第4話 浮気 うわき


「……あれ?」


 いつもの様に出社し、会社のデスクにつくと……そこには一つのメモ紙が置いてあった。しかし、始業時間にはまだ早い。


「ねぇ。これ、誰が置いていったか分かる?」

「あー、そういえばさっき係長が置いていきましたよ。そのメモ紙に書いてある分、発注して欲しいとかなんとか」


 私の問いかけに、隣に座っている女性が答えた。確か係長は、今日営業で早めに出社していたらしく、今は営業に出ていた。


 ちなみに今、声をかけた私のでっすくの隣に座っている女性。この人は私の後輩に当たる。


 しかし、一応『後輩』とは言っても私と一年しか変わらないため、お互いあまり上下関係を気にしていない。


 でも、仕事中は一応敬語を使ってオンオフはっきりさせている辺、しっかりしているなぁ……とその対応には素直に尊敬している。


「ふーん。ん?」


 貼られていたメモ紙をじっくり眺めていると、おかしい事に気がついた。


「どうかされましたか?」

「いや……」


 後輩も私の反応にさすがにおかしいと思ったのだろう。すかさず不思議そうに尋ねた。


「ねぇ」

「はい」


「一応確認なんだけど、これを発注して欲しいって係長が言っていたのよね?」

「? はい。そうですよ? 何かおかしなところでもありましたか?」


「いや、これ……」


 さすがにこれ以上、彼女に色々確認するのも悪いと思った。だから私は言いにくそうに、彼女にメモ紙を見せた。


「……これは、おかしいですね」


 見せられたメモをじっくりと見ると……彼女も不思議そうに桁を確認するように指をさしながら見た。そして、彼女も私の違和感に同意するように首を傾げた。


「うん。係長が戻ってきたら一応、確認してみるわね」

「その方が良さそうですね。ところで……」


 メモ紙の話はそれで終わり。と言うように、後輩はコソッと私に近寄ってきた。


「ん?」


喧嘩けんかされた彼氏さんとはどうなりました?」

「えっ」


 そう、私には年下の彼氏がいる。実は、その彼とは昔からの幼なじみで、私を追って上京してきた。


 最初は「一緒に住む!」と言って聞かなかった。しかし、私の部屋も2人で住むには狭い。それに、田舎とは違い物価も高い。つまり、新たに大きな部屋を借りるのも大変だ。


 それに、今の部屋でも家賃払うのギリギリだ。


 いや、学校で勉強するのが目的だから、彼をアルバイト三昧ざんまいにさせるのも悪い。だから、「それは無理」と言って彼を説得した。そんな彼も、もう就職の時期だ。


「だから、就職するなら長く勤められるような仕事をした方が良いって言ったんだけど……」

「だけど?」


「やっぱり、サービス業とかを受けたいって言ってさ」

「いいんじゃないですか?」


「うーん。なんか周りに流されている気がして……。それで、言い合いに……」

「……大変ですね。でも、明日の休みに会えるんじゃないですか?」


 そう、明日は休みだ。しわ寄せになっていた仕事も全て終わり、明日は本当に何もない。

「うん。久しぶりの休みだから会おうって言ったんだけど、なんか会えないって連絡があって」

「そうなんですか!?」


 私がサラッと言うと、後輩は驚いたように声を上げた。


「でも、休みって知っていたのに会えないってことは……」

「?? 」


「つまりあれですよ。『浮気』ですよ!」

「……はっ?」


 目をキラキラさせながら後輩は、そう宣言した。しかし、私はそんな後輩に目を白黒させて思わずそう言っていた。


 どうやら彼女は……最近の……ドラマの見過ぎなのかも知れない。


 ここ最近、どうやらテレビでは『トレンディドラマ』が流行を通り越して大流行している。私は、仕事に熱を上げていることが多いため、ほとんど見たことがない。


『皆様おはようございます……』


「あっ」


 そんなことを思っていると、始業のチャイムとアナウンスが流れた。それを聞くと、さっきまでの興奮はどこへ行ったのか、後輩は静かに仕事を始めたのだった……。


「はぁ……」


 私も、小さくため息をつくと仕事に取りかかった。


 しかし、その後「じゃあ、今日は飲みに行けますね」と仕事を早々と終わらせた彼女に引っ張られる様にオシャレなお店ではなく、居酒屋に 行かれ、ちまたで話題の『トレンディドラマ』の話を延々と聞かされるのだった――――。

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