第37話 校内戦決勝リーグ⑨
「おい、五九条。奈々美さんの痛覚を今すぐ切れ」
『......君は面白いことを言う。それではゲームにならないじゃないか』
五九条の言葉を無視して、俺はさらに続ける。
「これはお願いじゃない。......命令だ。今すぐ奈々美さんの痛覚を切れ。これが最後だ」
『ふふっ......ふははははは! 命令? 君はこれまでの力の差を見てもまだそんなことを言えるのかい?』
手を叩いて笑いこけている五九条の声色が、真剣なものへ変わった。
「そうか......残念だ」
『......ふん。流石の僕も少し頭にきた。君にも同じ思いを味わってもらおうか』
五九条がそう言うと、全身を焼かれたような痛みを感じた。
どうやら俺の痛覚もオンにされたらしい。
「......っ! ......おい、殺られる準備は出来ているんだろうな五九条!」
『はっ! 強がるなよ? お前は今、すぐにでも叫び出したい程の痛みを感じているはずだ』
心臓が鼓動する度に走る痛みを、唇を血が滲むほど噛み締めて耐える。
痛みと怒りで、頭が沸騰してしまいそうになる。
「いくぞ、五九条!」
『いいだろう、遊んでやる!』
同時に踏み出した俺のソードと、五九条の太刀がギリギリと音を立ててぶつかる。
後ろへ押される。
『ははは! 大口を叩いておいて随分貧弱じゃないか!』
力では負ける......か。
少し引いて、もう1度ソードを振るう。
またしても弾き返される。
止められても、止められても、何度止められてもとにかく闇雲にソードを振るい続ける手をとめることはしない。
......もっと! ......もっと速く! ......もっともっと速く!
徐々にソードを振るう手が速くなっていくことに気がついた。
「うおらぁぁぁ!」
『くっ......ここにきてまだ速くなるのか!』
俺の機兵が、ぼんやりと青く光り輝く。
見える......! 動ける......! 俺の思った通りに!
圧倒的なスピード、圧倒的なパワー、圧倒的な判断力。
これが《オーバードライブ》か。
『......なぜだ! なぜスーツも着ていない落ちこぼれにそれが使える! 認めん。俺は認めんぞ! あぁぁぁ!』
五九条が太刀で突いてくるが、今の俺にはとても遅く見える。
躱すことなど容易だ。
俺は五九条の漆黒の機兵の、手足の関節に次々とソードを振るう。
性能の悪さから、切り落とすことは出来なかったが、手足を無力化するには充分だった。
『ぐあぁぁぁ! 痛い痛い痛い!』
「何を言っている? お前が奈々美さんに与えた痛み分も、全てお前にも受けてもらうぞ」
壊れた漆黒の機兵の破片が、跳ね返って俺の機兵に突き刺さるが、アドレナリンが出ているのか痛みを感じることはなかった。
『いやだぁぁぁ! もうやめてくれ! 僕の負けでいいから! あの女の痛覚も切る! だからやめてくれぇ! 死んじゃうよぉぉぉ!』
「黙れ! お前は絶対に許さない! ここで死ね!」
俺が五九条の機兵の首に、ソードを突き立てようかという時。
モニターに「Timeup」の文字が表示され、操作不可となった。
「......くそっ! あと少し、だったのに......!」
操作盤を思い切り殴り、頭を抱える。
操作が不可になった代わりに、観客席の音が聞こえてくる。
短いようで、長かった30分が始まる前に聞いた声。
『激闘の7日間を勝ち抜き、校内戦総合優勝を果たしたのは......! なんと! 学年最底辺とも呼ばれたJクラスチーム、ビューティフルフラワーです!』
そのアナウンスに、会場は拍手の音と、驚きの声で溢れかえっていた。
よく良く考えれば簡単な話だった。
校内戦のルールでは、勝利条件は敵の全滅か、30分の制限時間が終わった時に生き残っていた機兵の数が多い方と決められている。
五九条は1人でチームだと言っていたから、逃げていれば勝ちだったのだ。
どっちにしても戦っといて良かったと思ってはいるのだが。
「......へ? なんだこれ? あぁ、鼻血か......」
緊張が解け、両の鼻から鼻血が垂れてきた。
そして体中が痛み、意識が遠くなる。
今日は疲れすぎた......。
そのまま眠るように意識を失った。
後から聞いた話では、奈々美さんも同じく気を失っていたらしい。
校内戦の表彰式には、4人で出席。
無事校内戦を終えたと言っていた。
最後の試合が終わってから、五九条がどうなったか細かくは知ることが出来なかったが、退学どころか、法に触れるものを持っていたので恐らく刑務所送りだろう。
病院のベッドで目を覚ました時、報道メディアの人達が俺を質問攻めにした。
彼らが聞きたいのは、最後の試合のことや、なぜ俺達がJクラスに収まってしまったかだが、五九条の事に関しては触れないでおいた。
校内戦も終わり、8月の太陽が日本を照らしている。
暑さは消えることはないが、俺達には少しばかりの平和が訪れると、そう思っていた、そう願っていた。
しかし、そう長く俺達の平穏は続くものではなかった。
その日が来てしまうことを、日本国民全員が恐れていた。
『空襲警報発令! 空襲警報発令! すぐに最寄りのシェルターに隠れてください!』
静かだった街に、スピーカーから警告音が鳴り響いた。
夏はまだ終わらない。
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