第17話 合宿2日目②

「全員揃ったようですね。では基地へ向かいましょう」


「待って健二、青葉がまだだよ!」


「......おっと、これは失礼」


 玄関から出ようとしたクラス長を春奈が呼び止めた。


「......俺が残っとくから、先に基地に行っていいぞ。すぐに追いつく」


「うーん......じゃあお願いしようかな」


 春奈は少し考えた後、承諾した。

 多分俺と桃咲が2人きりになることが不安だったのだろう。桃咲はいつも春奈にくっついていたから、その意味は分からなくはない。......だが、俺はそれを承知で残ったのだ。




「鍵はここに置いておきますね」


「オーケー、了解」


 クラス長達は靴を履くと、すぐに出ていったが、春奈は最後までチラチラと振り向いていた。


 さて、どうしよう。

 俺は桃咲を待つために、その場に座った。


「............の......」


 しかし、女子っていうのはどうしてこう、準備に時間がかかるのだろうか。


「......あの......」


 よく考えてみれば、俺は桃咲のことをよく知らないんだよな......。


「あの!」


「うぉ! ......びっくりした......


 気配も音もなく後ろにいた桃咲の声に、俺は驚き体がびくっと反応する。

 その俺の動きと声に、桃咲が驚き同じくびくっと体を震わせていた。


「......いつから?」


「......今......さっきから......」


 相変わらず俺と話す時、桃咲はおどおどしている。

 しかし、今はいつも隠れている春奈がいないため、なんとなく無防備な感じで、守らなければと思えた。


 なるほど......春奈の気持ちが分かるな......。


「......用意、出来たのか?」


「......はい......」


「それじゃあ行こうか......」


 俺の質問に、なんとも言えない間を置いて返してくる。




「「............」」


 基地へ向かう道を俺が前に、その3mほど後ろを桃咲が歩いている。......もちろん無言で。

 何か話しかけた方がいいのか、しかし何を話せばいいのか......。


 悩んだ結果、俺の脳は1つの答えを出した。


「......なぁ、桃咲の趣味ってなんだ?」


......やってしまった。これじゃあまるで合コンじゃないか!


「............お花」


「え?」


「......お花......見ること」


 流石と言うべきか、俺の突然の変な質問に、いつものように俯きながら小声で答えた。


「そっか、なんか桃咲らしいな」


「............」


「......」


 いかん! 話が続かない! ......こんな時、広人なら得意の冗談で盛り上げるのだろうか。


「......茅山くん......は?」


 お?

 桃咲からの質問と言えるか分からない質問に、俺は少しばかり感動した。


「そうだな......俺は天気のいい日に外で昼寝をすることかな。......趣味と言うよりかは、日課に近いな」


「......そっか......」


 俺は言いながら、自分に趣味と言えるものが無いことに気づき、苦笑いした。それがどう伝わったのか、桃咲は心なしか俯くのをやめているようにも見える。


「俺は中学の時はサッカーをやっててな、スポーツなら多少出来る......と思う。......桃咲はどうだ? 中学の時は部活やってたのか?」


「......手芸部......入ってた」


......これまた想像出来てしまう。

 うん、やっぱり......


「......桃咲って女の子の代表みたい......」


......だよな。


「......っ!?」


 あ......声に出てた......。

 俺は聞かれたか、と思い後ろを振り向いて止まった。桃咲は顔を明らかに赤くして、斜め下を向いている。

 やっぱり聞かれてたか......。

 照れてる桃咲はいつもモジモジしている時よりも乙女で、可愛い。


 こんな、いつも見せない表情を急にされると、俺はついつい考え込んでしまう。


「......俺ってさ、冷たい奴って思われて友達はいても、親友と呼べるやつは京子以外全然いなかったんだ。でも、広人と会って、春奈とクラス長と会って......桃咲とも出会えて、今までとても楽しかった。......これからも楽しめそうな気がする。俺はこれでも、結構今の暮らしが気に入ってるんだぞ?」


「............」


 いきなり語ってしまった俺の話を、桃咲は真っ直ぐ目を見ながら黙って聞いてくれた。


 再び歩き出すために、前を向く途中、桃咲が微笑んだ......気がした。

 確証はなく、俺の勝手な願望かもしれない。......けれど、彼女は感情表現が普通の人よりも苦手なのだ。......だから分かる。確実に少しは心を開いてくれただろう。



 もう1度歩き始めた俺達は、前に俺が、そのすぐ後ろを桃咲がついてきた。

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