第40話 反乱軍③

 結局京子は家には帰らず、空き部屋だった隣の部屋に泊まった。

 次の日も俺が起きた時には既に起きていて、朝飯まで準備されていた。

 しばらく話していると、家の外からエンジンの駆動音と、ブレーキ音が聞こえた。


「迎えが来たようだ。......それじゃあ、行ってくるよ」


 昨日の夜のうちに準備をしておいた鞄を手に、まだ心の整理がついていないといった表情をする京子へ言う。


「帰れる時はちゃんと帰ってきてね? 危なくなったらすぐ逃げるんだよ? 帰ってこなかったら許さないんだからね?」


 靴を履き、玄関から出るまで、京子は何度も何度も俺へ「帰ってこい」「生き延びろ」と言い続けた。

 俺が玄関の戸を開け出て、閉めると。

 どさっ。

 という何かが落ちるような音と、鼻をすするような静かな泣き声が耳に入った。

 胸のあたりに、ズキッとした痛みが走ったが、拳を強く握って歩き出す。


「本当にいいのかい?」


 濃い緑色のジープの窓から、北川さんが顔を出している。


「いいんですよ......早く出発しましょう。ここにいると心変わりしてしまいそうです」


「それじゃあ出発しようか。助手席に乗るといい」


 北川さんの言葉通り俺が助手席に座ると、ジープが動き出した。

 電話で連絡があった時はとても驚いたが、北川さんは第一高校の出身らしい。

 校内戦の決勝リーグも見に来ていて、俺達を推薦してくれたのは北川さんだと言う。

 推薦したなら最後まで責任を取れと、俺達の教育係には北川さんがつくことになった。

 知っている人が上官というのは、こちらとしてはとてもありがたい。

 それに加えて北川さんは、戦闘機兵オリジナル機"トール"のパイロットでもある。

 これ以上ない破格な待遇だろう。


「まさか基地案内をした子がこんなに早く戻って来るとは思わなかったよ」


 はははっと、声を上げて笑っている。

 俺自身もまさかこんなに早くパイロットになれるとは、あの時思ってもいなかった。


「他の奴らはもう集まってるんですか?」


「あぁ、他の人が迎えに行っていると思うよ」


 神奈川基地に着くまで、俺と北川さんは色々なことを話した。

 反乱軍の規模や攻撃の頻度、攻撃のレベルなど軍事関係のこと。

 寮での暮らしなどの私生活のこと。

 どうやら反乱軍の攻撃は、最近では更に増してきているようだ。






「相変わらず厳重な警備体制ですね」


 基地に入るためのゲートには、手に物騒な銃を持った軍服の兵士が何人も立っている。

 そのうちの1人が、北川さん側の窓をノックして。


「入基地許可証を」


 北川さんが紙切れのようなものを渡す。


「失礼しました。どうぞお入りください」


 かなりの高さがある、重々しいゲートがゆっくりと開いていく。

 数ヶ月前に見学に来た神奈川基地。

 軍服を着た兵士やどんな施設かわからないような大きな建物は、いつ見ても圧倒的な緊張感を呼び起こさせる。

 思わずつばを飲み込む。


「さぁ着いたよ。君以外の5人は来ているみたいだね」


 兵士の寮と思われる建物の前に、奈々美さん広人、みんなの姿があった。


「それじゃあ改めて、北川 涼平です。今後君達の教育係として、戦闘における基礎を叩き込んでいきます。よろしく!」


 寮の説明や各施設の説明、これから生活し、訓練していく上で重要なことはその日のうちに教わった。

 基地には管制塔や訓練棟など、かなりの数の施設があり、1通り回るだけで日が暮れてしまった。






「疲れたぁ!」


 寮の部屋に入るやすぐに、広人はベッドへ飛び込んだ。

 夏合宿の部屋よりも広く、余裕のある空間が多い。

 それよりも。


「何で俺の部屋にいるんだよ」


「いやぁ? なんか1人であの広い部屋にいるとそわそわしちゃってさ!」


 つまり寂しくなったのか。明日から早速訓練があると言うのに。


「早く帰って寝るんだな。訓練についてこれなくて追い返されても知らないぞ?」


「うっ......それを言われるとなぁ」


 ベッドの上でごろごろと転がっていた広人の動きが、俺の言葉で止まる。

 放っておくと、ぶつぶつと言いながらも部屋を出ていった。

 さてと......。

 俺は京子にメールを送る。


「......今から寝る、あの後ちゃんと家に帰ったか? っと」


 ピロリン。

 ......ピロリン。


「うぉっ。あいつ返事書くの速すぎだろ。なになに? ご飯食べたの? お風呂入って歯磨きもした? ......って母親かよ」


 1人しか居ない部屋で、1人で盛り上がってみたが、相変わらず部屋は静まり返っている。

 広人の気持ちも分からなくもないな。

 ケータイを机の上に投げ置き、広人のようにベッドへ飛び込む。

 意外と気持ちいいんだな、このベッド。


 思っていたよりも体に疲労が溜まっていたのか、気付かないうちに寝てしまっていた。

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