第2話 雑貨 ざっか


「うーん……」


 この日。私がいたのは『雑貨を扱う店』だった。


 元々、ここら辺一帯は、食事処や私がいる様な雑貨を扱っているお店が多く集まっている。その為、いつも平日や休日など関係なく賑わっている。


 雑貨店の店頭に置いてある物を見ながら悩んでいる私の後ろを通り過ぎるのは、男性も女性も大体みんな着物を着ている。


 私が生まれた時、時代は新しい流れを受けてはいたものの、かなり時間が経過しており、大分落ち着いていた。


それでも、なかなか『新しい文化』というのは根付きにくいものの様だ。


 軍人や役人、上流階級の人は、制服や礼服として早くから洋服が広まっているが、庶民の間ではまだまだ『着物』が一般的だった。


 そして、外では洋服を着るような男性も、家では着物に着替えてくつろいでいる……なんていうのもよくある話。


「…………」


 ただ、髪型は……。


 大きく変わったと思う。それは「散髪令さんぱつれい」によってちょんまげを切ることが強制され、男性は誰もが洋風の短髪になった。


 しかし女性は新しい時代に入っても、相変わらず着物に日本髪が主流だ。それでも、文明開化によって、化学染料を使った染物や西洋風の模様が取り入れられ、着物の色だけでなく柄が華やかになっている。


 だから私も、幼少の頃は着なかった色や柄も、今では普通に着ている。多分、その派手な着物を当時の私は、恥ずかしいと思っていたからだろう。


 どうも周りの視線というモノは、意外に気になるモノだと感じていた。


「うーん……」


 でも、今の私は全く別のことで悩んでいた。


 ここら辺にあるお店は、全て見てまわってしまった。しかし、「コレッ!」と思えるものは残念ながら……なかった。


 筆記具や巾着……色々見たが、どれもなぜかしっくりこない。確かに、どれも可愛いし、綺麗なモノもあった……が、やはりしっくりこない。


「ブーツがいいかも、って思ったけど……」


 ただやはり『ブーツ』はなかなかお高い。確かに、今の流行に合わせて「袴にブーツ」というのも……と思った。


「でも、下手に高いモノを買って気を遣わせるのも悪いし」


 そう、ただの田舎の小娘の身分でそこまでお値段の張るモノは買えない。それにそういったモノをあげて、逆に気を遣わせるのでは意味がない。


「でも多少は……。どうしよう…………」


 せっかくの贈り物だから、喜んでもらいたい。


 そう、この日私は友人……いや、私の『親友であるひさ』の誕生日の贈り物を買いに来ていた。


 しかし、「喜んでもらいたい」という気持ちが先走っているのか……。どうしてかは分からないが、『贈り物選び』は難航していた――。


「うーん」


 出来れば、今日中に買いたい。だが、明確に欲しいモノを考えてなかったこともあり、時間はいたずらに過ぎていた。


 ただ、久は何をあげても、なんでも喜ぶはずだ……。


 それは、今までの経験でよく分かっている。しかし……いや、今までがそうだったから、『今回』はちゃんと贈りたかった。


「でも、手作りのモノは、いつもあげているし……」


 なぜか久は、私が作った毛糸小物や刺繍ししゅう、絵をいつも欲しがった。私としては、モノが増えても困るから……と何気なく欲しがったモノを全部あげていたの。


「……ん?」


 どれだけ時間をかけて探しても、なかなか見つからない事に若干焦りを持っていた私は、ふと横にあった店に目を向けた。


 そこには、最近増えた西洋風な他の店のテイストが違う。ちょっと前の……いや、昔ながらの純和風のお店があった。


「これ、ちく何年だろう? というか、こんなお店……あったかな?」



 この道は何度か通った時ある。だが、こういったお店があるとは……思ってもいなかった。


 しかし、こういったお店は今でもたまには見る。


 でも、最近では煉瓦がれきを並べたような建物も増えている。当然、こういった純和風のお店あることにはあるが……ここまで古いモノは久しぶりに見た。


「これは、看板? えっと……『蜻蛉とんぼ』って読めばいいのかな?」


 とても綺麗な行書ぎょうしょで書かれているため、一瞬読むのに戸惑った。だが、なんとなくの雰囲気でそう解釈した。


 私は、「……ちょっと入ろうかな? ここに、あるかも知れないし……」なんて自分に言い聞かせていた……が内心。ワクワクしていた。


 実は、こういったお店に入ったことがなかったのだ。


「…………」


 そこで私は、『贈り物』を探してみようと、ゆっくりと『骨董店こっとうてん 蜻蛉とんぼ』に足を踏み入れたのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る