間に俺達の視界から消えた。
戦闘機が飛んだ後に出来るような飛行機雲は、オリジナル機には作られない。
オリジナル機は燃料を必要としないのだ。
しいて言えば、燃料となるのは"精神力"。
つまりパイロットのメンタル次第で、そのオリジナル機が強くなるか弱くなるかが決まってくるというわけだ。
神奈川基地に取り残された新兵達の前に、1機の戦闘機兵が歩いてくる。
機体は俺達と同じ、量産型のジュピター。
彼が涼平さんの言っていたガイドだろう。
「やぁ、お待たせしてすまないね。北川小隊の6人はいろんな意味でもう知っていると思うけど、涼平さんにガイドを頼まれた、二ノ宮です。よろしく」
どこかで聞いたことがあるような......
頭をフル回転させる。
が、広人の方が速かった。
「二ノ宮って、まさかあの時のか! 何でここに?」
「覚えていてくれたんだね、ミスター飯島。そうさ、親善試合をした時にいたあの二ノ宮だよ。僕の父親は軍人でね、その影響で中学の頃から機兵には乗っていたのさ」
少しからかうように、再開を喜ぶかのように話しているが、正直今はそれどころではない。
「誰でもいい。二ノ宮、早く新潟基地へ連れていってくれ」
「……そうだね。それじゃあ出発しようか」
新潟基地へ着くのはそう長くはなかったが、色々な話を聞いた。
二ノ宮自身の話、二ノ宮の両親の話、オリジナル機をはじめとするパイロット達の話。
もしかしたら、これが初の実践戦闘となる俺達が緊張しないように配慮してくれたのかもしれない。
今まで生きているということは、二ノ宮の操縦技術はそれなりに高いのだろう。今度教えてもらおうか……
「さぁ、着いたよ……流れ弾には特に気をつけてね。ここは戦場だよ!」
新潟基地に着いた時、当然ながら戦闘は始まっており、基地では何箇所からか白煙が立ちこめている。
空には戦闘機や戦闘ヘリが空戦権をかけて争い、海では戦艦が砲台をしきりに動かしている。
そして何より特徴的な点としては、地上では戦闘機兵達が機体をぶつけ合っていること。
飛行ユニットでは高機動戦闘は不可能なため、量産機は地上に降りて戦うのが一般的なのだ。
「来たね……! 早速だけど、戦況が悪いからすぐに戦闘に加わってくれ!」
「了解。さぁみんな行くよ!」
ホバリングしていた俺達の前に、横から涼平さんのトールがフェイドインしてきた。
二ノ宮は涼平さんの言葉を聞いて、すぐに地上へ降りていった。
「やべぇ……ここに来て手が震えてきやがる!」
「そうね。命のやり取りになると、さすがに怖くなるものね……」
それは広人の奈々美さんの声。
もともと少しビビリなところがある広人は別としても、奈々美さんの声がここまで強ばっていることなんて、そうそうないだろう。
それほどまでに戦争は恐ろしいことなのだ。
誰かが最初に地上へ降りていった。
それに続いて2人、3人と降りていく。
俺達も覚悟を決めないと……
「僕は行きますよ……!」
俺達の中で最初に動いたのはクラス長。
こういう時に以外と勇気を出して動くのは、いつもクラス長だったのかもしれない。
「よーし! 私も行くよ!」
「私……も!」
次に春奈が降りる。
桃咲は春奈の後ろについて行ったりするが、今回ばかりは自分で決断したようだった。
「俺達も行こう!」
「……そう、ね」
「くそ! あぁ、あぁ、あぁ! 俺だって男だ! 覚悟を決める時はかっこよくだな!」
俺達3人が降りていき、飛んでいたジュピターの2小隊は全員降りた。
俺にはどうすることも出来なかった。
それは運命だったのかもしれない。
そこで踏み出さなかったら、違っていたのだろうか。
「うがぁ!」
地上へ降りる途中で、クラス長の変な声が聞こえた。
すぐに先に降りた機体の方へ顔を向ける。
機兵の体の中心あたりを、ソードが突き刺さっている。
「クラス長!」
そちらへ向かおうとした時には遅かった。
瞬きをする一瞬の間に、そのソードは別の戦闘機兵に握られ、そのまま真っ二つに斬り裂かれた。
「うそ……だろ?」
一瞬の出来事に、その場にいた全員が固まった。
頭がついていかない。
クラス長の機兵が切り口から赤い光が放たれ、内部から爆発を起こし、木っ端微塵に部品がとんだ。
「くそがぁぁぁ!!! 全員でやるぞ!!!」
怒りに任せて放った言葉に、特に4人がすぐに反応して動き出す。
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