第14話 夏季特別訓練②
「キーロック解除。パスワード入力......完了。戦闘機兵『訓練機』起動!」
学校に似た施設の1室の中で、俺達の訓練は開始した。
夏季特別訓練のスケジュールでは、前半はとにかく戦闘に慣れるため、紅白戦をメインに行う。
自分に合った武器を見つけることが出来るように、銃や
全ての種類の武器を使ってみたが、俺には近接武器があっていると思う。
接近戦と言っても、武器のバリエーションは豊富で、刀の中にもマテリアルソードとビームソードの2つがある。
マテリアルソードとは、「物質の刀」つまり金属を使って作られている、大剣や
一方、マテリアルソードに対して、ビームソードは「光の刀」つまり特定の範囲内の粒子を高速振動させることで、高温の刃を形成する、戦闘機兵では一般的なソードやロングソードを指す。
色々な武器で戦えることは、戦場において有利に立つことが出来るが、今は皆1つの武器を極めるので精一杯だ。
それは俺達のチームにも言えたことで、6人がそれぞれやりたい武器を持ってしまっているので、校内戦の連携に影響が出ないか、とても不安になってくる。
「......戦闘開始!」
全員がバーチャルの世界にインすると、本日ラストの紅白戦が開始した。
チームは俺と奈々美さんと春奈、相手チームにクラス長と広人と桃咲だ。
奈々美さんは両手にソードを構え、春奈はサブマシンガンを構えている。
俺は基本的にロングソードを使っているので、前衛2人後衛1人のなかなかいい組み合わせかもしれない。
「俺と奈々美さんの2人でまずはクラス長を探して叩こう。あの3人なら一番厄介だ」
「了解、私は他の2人を引きつけるね!」
奈々美さんは「了解」と呟くと、機体の姿勢を低くして、地面を強く蹴り出した。
奈々美さんに置いていかれないように、俺と春奈もその後に続く。
「春奈、近くまで行ったらすぐに威嚇射撃をしてくれ」
「うーん......私1人で引き付けられるかな?」
「無理か......?」
足止めが出来ればいいと思った。
だが、普通なら2人に狙われたクラス長の援護に来るだろう。
何て単純なことに気付かなかったのだろうか......。
奈々美さんは既にかなり先行していて、この会話が聞こえていても、止まる気は無さそうだ。
「......5秒」
「「え?」」
俺と春奈の声が被る。
「5秒足止めしてくれれば十分よ」
「いくら奈々美さんが強くても、まだ機体にも慣れてないし......」
俺の声を無視するように、奈々美さんはさらにスピードを上げた。
そのスピードに俺は驚いた。
バーチャルの訓練とは言っても、機体の性能には限りがある。
それを奈々美さんはギリギリまで引き出して、かなりの速さで動いているのだ。
「すごい......」
俺はその言葉しか出てこなかった。
「......でよ......」
春奈も驚いたのか、何か小声で呟いていたが、その言葉は小さすぎて聴き取れなかった。
当初の計画は既に崩れていた。
そのまま奈々美さんは、飛び出していく。
それを見た3人は一斉に戦闘態勢に入った。
相手は2人がサブマシンガンを持ち、もう1人は手にかなり分厚い装甲が付いている。
打撃系の武器もあるが、恐らくこれがそうなのだろう。
「くっ......春奈......!」
俺は単独で飛び出していった奈々美さんを、春奈に援護するようにと言おうと思ったが、春奈は既に打撃系の武器を装備した機体に向けて銃を撃っていた。
「一樹早く!」
春奈の言葉に、俺は奈々美さん達の方へ視線を移した。
それは一瞬だった。
素早い動きで懐に入った奈々美さんは、一太刀目で銃を真っ二つに、二太刀目で機体を真っ二つにした。
さらに、衝撃波で地面がへこむほど強く踏み切ると、奈々美さんの動きに呆然としていた、サブマシンガンを持っているもう片方の機体の目の前まで行く。
そして、機械の動きとは思えない程の剣さばきで、相手の期待に網目状の線が入り、爆音を出しながら爆発した。
数えた訳では無いが、その動きは僅か5秒。
まるで舞っているようなその動きに俺は魅入ってしまった。
2人で、なんて言った自分が恥ずかしくなるほどにそれは美しく、力強かった。
「......一樹!」
春奈の声に、我に返った俺は振り向いた。
しかし、拳を大きく振りかぶった機体を目指した時には、既に遅く、俺のモニターは暗くなった。
どうやら俺の機体は、戦闘不可能な状態になったようで、今は観戦モードになっている。
その後、俺を後ろから襲った機体は、銃を乱射する春奈に正面から突っ込み、下から突き上げるようにして拳で春奈の機体を貫ぬく。
その光景を見ていた奈々美さんによって、最終的には俺達のチームが勝利した。
確かに勝った。
勝ったのだが、勝利に対する代償がとても大き過ぎた。
俺達はそんなことを話しながら、その日の訓練を終えて、合宿所の部屋へと帰って行った。
その時俺は、奈々美さんの単独行動がチーム内に嫌な風を吹かせていたことに、まだ気付いていなかった......。
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