第38話 反乱軍①

 校内戦を総合優勝という形で締めくくった俺達は、表彰されるために、夏休みだと言うのに学校へ来ていた。


「今更ながらいまいち実感が湧きませんね」


「ははは、俺も夢なんじゃないかって思えてくるよ」


 体育館の舞台袖で、俺達6人は名前が呼ばれるのを待っていた。

 表彰くらい夏休み明けでいいのでは、とも思ったのだが、校内戦の総合優勝者はこの後が忙しいらしい。

 なんとなく予想は出来るが、確証はない。

 俺達高校生に国を守れるものだろうか。


 それから間もなくして式が始まり、校長が話し始めた。

 体育館に集まった生徒は、春入学式で集まった時よりも明らかに減っていた。

 3年生や2年生の中には、軍にスカウトされてこの場にいない者もいるのだろう。

 1年生は校内戦を含めた今までの訓練で、自分の才能の無さを知り、自ら訓練校から去るものが多いと聞いた。

 もちろんそれでも訓練校に残り、日々訓練に励んでいる人もいるのだが、人間の心はそこまで強くつくられてはいないのかもしれない。

 それが入学から僅か半年で、30人近くの自主退学者を出してしまった理由だろう。

 今年は校内戦で、俺達Jクラスチームが優勝したので、校内戦後の退学者は例年よりも少なかったらしい。

 俺達に対する期待は日に日に高まっている。

 それが嫌とは言わないが、プレッシャーには少なからずなっているだろう。


 程なくして俺達や上位入賞者達の表彰が始まった。

 そこに五九条の姿はなく、3位以下のチームは全て順位が繰り上げとなっていた。

 校長は五九条のことに関して触れることはなく、ただ「彼は行方不明になっている」と言っただけだった。

 第一高校の校長は軍と繋がりがある。

 いつだったか俺の元へと流れてきた噂をふと思い出してしまった。

 他の人が話している内容が耳に入ってきただけだか、信用できるものじゃないと思っていたが、案外馬鹿にできないのかもしれない。

 どちらにしても彼女には裏の顔がありそうだ。

 それが五九条の一件を握りつぶすという分かりやすい形で表れたのかもしれない。


 表彰式は無事に終了し、体育館にいた生徒達は全員解散したが、俺達6人は校長室へ呼ばれた。

 五九条の件の口止めか、事情聴取か。

 何を言われるのか、緊張しながら俺は校長室のドアをノックした。


「1年J組の茅山 一樹とほか5人、和泉先生から指示を受け来ました」


「......入れ」


 俺達6人は静かに中に入り、腕を後ろで組みドアの前に並んで立つ。

 左右にあるガラスケースの中には、いろいろな形、大きさのトロフィーや楯、表彰状が飾られている。

 右側のガラスケースの上の壁には、長いひげを携えた男性の写真がかけてある。おそらく前の校長だろう。


「そこに座っていてくれるかい?」


 指示通りに、透明なガラステーブルを挟む2つのソファーに分かれて腰を下ろした。

 俺達の座ったさらに奥には、パソコンの乗った大きな机があり、背もたれの高い椅子には校長が座っていた。

 肘をついている校長の横には、和泉先生が立っている。

 今日話される内容も知っているのだろうか、とても不安そうな顔をしている。


「彼が来るまで少し待っていてくれ。......そんなに固まる必要は無い。リラックスしていて構わないよ」


 校長は横にいる和泉先生にお茶を入れるように言い、少し経って和泉先生がお茶を運んできた。


「何を言われても、自分を一番大切にしてね......」


 お礼を言った俺の耳元で、和泉先生は聞こえるか聞こえないかぐらい小さな声でそう言った。

 何を言っているのか、と聞きたかったが、校長室のドアが荒々しくノックされたのでその疑問は解決されなかった。


「失礼します。戦闘機兵隊最高責任者、神崎かんざき 啓二けいじです!」


「どうぞお入りください」


 筋肉で今にもはち切れそうな黒いスーツを着ている、屈強そうな男が入ってきた。


「ほぅ......君達が......」


 本人にその気はないのだろうが、彼、神崎さんは俺達を睨むように眺めて。


「はっは! こんなに小さな子達がねぇ......! いやぁ、関心関心!」


「いだっ! いだだ!」


 大きな声で笑いながら、広人の背中を叩く。


「神崎さんそろそろ本題に」


 肘をつき、目を瞑っていた校長が、目をゆっくりと開けた。


「そうですね......では、そろそろ」


 笑っていた時とは一変して、真剣な表情になる。

 焦らすように時間を置いて口を開く。


「回りくどい言い方は好きではないので、率直に言います。君達に戦闘機兵のパイロットとして、軍に入って欲しい」


「へ......?」


 あまりにも唐突すぎることに、言葉が出なかった。


「現在日本軍は、力を溜めてきた元東側諸国軍の残党、俺達が反乱軍と呼んでいる奴らが数ヶ月に1度くらいのペースで攻めてきているんだ。それに対して日本軍のパイロットは減ってきている。もちろん危険はあるが、是非一緒に国を守って欲しい」


 反乱軍? 軍のパイロット? 国を守る?

 話が大き過ぎる。

 和泉先生の言っていた言葉の意味が分かったが、こんな話そうそう回ってくるものでもない。


「すぐに返事をしてくれとは言わない。もちろん仕事に見合う給料も支払わせてもらう。少しでいいから考えてくれ......!」


 俺達は目を合わせ、頷き合う。


「考える時間はいらないですよ。もう答えは決まってます」


 俺はもう1度、5人全員の目を見直し、神崎さんへと視線を移す。


「答えはもちろん......イエスです。僕らは戦闘機兵のパイロットになるために訓練をしてきたんですから、こんなチャンスは無駄にはできません。僕らの力でよければよろしくお願いします!」


 俺は、俺達は長年の夢、戦闘機兵のパイロットになることになった。

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