第35話 校内戦決勝リーグ⑦

「おい......お前、その装備はなんだよ......!」


「見たことのない職種ですね......というか、あいつには聞こえてませんよ」


「あ、あぁ、そうだったな」


 遠くから見ただけで、俺は残り1人の持っている銃からガンナーと判断したが、どうやら俺達の知らない職種のようだ。

 装甲はガーディアン並に分厚く、腰にはアサシンの使う短刀や飛びナイフ、ウォーリアーやスナイパーのように爆弾系も携えている。銃はサブマシンガン、背中には機兵と同じくらいの大きさの太刀をかけている。

 そして、何より特徴的なその機体の色。

 全てを吸い込んでしまいそうな、黒い機体。

 その姿は死を運んでくる、まるで戦場の死神のようなオーラを感じる。


「どんな攻撃をしてくるか分からないな......少し距離をとろう」


「そうね、あれは今までのよりもやばい感じがするわね......」


 全員がそれぞれ漆黒の機兵から距離をとり、武器を構え、囲むように位置どる。

 まず動いたのは、奈々美さん。

 両腰から抜いたソードを、右から振るう。

 漆黒の機兵は腰を落とし、少し抜いた太刀でその攻撃を受ける。

 地に足をつけた奈々美さんは、すかさず左下から上げるようにソードを振るう。

 勢いのあるその2本のソードを、左腕の装甲だけで弾き返す。


「なんて反応速度なの......!」


「奈々美さん、下がって!」


 俺と桃咲が同時に突っ込む。

 縦に一刀。横から拳。

 だが、漆黒の機兵は軽々と受けきってしまった。

 俺は1歩引いてソードを突き立てる。

 その攻撃を避けるために、漆黒の機兵は後ろへ跳び上がった。


「広人!」


「待っていたぜ! 任せろ......っ!」


 漆黒の機兵の背中を目掛けて、広人がライフルを構える。

 600mは離れた距離からの、死角への攻撃。流石によけられるはずは......!

 ガーディアンの装甲をも砕く弾丸が、一直線で飛び行く。

 だが、それさえもそいつには届かない。

 空中で回転した黒い塊は、背中の太刀を抜き切り、一振り。広人の放った銃弾を真っ二つにした。

 そして、止まることなく、地面に足をつけると踏みしめ、腰のナイフを勢いよく飛ばす。


「広人! 危な」


 弾丸にも匹敵するであろう速度で飛んでいったナイフは、回転しながら広人の首を体から引き離した。


「化け物かよ......」


 広人の通信はそこで途絶えた。


「くそっ! 何なんだよこいつは!」


 その時、操縦席に耳の痛くなるノイズが鳴った。


『......っ』


「なんなのこのノイズは......!」


「耳が痛くなります!」


「......うぅ......!」


 次第にそのノイズがハッキリと聞こえるようになり、それが声だと気付いた。


『君達に勝ち目などない。諦めて降参したまえ』


 は? 何を言っているんだ?

 というか何故通信を繋げているのだ?

 分からない。この声は誰だ。

 いや、声の主は恐らく目の前の漆黒の機兵だろうな。


「おい、誰だが知らないが、まずは名前を名乗ってもらおうか。次に通信を繋げている理由。最後に、他の5人はそこまで強くなかったのに何故ここまで来れたのか、だ」


『質問が多いな......だが、いいだろう。特別に答えてやろう』


 高くもなく、低くもない、頭に響くような声。

 だが、確実にその声は男だった。


『まずは名前だ。僕はAクラス、五九条ごくじょう 龍雅りゅうがだ。次に通信だが、それは簡単だ。僕はこの試合が始まってすぐに、君達の通信に入り込んだだけだよ。最後の質問は、それこそ愚問だね。このチームは、ヘルハウンドは僕1人だけだからだよ』


 いよいよ俺はこいつが、五九条という男が何を言っているのか分からなくなってきた。


「ヘルハウンドがお前1人? それはおかしな話だ。俺達はお前を含めて6機を相手にしてたんだぞ?」


『えぇ、ですからそれは全て僕が動かしていたと言っているんですよ』


 1人で6機の機兵を操るなんて、聞いたことがない。

 出来る出来ないなどではない。

 そんなこと出来るはずがないのだ。

 機兵1機に対して、操縦席は1つ。

 6機を同時に操るなど出来たものじゃあない。


「それは不可能です。1人で6機など......」


 クラス長も気付いたようだった。

 男は動揺することもなく続ける。


『それが不可能ではないのだよ。もちろん生身では無理だろうがね』


「どういう意味だ?」


『意識を機兵の中に入れ込むんですよ。元々戦闘機兵オリジナル機は、適応できるかどうか、パイロットの心を読むのだ。それを応用して、意識を仮想空間に移動させて、反応速度を大幅にあげる技術だよ』


 意識を仮想空間に......?

 そんなことをすれば......!


「痛覚まで移動するんじゃないのか?」


「一樹くん? きちんと説明をしてくれるかしら?」


『そうだな。痛覚を遮断することは出来なかった。今の機兵の体は、俺の体とリンクしているのだ。機兵が傷つけば、その痛みが全て伝わってくる』


 痛覚が直に伝わる環境下での戦闘機兵の操縦は、オリジナル機を除いて全面的に禁止されている。

 オリジナル機では、痛覚が自動的に繋がれてしまうため、仕方がないのだ。

 だが、訓練機や増産機では痛覚を含めた、意識の移動。

 《オーバードライブ》を使うことは軍などでは罰則になることもあるのだ。

 もっとも、使えるのものは限られた人間だけなのだが。


「お前は意図的にオーバードライブを使えるというのか?」


『正確にはスーツだ。このスーツが意識の支配権の場所を変える』


 思わず苦笑いをしてしまった。

 こいつは頭のネジが外れている。

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