第34話 校内戦決勝リーグ⑥

 まずは1人だ。

 奈々美さんは......。


「......くっ! なんて硬さなのかしら」


 振り向いた俺は思わず息を飲んでしまった。

 奈々美さんはガーディアンを倒すどころか、むしろ押されているようにも見えた。

 盾役タンクに比べて、装甲の薄いウォーリアーはガーディアンの思い1発をくらうだけで、恐らく致命傷になるだろう。

 奈々美さんはくらわないように避けているが、それもいつまで続くか......。


「奈々美さん、今救援に!」


「いらないわ!」


「えっ?」


「あなたは桜井さんの方に行って! 彼女は片腕だけで戦っているのよ!」


 春奈が受けた損害はかなり大きかった。

 関節部分の機能は全て停止していて、腕を上げることさえできない状態だったため、春奈はそれを切り捨てた。

 だが、春奈の職種はナイト。

 盾を持たないナイトなど、ウォーリアーよりも防御が弱い。


「分かった! 奈々美さんも頑張って耐えていてくれ!」


「あなたが次に来た時に立っているのは私だけよ」


 強がっていると分かっていても、今は奈々美さんの言葉を信じるしかない。

 俺は走って春奈を最後に見たポイントへ向かう。

 通信を切り替える。


「春奈! 聞こえたら返事をしてくれ!」


「......」


「......くそっ! 近くに行かないと状況が分からないか!」


「......」






「飯島くん、こっちのフォローは出来そうですか?」


「すまんクラス長! どうにもあいつの銃の方が精度が高いようで、ここからじゃあクラス長の相手に照準が上手く向けれない!」


「そうですよね、いえ、自分でなんとかして見せます! こういう時のために訓練してきたのですから!」


「よっしゃあ! クラス長! 俺も頑張るぞ!」


 広人が寝転びライフルを構える。

 スコープを覗き込み、同じくライフルを構えている、ビルの向こうの敵へと銃口を向けた。

 トリガーに指をかけ、落ち着かない心臓の鼓動に一息つく。

 トリガーを引く......!

 銃弾は空を切り、進む。

 着弾。

 当たったのは敵のスナイパーの肩。致命傷にはなり得ないが、これがこの試合初めて当たった弾だった。

 が、止まっている敵に当てやすいように、相手も止まっている広人を狙うのは当然だ。

 同じく放たれた銃弾は、同じく肩に当たった。


「くそっ! ......こうなったら!」


 2人は場所を動かないどころか、その場に寝たままライフルを撃ち合う。

 何発か撃ち、リロード。また撃って、リロード。


「5発か」


 それは装弾数。

 広人の持つスナイパーライフル「アヴァロン」の装弾数は7発。

 このままいけば......!


「ここだ!」


 狙いすました1発が一直線で目標へと飛んでいった。


「飯島くん、ブラボーです!」


 銃弾はマガジンが無くなり、銃を撃てなくなったスナイパーを貫いた。

 スナイパーの機兵が持つマガジンの数は、平均して3つ。

 同じペースの撃ち合いをしていれば、先に無くなるのは装弾数の少ない方なのだ。


「クラス長! 大丈夫か! 俺も行った方がいいか?」


「いいえ! 飯島くんの弾も無限ではありません。ここで使ってしまっては終盤が厳しくなります!」


「くっ! ......分かった、信じるよクラス長」


 クラス長が戦っているのは、ウォーリアー。

 ガンナーのクラス長とは、お世辞にも相性がいいとは言えない。

 しかしながらクラス長は、そんな状況でも対応できるようにデモ機を使って自主トレーニングをしていた。

 だから、きっと......。


「さぁ! どこからでもかかってきてくださっても構いません!」


 ウォーリアーが動き出す。

 右手に持ったソードを、仮想空間とも思えない忠実に再現された青い空に掲げて、クラス長へと切りかかる。

 クラス長は後ろへ跳ぶ。

 ウォーリアーの一撃を躱したクラス長が銃を構え、トリガーを引く。

 何発か当たったが、数が多い分威力の低いサブマシンガンでは致命傷を与えることは出来ない。


「左......右......前に跳んで首元への突き......」


 ソードを振るい続けるウォーリアーの攻撃を、クラス長は全て躱していく。

 そして躱した後に安全な位置から銃を撃つ。

 何度も、何度もそれを繰り返す。

 1発がいくら軽くても、それを100発くらえば致命傷にもなり得る。

 ウォーリアーは1歩後ろへ下がり、再びその赤く発光する粒子振動型ソードを構える。

 ウォーリアーが動き出すよりも早く、クラス長は腰に付けたホルダーから投げた。

 スモークグレネード。

 煙が充満した空間で、ウォーリアーは周囲を警戒するように動きを止めた。


「それじゃあ場所が丸分かりですよ!」


 クラス長にも見えていないと言っても、機兵が動く時に出る独特の金属音が聞こえなければ、その場に留まっていることは容易に予想できる。

 背中にかけたサブマシンガンを左手に取り出し、クラス長は両手の銃のトリガーを引いた。

 煙を切り裂いて銃弾は降る。

 防御に適していないウォーリアーの装甲が剥がれるのは、一瞬だった。


「や、やった! やりましたよ飯島くん!」


「あぁ! やったなクラス長! 俺も涙が出るぜ!」






 俺達は訓練を積んできた。

 自分の使う職種の1番苦手となる職種とも対戦を重ねてきた。

 俺達のチームの中で、ずば抜けて戦闘能力の高い奈々美さんと桃咲が苦手職種というだけで負けるわけがない。

 心配することも必要としていない、と言わんばかりの強さで敵を圧倒した。

 後は春奈だけだ。

 腕が片方ない彼女が今1番危ない。

 俺達は合流しながら春奈の元へと急いだ。


「春奈! もう通信圏内だろ! 返事をしろ!」


「......ごめん。一樹、みんな、後はよろしくね......」


「春奈?」


 マップの、春奈の点へ着いた時には遅かった。

 装甲は剥げ落ち、四肢はもがれ、見るも無惨な姿の春奈の機兵がそこにはあった。

 強制ログアウトになるまで、春奈は泣きながら何度も謝っていた。

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