15.絶ち切り鋏

第1話 才能 さいのう


 朝……。


 外の景色はまだ暗く、太陽すら登っていない。俺自身、いつも早い時間に起きる。


だが、今日は時間より早い時間に目が覚めてしまった。


「はぁ」


 でも、その理由は自分でよく分かっている……。本当に俺、今まで全然考えてこなかった。


 しかし、今となっては考えざる負えない状況になっている。


 なぜあの人が最近よく『物置部屋ものおきべや』にいるのか。なぜ最近、あの人は体調を崩しているのか……。


「……」


 本当にあの人……体調を崩しているのだろか……。


 もしかしたら、その体調不良すら『嘘』かも知れない。しかし、普段そこまで深く物事を考えない人間が、一度色々な疑問を抱いてしまうと……本当に今更な事に疑問を抱いてしまう。


 例えば……そもそもお店にある『品モノ』はどこから持って来たモノなのだろうか。


 本当によく今まで不思議に思わなかったな……自分……と思ってしまう。いや、考える事すらしていなかったのだから、正直不思議に思うも事も無いのだが。


 ……いや。本当は気になってはいたはずだ。


 でも、聞いちゃいけない……と決めつけて、気がついていないフリをして自分を騙していた。


 何度も何度も疑問に思った事はあったが、その度に俺は自分に嘘をついていた……面倒な事だと、知りたくない事実を知りたくなかったから……。


「そういえば、一恭かずきよさん……」


 あの時、俺と一恭かずきよさんがしていた会話を思い返してみると――。


『あっ、この水球すいきゅう。俺が作ったんだよ』


 確か一恭かずきよさんは、こんな事を言っていたはずだ。それに、『水球すいきゅう』だけでなく『風鈴華ふうりんか』も知っていた。


一恭かずきよさん。もしかして……」


 しかし、俺はあの『水球すいきゅう』を見た時から、ひょっとしたらこの『蜻蛉とんぼ』の品モノを作った人なのではないか……と思っていたのだ。


 もし、そうだとしたら……あの人は本当にすごい。


 ――当然、聞いてはいないから分からないのだが……でも、素直にそう思う。


 もし、そうだったとしたら、『先を読む才能』を持っていると言われていた『亞里亞ありあさん』は当然すごい。


 しかし、この不思議な『品モノを作る才能』を持っている……という事の方がすごいと思ってしまう。


 それに、なんんであの人が『材質』についてほとんど何も知らなかったのかもって事もこれで説明が出来る。そう今までずっと思っていた『疑問』の1つがこれで解決する。


 だがもし、この二人が商売をする……となったら物凄く大きなお店になり、大繁盛だいはんじょうしそうだ。


「……見てみたかったな」


 決して、この二人自体は仲が悪かった訳ではない。ただ、この二人が引きかれてしまったのは、簡単に言ってしまうと『父親のせい』である。


 実の親なのに、その人は一恭かずきよさんの存在が邪魔になって殺そうとしていて、俺はそれに巻き込まれた。


 でも、そうだとして……あの人は一体何を探して『物置部屋ものおきべや』にいるのだろうか……。


 もちろん。何かしらの『理由』がなければ『物置部屋ものおきべや』に立ち寄る……何て事はしないはずだ。


 だから、俺はその『理由』が知りたくなり、眠気覚ましも兼ねて『物置部屋ものおきべや』へとゆっくりと歩いて行った……。

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