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1.水玉
第1話 回想 かいそう
「……ただいまぁ」
私は、真っ暗な部屋に向かって小さく声をかけた。
しかし、その部屋には誰もいない。だから、当然私の言葉に返ってくる言葉はない。でもこれはもはや『癖』いや『毎日の恒例行事』みたいなものだ。
親元を離れて、就職を機に私は都会に来た。
就職して最初の頃は、ホームシックも重なってちょくちょく実家に帰っていたが、最近では色々重なってそれも出来ていない。
そして気がつけば、この『都会』に来てもう五年も経っている。
たまに「電話くらいした方がいいかな?」とか、「心配しているかな?とか色々思うことはある。
でも、下手に電話をして逆に心配をかけさせる様なことはしたくない。そんな気持ちが私をいつも制止させる。
最近出回っている、連絡手段『ポケットベル』略して『ポケベル』一応、私も持っている。
確かに慣れてしまえばかなり便利モノではある。しかし、実はまだそこまで
「あっ、そうだ」
私は思い出した様に自分が抱えている茶色の『紙袋』を机の上に下ろした。
この『紙袋』の中には『あるモノ』が入っている。しかし、プレゼントでもらったモノではない。
そもそも自分で買ったものだから当然、その中身は分かっている。しかし、分かってはいても、私は内心、ワクワクしながら開けた。その姿は、クリスマスプレゼントをもらってワクワクしている子どもの様だ。
「……買っちゃったよ」
しかし、普通の人がこれを見ても、私がそこまで喜んでいることに不思議に思うだろう。だが、私は『コレ』を一目見て、どうしても欲しいと思った。
「それにしても……」
今にして思えば、この綺麗で『透明な球体』を買った場所も、かなり不思議な場所だった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………こんなところにお店なんて、あったかな?」
仕事の帰り道。
私は偶然その『お店』を見つけた。その日はいつもより帰る時間が遅くなり、周りの人たちは、タクシーを止めようとお金を取り出し、パタパタと
こうでもしなければ、タクシーが止まってくれない。ただ私はこの光景をいつ見て、その
そもそも大体ここら辺では、ディスコやカフェバーの数もかなり多く、ほとんどのお店が洋風である。
だから、そんな洋風なお店が立ち並ぶ場所にこんな私が生まれ育った田舎にありそうな和風のお店があるだけでも驚きだった。
「……えっと、コレは……お店の名前?」
しかもそのお店は洋風な雑貨などを置いているような『おしゃれな雑貨店』というより、和風な茶碗などを置いていそうな『
「とん……ぼ?」
そう小さく呟いた私の目線の先には、玄関と思しき場所の倍はある看板があった。見事な達筆。そして、行書で書かれた『
「…………入ってみようかな」
実は、本やテレビなどサブカルチャーでは、こういった純和風な『
しかし、実際に自分の目で見るのは、初めてだった。そこでなんとなく気になった私は、店内に足を踏み入れた。
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