第10話 戦闘機兵②

 

 戦闘機兵が待機している場所までは少し遠いらしく、バスで移動することになった。


「まず皆に見てもらうのは、さっき見てもらった『Jupiter(ジュピター)』と言う量産機です。量産機と言っても、1機造るのには莫大な費用がかかるので、そんなに数がある訳ではありません......」


 一番前の席に座った北川さんがマイクを使って走行中も説明を続けてくれた。


「......それではこの倉庫に入り、実際に『Jupiter』を見てみましょう!」


 さっきいた倉庫の2倍か3倍くらいの大きさの倉庫が目の前にある。


 北川さんは扉の横へ走っていき、解除コードをピピッと入力してレバーを下ろした。


 ゴゴゴと鈍い音を立てて、扉が徐々に開いていき、中の様子が見えてきた。


 中にある『Jupiter』の全貌が見え、生徒達はおぉ〜という声を漏らしていた。


 なんて凄い迫力だろうか。近くで見ると一層大きい。


 よく手入れされているのか、機体は鏡面仕上げのようにピカピカだ。

 これがオリジナルでもいいのではないのだろうかとも思えるほどに強そうだ。


「これが量産機『Jupiter』です。操縦者席へ行ってみましょう」


 北川さんはそう言うと『Jupiter』の横にある階段を上がっていく。


 高所恐怖症の人にはきつそうだな.....。下が丸見えだ。


 長い階段を登り終え、機体の背中側へ行くと、ハッチが開いていて、中が見えるようになっていた。


「パイロットはここに入り、中から機兵を操作します」


 中を覗くと、何種類ものスイッチとメーターがある。

 両側の横から出ている自転車のハンドルのようなもので基本動作をするのだろうか。


「では、次はオリジナル機の方へ向かいましょう!」


 俺達はもう一度さっきの階段を降り、バスに乗って移動を開始した。


 バスは少し行くと、今度は最初にいた時と同じくらいの大きさの倉庫の前で止まる。


 俺達はそこから地下へ降りた。


 地下へ着くと、次はムービングウォークと呼ばれる水平に自動で動くエスカレーターに乗り、動きながら見ていく。


 そこには数分前にスクリーンに映っていた『Tor(トール)』があった。

 装甲が分厚いからか、『Jupiter』よりも大きく見える。


「先程見て頂いた、『Tor』ですね。この機体のパイロットは実は僕なんです」


 生徒達から驚きの声が上がる。


 実際俺も驚いた。

 オリジナル機のパイロットが目の前にいるなど、偶然どころではない。


 興奮したまま、次の『Hel(ヘル)』が見えてきた。


 それは『Jupiter』とも『Tor』とも違う機体。

 黒くて細い。恐らく機動力が売りなのだろう。

 しかし、『Tor』の背中にはとても大きなハンマーがあったが、『Hel』にはそれらしいものが見当たらない。


 何か秘密があるのだろうか。


 ゆっくりと『Hel』の横を通り過ぎると次の戦闘機兵が見えてくる。


 そこにあったのは『Odin(オーディーン)』という機体だ。

 黄金に輝く鎧を身につけ、黄金の兜かぶとを被っている。

 横にある、杖のようなものが固有武器なのだろう。


「.........」


 俺はその機体を見て言葉を失った。


「.....なんで.....これが...........」


 その機体には見覚えがある。10年前のあの戦争で俺はあの機体に助けられたのだ。

 それは望む、望まないには関係なく俺を家族と引き裂く結果になってしまった。

 憎んでいる訳ではないが特に感謝している訳でもない。

 けれど今目の前にある機体は俺に忌々しい記憶を俺に思い出させてくる。


 ジリリリリ!!


 その警報の音が俺を現実に引き戻した。


 何かあったのだろう。整備していた人達は慌てた様子で行ったり来たりしていて、北川さんにも何やら無線が入ったようだ。


「たった今援軍の要請が入っちゃったから、この人の指示に従って移動して下さい!」


 そう言うと北川さんは走っていった。


「皆さん移動します!」


 俺達は作業服を着たその人に誘導されるまま、モニタールームへ移動した。

 大きいモニターに基地内の滑走路が映っている。


『金沢基地より応援要請。ゲリラによる強襲を受け、被害が拡大している模様。敵は戦闘機兵を所持し、本土に接近中。金沢基地ではジュピターによる迎撃を開始、現在交戦中。戦闘機兵隊アルファ、ベータは直ちに出動せよ』


 モニタールームのスピーカーから放送が流れた。

 恐らく基地内のスピーカー全てから流れているのだろう。


 モニターの中で倉庫から順にジュピターが発進した。

 少し前に見た機体には無かった飛行ユニットをつけ、飛べるようになっている。

 更に、滑走路の真ん中ぐらいの場所がゆっくりと開いて、地下からトールとヘルが上に上がってくる。

 その場に浮いたトールとヘルは動き出し、一瞬にして見えなくなってしまった。


 とてつもない速さだ。


 モニターの映像が操縦席に座った北川さんに切り替わる。


『.....戦闘機兵トールのパイロットの北川です。私立第一戦闘機兵訓練高等学校の生徒の皆さん、これは決して訓練ではありません。今から皆さんが見るのはこの仕事の一部ですが、戦闘機兵パイロットとして知っておかなければならない事です。しっかりと見ていてください』


 北川さんがトールのパイロットだとは思わなかったのでとても驚いた。

 戦闘機兵トールのパイロットとしての北川さんはとても集中して少し怖いくらいだった。

 これから戦地に赴くのだから当然だろう。


 またもモニターの映像が切り替わり、今度は景色が次々と通り過ぎていく。前にヘルが移動しているのが見えるので、恐らくトールの、北川さんが見ていている景色だろう。


 遠くで大きな爆発が見えた。


 爆発しているのは......金沢基地だ。

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