第16話 合宿2日目①

 次の日、差し込む朝日で俺は起きた。

 昨日の夜の、月明かりの下の春奈の微笑みが頭の中から離れない。

 俺は部屋を出て、食卓の方へ行った。


「あ、おはよう一樹!」


「ん? あぁ、おはよう春奈」


「昨日のやつはコレ、で」


 春奈は人差し指を立て口の前に持ってくると、ウインクをしていた。

 言いたい事はすぐに分かった。


 クラス長に会話を聞かれたか心配していたが、気を使ってくれたのか、特に俺達に聞いてくることは無かった。

 流石に、奈々美さんが「昨日はよく寝れた?」と聞いてきた時には一瞬驚いたが、それは疑ってではなく、俺のことを思っての言葉だった......と信じたい。

 こういう時の奈々美さんは勘はとても鋭くてヒヤヒヤする。


 色々と思うところはあるが、とりあえず合宿2日目がスタートした。


「今日はどういう方向性で訓練をするんだい?」


「そうだな......そろそろ各自の武器を固定し始めるのもいいかもしれないな。昨日で大分色々な武器が使えたと思うし、自分に合った武器もあったはずだ」


「......そうね、早くしないと校内戦に向けての連携も掴めなくなるし、早いに越したことはないわね」


 俺とクラス長と奈々美さんの3人は、ソファに座りながら、コーヒーを片手に今後について話し合っていた。

 ......というのも、このチームの6人の中できちんと今後について考えているのが、この3人なのだ。

 広人は「何でもよくない?」と言い、春奈は「よく分からないな〜」、桃咲に関してはそもそも何も言ってこなかった。

 よって、俺達がチームの指針を決めているのだ。


「みんなで話し合いながら武器を決めた方が良くない〜?」


「......これは、校内戦のために決めるのではなくて、今後戦場に出た時に自分の身を自分で守れるように、自分の得意な武器を使えるようにするためなのよ?」


 キッチンで朝ご飯を作っている、春奈の言葉に対して、奈々美さんはとても冷静に答えた。

 春奈も納得したのか「ふーん」と呟くと、その後は何も言ってこなかった。


「クラス長はどんな武器にするんだ?」


「ふっ......当たり前です。僕は論理的に考える性格のせいか、一瞬の判断遅いんです。だから、近距離は無理。そして、遠距離から狙うほどの実力もない。よって中遠距離の銃を基本に戦うつもりなのです」


......とりあえず1人は後方支援が確保されたわけだ。これは大きいかもしれない。


「奈々美さんは......ソードだよね?」


「そうね」


 奈々美さんには近接戦闘がとても向いてると思う。

 それは実力的にも、性格的にも。

 これで前衛攻撃が1人か。


「他のみんなは何にしたんだ?」


「俺は遠距離、スナイパーみたいな役割ができたらいいなと思う」


 いつもよりも真面目な広人の態度と、内容にも驚いた。

 広人が遠距離か......意外だが、確かにいつも見る限りでは近接が得意という訳ではなさそうだから、いいのかもしれない。......これで、遠距離にもう1人。


「......私はシールドソード......かな?」


 シールドソードは、片手に機体の半分もある大きめの盾シールドを、もう片方の手にソードを持つ武器種だ。

 強引に突っ込む事が多い春奈は、シールドを持っているのは理にかなっている。

 攻撃をシールドで防ぎ、ソードで攻撃をする。この武器種の攻撃はこれがセオリーだ。


「......私は......近接......打撃......です」


 相変わらず桃咲の声は小さく聞き取りにくいが、恐らく昨日の最後の試合で使っていた打撃武器だろう。

 桃咲は見かけによらず、豪快な戦い方をする。しっかりしたアーマーを着れば、タンクのような役割も出来る。


「俺はロングソードを使うつもりだから、ざっと分けて近接が4人に中遠距離が2人......だな。なかなかいいんじゃないかな?」


「そうね、盾役が2人もいるのはチーム戦においてはとてもいいんじゃないかしら。......それがどっちも女の子なのは置いておいてね」


「「「うっ......」」」


 男子勢は申し訳なさそうに腰を低くした。

 クラス長は中"遠距離"武器、広人は"遠距離"武器、唯一の近接である俺も盾持ちではないため、恐らくヒットアンドアウェイ戦法になるだろう。......なんという情けなさ。


「......まぁ、まぁ、いいじゃない! それぞれが向いてると思った武器を選んだんだしね! ほらほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」


 春奈のフォローにより、凍りついた空気がやっと和み、全員揃って朝ご飯を食べ始めた。

......ごめんよ、春奈。盾役頑張ってくれ......あ、これ美味しい。


「食べたらすぐに準備して、さっき決めた武器で連携の練習をしましょ!」


「ほふはな(そうだな)! はやふやりはいへ(早くやりたいぜ)!」


 広人が口をもぐもぐさせながら言っている。


 俺達は朝ご飯を食べ終わると、それぞれ準備をして、準備を出来たものから、ソファのある部屋に集合していった。

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