第26話 校内戦③

「水無さん......」


「茅山くんか......恥ずかしい所を見られてしまったな、あは、あはは......」


「全力で戦ったんだけどな〜」


 Cクラスの、それも強い方のチームが負けるとは思っていなかった。いかにAクラスの実力が本物かが分かり、同時に俺達との実力差を思い知ってしまう。

 FAIRYKNIGHTSのメンバーは本当に悔しそうな表情をしている。これが校内戦、これが生き残りのトーナメント戦だ。負ければそこで全てが終わり、勝ったチームが残ってゆく。


「茅山くん達なら勝てるから、私達の分も勝ち残ってね......?」


 水無さんは軽く微笑みながらそう言ったが、その目は俺を見てはいなかった。


「かずく〜ん! ......ってあれ雪乃?」


 走って来た京子がその後にも何か言おうとしていたが、流石の脳天気でも容易に察しがついたのだろう。京子は言おうとした言葉を途中で飲み込んだ。


「かずくん達は勝った......?」


「あぁ、勿論だ。その口ぶりじゃあ京子も勝ったのか?」


 母親に褒められた子供のような無邪気な笑顔を浮かべながら、京子は勝利報告をしてきた。

 こいつはわざわざ俺を探してまで勝ったことを伝えたかったのか......メールすれば良かったものを......


「京子さん、喜ぶのも良いけれど次の試合はもうすぐ始まるわよ? チームメイトも探してるんじゃないかしら」


「えっ? あっ、着信履歴がこんなにいっぱい......」


 京子は残念そうな顔をしながら走って行った。

 なんとまぁ忙しい奴だ。


「さて、僕達も次の試合の準備をしましょうか。あと4回勝てば優勝ですよ」


 4回、数にしてみれば少ないように思えるが、ここから先は強豪チームがひしめき合うそれこそサバイバルとでも言うべき試合が続くだろう。だが、4回だ。いくら最底辺とは言え4回勝てば必ず優勝出来るのだから、そう考えれば気持ちは楽になる。


『校内戦盛り上がってますか〜! 次は各チーム2回戦用意はいいかな......? それじゃあ全員ログイン開始だぁ!』


 次の相手はEクラスチーム「桜花水月おうかすいげつ」だ。Cクラスよりは弱いと信じているが、それでも半分よりも上にいるクラスだけあってそれなりの実力のあるチームと言える。1回戦の映像を少しだけ見たが、全員近接戦闘武器種を使ういわゆる脳筋チーム。近接戦闘は攻撃を受けるリスクは高いが、1発のダメージがかなり大きいため、案外厄介だったりする。


「広人、クラス長、援護早めに頼んだぞ」


「おう! 任せとけ!」


「分かりました、抑えてもらえれば後ろからやりますよ」


 今日の俺の武器種は盾持ち剣士ナイト。近接戦闘武器種、拳闘士ボクサー全装甲ガーディアンの攻撃を受けるにはソードでは少々頼りないため、前に使った盾役タンク職の中で使いやすかったナイトを選んだのだ。

 これでこちらのチームの盾役タンクは3人になったので、防衛に関しては少しばかりの足しになるだろう。


『よう最底辺共。惨めな姿を晒したくなけりゃ泣いて謝ったらそれなりに手を抜いてやってもいいぞ?』


 ゲラゲラと意地の悪そうな笑い声が操縦席のモニターから聞こえた。

 オープンチャンネルか......

 実力が半端な奴ほど下のヤツを馬鹿にして自分達の地位を守ろうとするものだが、典型的な挑発だな。


「くっ! Eクラスの奴ら......!」


 広人の悔しそうな声が聞こえた。


「一樹くん我慢しなくてもいいわよ? 私達の準備は出来ているわ」


 続いて奈々美さんの声。

 全く俺に何を期待しているんだか。だが......


「そうだな。どうやらEクラスは俺たちに負けないらしいからな」


『くくくっ、当たり前だろ? なんなら何か賭けでもしてやろうか?』


 お、自分達から持ちかけてくるとはやる気があるなぁ。俺から言おうと思っていたが丁度いい。

 カメラとスピーカーを備えたドローンからカウントダウンが聞こえ始めた。


「じゃあ俺達が負けたらお前達の靴の裏でも舐めてやるよ」


『ぎゃはは!! それいいな、やっぱり許してくださいはなしだぞ!』


「その代わりお前達が負けたら......学校を去ってもらおうか」


『......っ! こ、こいつ何を言ってやがる! たかが試合の賭けで退学なんて......!』


 ふふっ、慌ててやがる。

 いつの間にかカウントダウンがラスト3秒へと減っていた。


「負けないんだろう......?」


『くっ......こいつ! いいだろう、その賭け乗った!』


 そこで試合が始まり、オープンチャンネルは閉じた。


「いいの?あんな賭けしちゃっても」


「ふふっ、つまりは負けなければいい話なんだ」


 背水の陣。お互いに緊張感が無ければ勝負をする意味がなくなってしまう。追い詰められた時程力を発揮するものはない。


「......なんか一樹が怖いんだけど」


 俺は広人の言葉を聞こえなかったことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る