第23話 花火大会

「あ、そうそう今日ってここら辺て花火大会があったよね?」


 という水無さんの何気ない一言で、俺の周りには今20人近くの人がいる。





「花火大会? そんなのあったっけ?」


「「あるよ(わよ)!」」


 春奈と奈々美さんがとても食いついてきて、俺に1枚の紙を渡した。


「へぇ〜祭りもやってるんだな......」


「そう! そうなの! だからここに私と......」


「一樹くん! 私と行きましょう!」


 春奈は何となく想像出来るが、奈々美さんがこんなに興奮気味なのは珍しい。


「分かった、分かったから少し落ち着いてくれ!」


「おや、ミスター茅山どうしましたか?」


 丁度そこに訓練機械から二ノ宮が出て来た。

 なんてタイミングのいい......!


「これだよこれ!」


 俺は二ノ宮に花火大会のビラを渡した。


「ふむふむ......あぁ、これならマイペアレンツの所有地の近くだね」


「「「えっ!?」」」


 団子状態になっていた俺達3人の声が思わず揃う。

 二ノ宮の身格好からなんとなく想像はしていたが、そういう家の生まれなのだろう。





「おぉ〜〜〜!」


 まるでお城のような屋敷のベランダは、とてつもなく広い。

 確かに二ノ宮の言っていた通り、ここからでも祭りの灯が見える。


「ね、ね、かずくん! すごいよ! ほら、こっち来て見てよ〜!」


 そしてなぜここに京子がいるかの理由は簡単。奈々美さんがみんなで花火を見るから来ないかと誘ったところ......



『えっ! 本当!? 行くよ、行く行く! 場所はどこ、時間は!?』


 と奈々美さんが引くぐらいのテンションの高さで、一瞬で駆けつけてきたという訳だ。



「お、確かにこれは絶景だな」


「でしょでしょ! 雪乃もこっち来なよ!」


 そうか、俺が同じ中学ということはこいつと水無さんも同じというわけで、仲もいいのか。


 しかし、本当に二ノ宮家の屋敷は大きいな......ベランダは俺達学生が13人いても、窮屈さを感じない。トイレに行くだけでも迷ってしまいそうだ。


「すっげー! 皆花火始まったぞ!」


 広人の言葉に皆が一斉に反応し、ベランダの柵に並んで立つ。


 ヒュルルル......ズドン!


 体の奥深くまで染み渡る花火の衝撃。懐かしい......やっぱりどの時代も夏と言ったら打ち上げ花火だな。


「たっまやー!」


 こうやって皆で花火を見て、笑い合える。ただそれだけなのに、どうしてこんなにも幸せな気持ちになれるのだろうか。

 きっと忘れていたんだろうな......いつ戦争が起きてもおかしくないこの世の中で、命のやり取りを目の当たりにしたその日から。


 終わらせたい......


 俺の手で戦争を終わらせて、平和を手に入れてから皆でまた花火を見たい......!


「時間的に次で最後かな?」


 誰かがそう言った。その言葉を聞いて何かを決心したかのように横にいた奈々美さんが、俺にだけ聞こえるような小さな声でささやいた。


「......前に言っていた私の本当の名前、教えてあげる」


「えっ......?」


 それは突然過ぎて、頭の整理が追いつかない。

 クラス分けテストの日、ジャングルを抜ける前に話していた事を思い出し、やっと理解した。あの日から約3ヶ月意外に早かったが、それだけ俺達の距離が縮まったってことだろう。


 ラストの花火が上がり始める。


「私の本当の名前はーーーー」


「え......それって......」


 この花火大会で1番と言えるであろう、大きくて綺麗な花火が上がった。


「さてそれじゃあ花火も終わっちゃったことだし、祭りの方に顔を出してみよう? 一樹くん」


「あっ、抜け駆け? 私も行くー!」


 抜け駆けって何......!?


「皆で行こう? な? な!?」


 何故か男子勢から向けられる視線が痛いんだけど......?





「意外と本格的なんだな〜」


 車の侵入を禁止にした道路にずらりと並ぶ屋台。


「ね、ねあっちに射的あるよ! やろうかずくん!」


「全く......京子はもう少し女の子らしくした方がいいわよぉ〜!」


 京子が奈々美さんの腕を無理やり引っ張る。


「奈々美もだよ〜!」


 そのまま射的の屋台へと走って行った。


「あの2人本当に仲がいいね〜羨ましいな」


「京子と奈々美さんがか? 普通だと思うんだけどなぁ」


 普通の女友達のような感じだと思うのだが......違うのだろうか?


「本当に仲のいい友達みたいだよ......」


「春奈も奈々美さんとはチームメイトだろ?」


「チームメイトであっても親友ではない......そこの違いはだいぶ大きいよ?」


 春奈と奈々美さんが知り合ってから3ヶ月、6人でいるようになってからは奈々美さんも打ち解けていたと思っていた。だが、本人達の中ではあまり上手くいってはいなかったようだ。気付かなかった......


「ま、こんなこと気にしてるからいつまで経っても改善しないんだろうけどね〜」


 春奈は俺にイタズラをしたかのような無邪気な笑顔を見せて、射的へと走って行った。

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