第30話 校内戦決勝リーグ②
「まずは半減された攻撃力を補う方法だが、一応俺が考えたものでいいか?」
「一樹くんに全て任せるわ、
「前なら聞いてから考えましたが、今の茅山くんならいい案が出てそうです。それでいきましょう」
「俺はなんでもいいぞ! 何をすればいい?」
夏合宿前半が終わって、ゆっくり休める3日間俺は何もしてこなかったわけではない。じっくりと頭を冷やしていたのだ。
冷えきった俺の頭には、その場その場の最適案が色々な角度から湧いて出てくる。
「それで、その案ってどんなのなの一樹?」
「ああ、それはな......」
「......って作戦だ。みんな理解したか?」
「なるほど。......確かにそれが出来れば勝てるかもしれないですが、相当難しいですよ」
「そうね、成功率はとても低いわね」
俺の考えうる最善策を説明したが、その賭けのような作戦に一同が考え込む。
「これが俺達がBクラス『ヘブンズゲート』に勝つ、最善の方法だと思っているぞ」
「私達にはそれ以上の案は浮かばないから一樹に任せたのだけれど、流石に成功率が低過ぎるような気がするわ。飯島くんが殺られた時点で作戦は終了してしまうし......」
そう、この作戦の
だから......
「だから広人には俺と奈々美さんがつく。それでもダメかな?」
「ダメ......じゃないけど」
珍しく奈々美さんが歯切れの悪い返事をする。
奈々美さんなりにチームを思ってのことなのだろう。
しかし、それではこの話し合いは進まない。戦闘はすでに始まってしまっているのだ。いつ襲われてもおかしくない。
すると、珍しく空気を読んだ広人が機体を1歩前に出して振り返る。
「俺は一樹の作戦に賛成だ! どのみちここじゃあ俺はろくに活躍ができないからな、だったらその作戦で俺の仕事をこなすよ!」
「飯島くん......」
特にそういう意図があったわけではないのだろうが、というか広人にそんな気遣いが出来るとは思っていないが、上手く話がまとまったのでその時ばかりはほんの少し広人が大きく見えた。
この作戦で要の広人にはプレッシャーがかかってくるはずなのに、それを一切感じさせない勢いのある発言だった。
「よし! 飯島くんの言う通りですね、僕達が出来ることを今やりましょう!」
「よーし、やっちゃおー!」
「頑張る......」
「ありがとう、みんな。......全員作戦開始!」
俺の言葉とともに6人がバラバラに行動を始める。
春奈と桃咲は俺達が最初にいた位置から北東と北西、つまり敵のいる北の位置を挟むようにして斜めに進んでいく。俺の指示通りその装甲と盾で木を倒しながら。
クラス長は最初の位置から真っ直ぐ北へ、こちらは木を避けながら進んでもらった。
広人には最初の位置を何があっても動くなと、奈々美さんは俺についてくるようにと指示を出した。
「一樹くん、本当にこれで勝てるのかしら? 沖津くんが1人で鉢合わせてしまう心配があるのだけれど」
「クラス長は頭がいいから、分が悪いと思えば戦わずにやり過ごす方を選ぶから大丈夫だよ」
戦闘開始のアナウンスからもうすぐ10分が経過するが、未だに誰も敵に遭遇していない。相手もこちらの動きを伺っているのだろう。
勝負が決まるのはとても早いが、始まるまでは慎重に、じっくりと待つことも大切だ。
「そういえばさっき一樹くんの指示した通りに、飯島くんの前に大量に設置したものって......」
奈々美さんが言いかけた、その時。スピーカーからノイズが聞こえた。
誰かが通話を起動したらしい。
「一樹! 狙い通り音につられた敵と遭遇! 1人だけど殺っていいの?」
北東へ進んで行った春奈からだった。
「いや、相手がどんな武器を隠しているか分からないし、2人目の応援が来るかもしれない。春奈は
リカバリー。機械は人の体と違い、動きと動きの間に少なからず時間がかかってしまう。これは機械の繋ぎ目の問題で、本来パイロットにどうにかできるものではない。
奈々美さんのようにそれも計算に入れて動く例外も存在するが。
そしてそれは攻撃を受けた時にも同じようにリカバリーが発生する。悪い体制に追い込まれれば、それだけ多くのリカバリーが必要になるということだ。
「了解! 5秒後にでかいのつくるよ!」
「広人、聞いてたな! 北東に5秒後だ、合わせろよ?」
「誰に言ってんだよ! 天下無敵の飯島様だぞ!」
春奈が倒して行った木は、その音で敵を誘うだけが目的ではない。
今の広人には春奈と戦闘中の敵が、遮るもの無く一直線に見えているだろう。
「今だ! くらえぇぇぇ!!!」
広人の持つ、機兵の大きさより少し小さいくらいのライフルから銃弾が飛び出す。
リカバリーで動けないその機体には避けようがない。
撃ち出された銃弾は迷うことなく春奈の横の機体に直撃する。
俺のモニターの右上に、「EnemyKill」の文字が映った。
「しゃぁ! ワンキル!」
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