第33話 校内戦決勝リーグ⑤


 試合開始から約5分が経っただろうか。

 未だ俺達は防戦一方だった。防御と言っても飛んでくる凶器を、ただただ交わし続けるというものだ。


「くそっ! このままじゃあすぐに殺られてしまう!」


「青葉、飛んできてるやつ耐えられる?」


「多分......3本が......限界......」


 ガーディアンの装甲はどの武器種よりも頑丈に造られている。

 それでも一度空に舞った刀は、勢いを増して落ちてきているのだから、そう何本も止められるはずがない。


「広人そろそろ着いたか?」


「着いたは着いたんだけど、ここからじゃあ敵影は確認出来ないな」


「刀を飛ばしてきた場所を特定出来れば十分だ」


 正直に言って広人の狙撃は当たらないだろう。

 それは広人の腕が良い悪いの話ではなく、相手が悪すぎるのだ。

 機兵がすっぽりと隠れることの出来るビルを背に、操縦席内のモニターを操作する。

 右下にあるマップを拡大表示する。

 仲間の位置が緑色の点で散らばっている。

 クラス長と広人を除いた全員がそれぞれ等間隔に、つまりばらばらになってしまっていた。

 それに気付いた時はもう遅くて、そんな単純な手に引っかかるとは思っていなかった。


「春奈! 桃咲! すぐにそこを離れろ!」


「え? 一樹?」


「いいから早く逃げろ! 刀の雨は俺達をばらばらに引き離すための罠だったんだ!」


 マップの2人の点が移動し始める。

 遅かったか......!

 移動していたはずの点が止まった。


「遅かったみたい......敵は1機みたいだし応戦するね」


「私......も......」


「すぐに救援を! ......って行かせてくれるわけもないよな。救援はなし、各個に撃破しろ!」


 救援に向かおうとした俺の前に、ガーディアンが1機立ち塞がる。

 ソードを使う俺にとって、装甲が厚く、刃が通らないガーディアンは戦いにくい。

 なんて運が悪い......いや、これも罠のうちか。

 俺のところにも来たということは、広人達の方にも行っているのだろうな。

 こういう時にとる手段は簡単。


「逃げる......っ!」


 俺はガーディアンに背を向けて、駆け出した。

 ふっと視線を上げると、広人と相手のスナイパーが500mほど離れた位置で撃ち合っているのが見えた。

 進行方向ではクラス長がナイトと戦っている。

 向きを変えて、ショッピングモールの立体駐車場を駆け上がり下を見ると、桃咲とアサシン、春奈とガンナーが少し離れた位置で戦っているのが見えた。


「まだ追ってきているな......」


 そして、奈々美さんがいるのは......ここだ!


「奈々美さん! チェンジ!」


「......っ! 分かったわ後ろのはよろしく一樹くん!」


 奈々美さんの相手をしていたのはランサー。

 二刀流とはいえ長さは普通のソードと同じなので、槍の長さを考えれば不利だろう。

 対して俺の職種は戦士ウォーリアー

 一見ソードしか持っていない、弱い職種に思われがちだが、投擲とうてき武器や罠を幅広く所持できるのはウォーリアーだけだ。今は持っていないが、小さめの盾や、ボウガン、弓、銃なども扱うことが出来る。

 よってリーチの足りないランサーに、対抗手段があるのだ。


 すれ違った奈々美さんを追おうとするランサーを、俺が横から蹴り飛ばす。


「お前の相手は俺だ!」


 背中で金属と金属が触れ合う音が聞こえた。


「はぁあっ!」


 左に一振り、右に一振り、目にもとまらぬ速さで奈々美さんは刀を振るい続ける。

 装甲の分厚いガーディアンは、動きが遅いため、奈々美さんの剣舞を突破することは出来ないどころか、徐々に刀傷が増えていく。

 装甲にソードがぶつかり、火花が散る。


「やはりまだ動けるか!」


 俺の蹴りを受け、壁に激突したランサーが突いてきた槍を躱す。

 長くて扱いづらい槍を軽々と振り回し、踊るようにして突いてくる。

 まずは目を塞ぐ。

 腰のホルダーからスモークグレネードを取り出し、ランサーの足元へ投げ付ける。

 不意をついたスモークグレネードに、ランサーは反応することが出来ず、ランサーを中心に煙が立ち込める。

 次は俺が目を得る。

 サーマルゴーグル。

 これもウォーリアーの特殊能力の1つ。モニターにランサーがハッキリと浮かび上がる。


「動いても無駄だ」


 俺はランサーの進行方向に合わせて、スモークグレネードを追加で投げていく。


「終わりだランサー!」


 俺が装備した全ての投擲火薬系武器を、煙の中へ投げ込む。

 一瞬間の後、凄まじい音と光を放ちながら爆発する。

 床も天井も破壊して、ランサーは落ちていった。

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