第6話 失敗 しっぱい
「……呼び出された理由は分かるかね?」
「……申し訳ございません」
まぁ、そんな放心状態で仕事がはかどる。なんてことは……ない。残念ながら私はそこまで出来た人間ではない。
「どうすんだよ! コレ!」
「申し訳ございません!」
「はぁ、何があったか知らないけど、こんなミスされると困るんだよ」
ある日私は出社するなり、係長に呼び出され口々に文句を言われていた。基本的に、後輩たちのミスをフォローすることはある。だが、今回は違う。
「えっ、何々? 何があったの?」
「あー、なんか商品の発注を上司から頼まれていたみたいなんだけど」
「うん」
「どうやら一桁間違えて発注かけていたんだって」
「えー、それってマズいんじゃない?」
「…………」
私は、無言のまま係長たちの文句とお説教に耐えていた。、外からは途切れ途切れではあったが、この様な会話が私の耳に届いていた。
正直、「聞こえているんだよ! さっきから! 大体、人のことじゃなくて自分の仕事をしなさいよ!」などと大声で文句を言ってやりたい気分だった。
ただ説教を受けている時に言える状況でもない。そう、今回は自分自身で犯したミスだった。
「……はぁ」
しかし、私はなんとか長いお説教兼文句を耐えきった。私は、社員たちから『休憩室』と呼ばれている自販機が大量に置いてある部屋にいた。
ただ、私としてはおかしいな。ちゃんと確認したはずなのに……という気持ちが沸き上がっていた。
そう、今回ミスをしたのは係長の置いてあったメモの内容だった。
でも、さすがに桁がおかしいと感じた私は、きちんとそのことを係長に確認をした。しかし実は、「本当に?」と聞かれるとあまり自信をもって答えられない。
メモには一応、『確認済』とは書いたものの……その時の会話の内容までは書いた覚えがなかったからだ。
きちんと確認はしたはずだが、その係長は「ちゃんと伝えた」と一点張りで私の言葉なんて聞き入れてくれそうもない。
「…………」
ふと、目の前にあった鏡を見てみると……。
そこには、涙で腫れた目と大量のクマが出来ている。とても自分の顔とは思えないほどのひどい顔が、写っていた。
「……もう、ここ最近は踏んだり蹴ったりだ」
たった数日で彼氏には浮気され、仕事ではほとんどしたことのないミスをし、しかも、それを見ている後輩たちに聞こえる声で色々言われる……。
あまりにも色々起きすぎている様に思ってしまう。しかし、それ以上に私の心は疲れ切っていた。
いつもフォローしているはずなのにたった一度のミスで立場が変われば見る目も変わるモノなのだろう。
たとえ、いつもフォローしていようがいまいが関係ない……という事なのだろう。
それは、『シャボン玉』よりも簡単に弾けてしまうものなのか……。
なんて考えるとどんどん虚しくなってしまった私は、辛く悲しくなり私は、この日初めて会社を早退した――――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………」
家に帰ると、私は着替えもせず、化粧も一切落とさず、ベッドに飛び込んだ。
「…………」
いつもであれば、最悪化粧は落とす。その時は気にしないが、後で汚れを落とすのはかなり面倒くさい。
しかし、この時は何気なく『
「……当然だよね」
昨日のことと言い、今日のことと言い『ストレス』が一気に増えることばかりだ。
もし、これで水が増えなければ、『ストレス』が『水の
「そういえば……」
これを購入した時、「この『
「もし、『ストレス』がこの『
この『
「……考え過ぎだよね」
誰が聞いているわけではない。が、私は一瞬過った不安をなくそうと一人で小さく呟いた。しかし、じゃあなんであの子は『言いにくそうに
自分で否定していながら、残念ながら完全に否定できなかった。なぜなら、その可能性がわずかでもあったからだ。
――まさか、このことを悟らせないため?
決まった訳でもないのにそんなただの憶測すら、認めてしまいそうになっていた。それ程までに私は、追い詰められていた。
「…………」
そういえば、テレビや新聞で『ストレス』が原因でうつになることも、最悪自殺してしまうこともある……って言っていたのを思い出した。
「…………」
でもなぜこんな時に限って、テレビなどで見た悪い情報が頭を巡ってしまうモノなのだろう……。
「それでもいい。もう、私なんてどうせ……」
私は、『水玉』を見ながらそう思った。
「疲れた……もう……イヤだ……」
もうここで全てが終わってしまっても……この際どうでもいい……。
「あっ……れ?」
そう思い、小さく「ふー」っと息を吐くと……なぜか急に睡魔が私を襲った。
「……そうだよ。私が死んだところで誰も……」
誰も、「悲しまない」。彼も、会社の人たちも、誰も……そう思った。そして私は、その睡魔にそのまま身を預けようと目を閉じた。
でも、父さんと母さんは……悲しむ……かもしれない。
なんて考えると……突然、田舎にいる両親の顔が出てきた。今までろくに連絡も取っていない両親。そして、次に過ったのは私が死んで嘆き悲しむ両親の姿……。
「っ! ……嫌だ。まだ、死にたくない。まだ、終わりたくない……」
そう思うと私は目を少し開き、振り絞るように言った。人はいざ、死を覚悟しても、未練が意外にあるモノである。
「私は、まだ……」
やりたいことがたくさんある。だから……せめて……と近くにある『ポケベル』に手を伸ばそう……としていたものの結局、睡魔に勝つことは出来ず、そのまま深い眠りの沼に落ちていった――――。
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