骨董店『蜻蛉』の品モノ

黒い猫

プロローグ 入店 にゅうてん


 ――――そのお店は、いつも突然現れる。


 いつも通るはずの帰り道。久しぶりに通った道……。


 その人がどんな思いで、どんな理由でこの道を通った……なんて誰も知らない。でも、お店はそんな人の気持ちなんて関係なく、いつも何の脈絡もなく現れる。


 いつも何気なく通っている人にとっては「あれこんなお店、あったっけ?」という疑問になり、久しぶりに通ったのであれば「いつ出来たのだろう?」という疑問になる。


 もちろん気がつく人もいれば、気がつかない人もいる。


 ただ「ちょっとでも入ってみようかな?」と思えば、そのお店に気がついた人はみな、そんな興味を持つ。


 そのお店『骨董店こっとうてん 蜻蛉とんぼ』はその名の通り、外装は、時代劇のドラマや映画のセットで見るような和風である。


 もちろん内装も、同じ和風だ。しかし、このお店で売っている品物は『食器類』だけでなくどこで売っているのか分からない『不思議な商品』も混ざっている。


 実はこのお店。


 ただの『店』と言っておきながら色々と『移動』をする。確かに、移動するのは『場所』と言えば『場所』だ。


 しかし、もっと正確言えば実は移動をするのは『場所』だけではない。この『骨董店』は時間を……いや、『時代』を移動している。


 でも、それを知っている人間は……たぶん片手で数えられる程度だ。


 そんな、『骨董店こっとうてん』で商品を売っているのは、少年と少女の二人である。しかし、その二人は、見た目が洋風だったり人なつっこい性格だったり……と、この物静かで和風な雰囲気には全く合っていない。


 だが、そんなことを当の本人たちは全く気にしていない訳なのだが――。


「おーい」

「? どうしたの?」


「そろそろ開店時間だろ? 電気つけねぇと」

「ああ! ごめんなさい。忘れていたわ!」


 少女は、思い出したように店内の電気をつけ、元気に『はたき』を取り出した。


 今日もまったりと『骨董店こっとうてん 蜻蛉とんぼ』は開店し、人知れず閉店する。


 もし気になった人がいればどうぞ、お気軽にお立ち寄りください。もちろん、無理むりいは致しません。一見いちげんさんも気にせずどうぞ。


 ただ、返品交換は受け付けませんのでご了承くださいませ……。

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