第2話 水玉 みずたま
「…………」
私は、店内に入ってすぐ「思っていたのと違うな」と感じた。
なぜならこういった『
しかし、この『
「ん?」
店内をじっくり見て回ってみると、ふと私の目に『あるモノ』が留まった。
「…………」
――それは、透明な『球体』だった。
しかしコレをよく見ても、コレには『値札』もなければ『商品の説明』どころか『商品名』すら書いていない。
「うーん」
コレを見た限り「商品じゃないのかな?」と思ってしまう。それに商品でもない物を手に取るには、正直気が引ける。しかし、どれだけ見てもコレはただの丸い『球体』にしか見えない。
「それは『
「えっ?」
突然、まだ成人していない感じの『若い……いや、幼い可愛らしい声』が私の真横から聞こえた。
「いらっしゃいませ♪ こちらの商品が気になりますか?」
「っ!!」
あまりの驚きで思わず一瞬、体をビクッとさせたが、少女を見るとすぐに気を取り直した。
「どっ、どうかされましたか?」
「いっ、いえ……」
声をかけてきたのは、十四、五歳くらいの黒髪の少女だった。
私に「いらっしゃいませ」と声をかけたところを見ると……この子は多分、このお店の娘さんだろう。
しかし、この少女の人懐っこそうな雰囲気は、このお店の和風で物静かな雰囲気には、正直合っていない。
「えっ、えっと……はい」
「そうなんですか」
「ところであの、『
「そうですね」
少女の返事を聞くと、私は「へー」と言いながらそれを手に取った。
「あっ、手に取ると……」
「えっ? うわっ!」
少女が私に対し何か言う前に、私はその『
「えっ? うわっ!」
突然『
「えっ? えっ!」
私は、突如現れた『水』に「えっ、もしかして壊れた!?」と思い、慌てた。しかし、普通こういった状況になれば、誰でも驚くだろう。
「あのっ、とっ、突然! 水がっ!」
「遅くなってすみません。そうなんです。この『
「あっ、そうなの……」
少女は、慌てる私に冷静に説明してくれた。その冷静な対応に「壊れた」という事が分かり、私も冷静になった。
「……って、もしかしてそれだけ?」
いや、私は「それ以上にもっと早く言って欲しかった……」と感じたが、こんな
「はい」
「…………」
このお店にいる少女がそう言うのなら、その他に何もないのだろう。
「元々コレは、インテリア雑貨みたいなモノですから」
「そっ、そう」
何事もなく言われたその言葉に私は一瞬、戸惑った。
その『インテリア雑貨』という言葉は洋風なイメージだ。しかし、ここは洋風とは真逆に位置するはずの純和風な『
ただそれを聞いても、私はこの『
「……これ、買おうかな」
「本当ですか! ありがとうございます!」
私がそう小さく呟くと、少女はパッと可愛らしい笑顔を見せた。
「……ところでこれ、おいくら?」
この少女が言う通り『インテリア雑貨』なら、そこまで高くはない。
なんて気持ちがない……と言えば正直嘘になるが、とりあえず尋ねると……少女は近くにあった電卓……ではなく、そろばんを出した。
「えっと……」
「えっ」
「ちょっと待ってくださいね」
「えっ、ええ……」
正直、電卓が普通になっていた世の中で『そろばん』を見る機会もなんてめっきり減っていた。そんな私の視線を、気に止めず少女は「パチパチ」とそろばんを弾いた。
「えっと、じゃあ特別に一割引させてもらいますね」
「えっ、いいの?」
「いいんですよ。あっそれで、お値段はこちらになります」
「えっ」
少女に提示された金額を見て、私は一瞬固まった。
「これ……が? この値段?」
「はい」
それは、思わず再度確認したほどである。なぜならその金額は、私が買ったことがあるモノの中でも、一、二を争うほどの高額だったのだから……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
今でも私の周りの人たちは、業績も給与もうなぎ上りだ。そして私も最近もらっている給料を見る限り多少は、その恩恵を受けている様に思う。
しかし最近の新社会人は、金融業やサービス業の様な華やかな業界に人気が集中している。
そのせいか、他の業界の人たちは人材集めのために色々躍起になっている。そんなことをよく聞くようになっている。
だからこそ、私の会社も新入社員の初任給を上げる動きが出ているのだろう。でも、いつどんなことが起きても大丈夫なように……と、私はいつも一応ある程度の額は持っている。
だから、基本的にお金はいつも割り増しに持ち歩いている。
「えっと、じゃあこれで……」
「ありがとうございます!」
いつもの習慣のおかげだろうか。提示された金額も一応持ってはいた。
だから金額だけの話であれば何も問題はない。そこで私は財布からお金を取り出し、少女に渡した。
少女は「確認させていただきますね」と一通り確認をすると、満面の笑みで受け取った。
「……ねぇ」
「はい?」
「もし、この『
「えっ?」
私は、『
「えっと、実は……」
少女は、なぜか言いにくそうに
「…………」
「じゃあ、その時のお楽しみ。ということね?」
私は、俯いた少女に優しくそう言った。すると少女は、少し困ったような顔で私を見ると、「そうですね」と小さく笑った。
「このまま持って帰ると危ないので、何か袋に入れますね」
「ありがとう」
少女は、この『水玉』を少し大きめの紙袋に入れ、そのまま私に手渡した。
そして、私はそれを受け取ると笑顔で手を振って、そのまま
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