第28話 校内戦⑤

「予選Cブロック優勝は、Jクラス6人チーム『BeautifulFlower』!」


 3回戦、4回戦と俺達は何とか勝利することが出来た。

 4回戦、つまり予選ブロック決勝では俺を含め、前衛の盾役タンク職が全滅してしまった。しかし時間ぎりぎりで奈々美さんが3キルし、何とかブロック優勝を果たすことが出来た。

 決勝リーグは合宿後半で、学年全員が見ている目の前で行うらしい。


 課題は多く残っているが、とりあえず今は休みたい。

 表彰式が終わった後、俺はすぐに合宿所へ戻り眠りについた。


 その日、久しぶりに懐かしい夢を見た。





「うわぁぁぁん!!!」


「あらあら、沙織泣かないのよ。ほら水で洗って、痛くないよ〜」


 ここは......?

 春なのだろうか、日差しは強いがそこまでの暑さは感じない。日陰にいるのも影響しているのかもしれないが、葉と葉の間から落ちてくる太陽の光には優しい暖かさを感じる。

 俺が座っている少し先で、綺麗な女の人と少女が走り回っていた。転んだ少女の頭を軽く撫でながら、擦りむいたであろう膝に絆創膏ばんそうこうを貼っている。

 少し大きな公園だ。


 あぁ、これは夢だ。


 俺はその光景を見て、そんな簡単な結論を出した。

 だって夢じゃないはずがない。

 俺の母親は死んだ。沙織も死んだ。第三次世界大戦で俺は何もかもを失ったんだ。夢以外に他に何かあるわけがない。


「お? どうした一樹、母さん達と遊んでたんじゃないのか?」


 思い出した。この後俺は......


「ちょっと休んでたんだよ、父さんはトイレ?」


「まぁ、そんなところかな」


 確かこの1週間後に父は軍に徴兵された。


「さ、一樹も母さん達と遊ぼう?」


「うん!」


 俺の少し前を歩く父親が伸ばした手を握り、駆け出した。


 楽しかった。

 走って、転んで、笑って、家族で遊んでいられる日常が楽しかった。

 けれど終わりは突然に訪れる。

 第三次世界大戦。

 今でも鮮明に覚えている。町内に鳴り響く警報の音。悲しみに泣き叫ぶ人。全てを蹂躙する兵器に焼き尽くされる故郷ふるさと

 結局無力な俺は何1つ守れないまま、惨めにも生き残った。


「あ、あぁ、あぁぁぁ!!!」





 ゆさゆさと肩の辺りを揺られるような感覚で目を覚ました。

 俺の枕元には何故か京子がいた。


「かずくん!? 大丈夫? 大分うなされてたけど?」


「なんて酷い顔してるんだよ......」


 俺は京子の頬に軽く手を触れた。頬の上から流れ落ちてくる水滴が俺の手に乗っかった。


「かずくんの方が酷い顔してるよ?」


 京子は髪が涙でへばりついている顔で微笑んだ。

 その後ろには奈々美さんが立っている。

 やっと納得した。同じクラスでもチームでもないのに、何故京子が俺達の部屋にいたのか。


「......奈々美さん、京子もだけど、心配かけてごめん」


「そんなことはどうでもいいわ。とりあえず一樹くんは顔を洗ってきなさい。本当に酷い顔してるわよ?」


 あぁくそったれ。

 校内戦の決勝トーナメント進出を決めたっていうのに、こんなんじゃ足を引っ張ってしまう。

 3回戦も4回戦も俺は開始10分以内にキルされてしまっていた。キルされた後は他のメンバーとの通信は切断され、指揮役の俺がいなくなった他のメンバーはかなり焦っていたらしい。

 ふぬけた指揮を出していた俺がいなくなったからこそ勝てたのかもしれないのだが。


「うわ、本当に酷い顔してるな俺」


 鏡に映っている人が全く知らない別の人間に見える。

 寝ている時にかいた汗で激しく寝癖がついて、自分で見ても人相が悪い。

 洗面台に水を張り、顔を数回洗う。そして頬を両手で叩く。


「よし! 切り替えよう」


「どうやらもう大丈夫そうね、次はちゃんと頼むわよ?」


 洗面所の扉から奈々美さんが覗いている。ここ1週間くらいはずっと迷惑かけっぱなしだったな。今度何か奢ろうかな。

 自分でもびっくりするくらいに、さっきまでつくれなかった笑顔が出てきた。


「あぁ本当に心配をかけた。後であいつらにも誤っとかないとな」


「まったく......そうね、一緒に謝りに行きましょう」


 俺と奈々美さんが部屋を出ようとした、その時後ろから呼び止められた。


「かずくん! 遅れたけど、ブロック優勝おめでとう!」


 俺は心臓の鼓動が速くなった気がした。

 16年間いつも横にいた幼馴染。

 その性格と言動ゆえに今まで意識していなかったが、今の京子は女の子の顔だった。

 正直言葉が出てこないほどに、可愛い。


「かずくん?」


「ん? あぁ、ありがとう。お前の分まで頑張るよ」


「うん! このまま校内戦全体優勝だぁ!」


「ふふ、簡単に言うなよ?」


 一瞬で今までの京子に戻ってしまった。

 それでもやっぱり俺は京子のことが......


「一樹くん? どうしたの?」


 俺の視界の中に、奈々美さんがフレームインしてきた。


「何でもないよ。それじゃあ行こうか」

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