第18話 合宿2日目③
「お待たせ」
「遅いぞ、一樹!」
桃咲と話していて、すっかり遅くなってしまった。広人がかなり怒ってしまっている。
「全員揃ったようなので早速トレーニングを開始しましょうか。今日はデモ機を使ってシュミレーション訓練をしてみますか」
「そうね、いいんじゃないかしら」
デモ機は人工知能を使ったいわゆる「AI」を応用していて、常に俺達の動きを研究し、自分たちよりも弱い・同等・強いの設定が出来る。
「......キーロック解除、パスワード入力......完了、 戦闘機兵『訓練機』起動!」
「とりあえず設定は普通で、基本連携をしていきましょう」
「「了解」」
俺達は前に決めた武器をそれぞれ持ち、武器種にあった間合いをとった。
「基本連携は、タンクが攻撃を防ぎ、その後から近接隊が突破する。それが失敗した場合に、中距離・遠距離隊が足止めをしてもう1度仕掛け直す。......でよかったよな」
「そうね......いいはずよ」
俺と奈々美さんの2人は、桃咲と春奈を先頭に敵陣へと駆け出した。
「......疲れたぁ!!」
「そうね、今日はここまでにしましょう」
戦闘機兵の操縦は見かけによらず、意外に体力を使う。ハンドルの操作に加え、ペダルでの操作、さらに各種のメーターにも気を配らなければならない。肉体的にも精神的にもかなり疲れるのだ。
「どうしたクラス長......? 終わらないのか?」
他のみんながログアウトしていく中、クラス長だけは終わる気配がない。
「えぇ......もう少し自主練をしようと思いまして」
「そっか、頑張るのはいいけど、程々にな」
クラス長の言葉はいつも真面目だが、この時は特に重々しかったため、俺はたいして何も言えずログアウトした。
「一樹! クラス長はどうしたんだ?」
「もう少しトレーニングしていくらしいぞ」
「へぇ〜頑張るねぇ〜......って腹減ったから早く帰ろうぜ!」
広人は何に対しても、どこか関心が薄い気がする。クラス長を心配していると思ったら食欲が勝ってしまう。
「......もうすっかり暗くなっちゃったね、早く帰ろう?」
すでに7時を超えた空はかなり暗くなっている。俺達は合宿所へと戻っていった。
「......ふぅ、なんかここ落ち着くね」
「はは、家みたいなつくりになってるからな」
確かにここでは自分の家のような感覚でいられる。
「今日は私が晩御飯当番だったわね、すぐに作るわ」
奈々美さんの料理を食べれるとは、ナイス合宿......!
「......ん? 春奈なんか落ちたぞ............花火大会?」
「......っ! ありがと!」
春奈のポケットから落ちたメモ用紙には、花火大会の日程が書いてあった。
「ここら辺で花火大会なんかあるのか?」
「う、うん。校内戦の前日、4日後の夜にあるんだ」
「そっか、花火大会か......しばらく行ってないな」
何回か京子に誘われたことはあったが、部活の合宿があったりで、結局ここ数年行けていない。
「よかったら私と......」
「ん? なんて?」
珍しくもじもじしながら春奈が何かを呟いたが、他のことを考えていた俺には聞き取れなかった。
「ううん! 何でもない!」
「......そっか?」
何を言ったのかとても気になったが、特に急ぎの用事ではなさそうなので、それ以上聞くことはせず男子部屋へ行った。
1日閉め切っていた部屋は夜になっても蒸し暑く、風を浴びるために外に出る。
それにしても、戦闘機兵の操縦はもっと難しいものだと思っていたが、量産されるだけあって簡単な造りで、意外と操縦もやりやすかった。ただ、動きを応用するにはそれなりの技術が必要だ。
......とベンダから見える景色を楽しんでいると、ケータイの着信音が鳴った。
「はい、茅山です」
『あ、かずくん? 久しぶり! 今さ合宿所のすぐ近くの公園にいるんだけど、出てこれる? 無理なら大丈夫なんだけど、話したいことがあるんだ!』
こいつはいつでも変わらないテンションの高さだ。
「......いいけど、電話じゃダメなのか?」
『んー、顔も見たいし直接がいい......かな?』
「分かったよ、待ってろ」
俺は電話を切ると、上着を羽織って「公園にいるから、ご飯できたら呼んでくれ」と奈々美さんに言い残し、急ぎめに階段を下りていった。
「......待たせたな」
「ううん! 急に呼んでごめんね」
京子は、ブランコに座っていた。
「話ってなんだ?」
「あ、うん、最近どう? ちゃんと訓練してる?」
あまり大きくない公園には、俺達以外には誰もおらず、静まり返っている。
「まぁ、それなりにかな。そんな話をするためにここまで呼んだのか?」
「いや! そうじゃないんだけど......」
「じゃないんだけど......?」
京子は一息つき、ブランコから降りて俺の前に立った。
「今度の花火大会......!」
「一樹くん? ご飯できたわよ?」
「......ん? 分かった、すぐ行くよ!」
奈々美さんがわざわざ公園まで知らせに来てくれた。ケータイで呼んでくれればよかったのだが。
「京子? もう1回頼む」
「いいよいいよ! ご飯なんでしょ? 早く行かなきゃ!」
「......いいのか?」
「私は大丈夫だよ! そろそろ戻ろうかな!」
合宿所に帰る時、手を振っていた京子の顔はいつもの元気が無く、寂しそうな笑顔だった。
「ごめんなさい、話の途中だったかしら?」
「いや、大丈夫だよ」
「さっきの京子よね? こんな時間にどうしたの?」
「そうだよ。俺もよく分からなかった」
俺は京子の自由さを思い出して少し笑ってしまい、奈々美さんはそんな俺を不思議そうに見ていた。
「あ、あれクラス長じゃないか?」
「そのようね」
階段を上がり、自分達の部屋のある階に行くと、少し前にクラス長がいた。
「おーい! クラス長、お疲れさん」
「この声は茅山くんと遠山さんですね」
「こんな時間までやってたのか?」
「はい。少しばかり動きの研究をしてました」
本当にクラス長は熱心だ。特に他の人が絡むと、その熱心度は増す。頑張りすぎて、体を壊さなければいいのだが。
俺達は3人揃って部屋へ戻り、みんなで晩ご飯を食べた。
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