第3話 愛しの君は僕の生きられない世界にいる

俺の彼女を紹介しよう。

彼女って、三人称のものではなく、恋人のほうのやつ。


他の奴らは豪華だ。

華やかな紅色、黄色、金色を身に纏っている。

まあ、悪くはないだろう。いつもモテているのは華やかな女だ。

そんな中で彼女は黒い。

人は彼女を冴えない奴だと思うだろう。

しかし考えてみて欲しい。

黒は身体をシャープに見せる。本当に美しい女は、黒を着こなせる女だ。


目がやけにパチクリしている女もいるが、彼女は普通につぶらな瞳をしている。予想以上の大きさはない、自然な大きさ。

異性の事はよく分からないが、女子のトレンドは目を大きく見せる事らしい。

だがそんな事しなくったって彼女は可愛いんだ。


方向音痴でいつもウロウロしている。

時々家にも帰れない。

しかしご飯を食べる時は彼女に迷いはない。何をするにしても普段は

「えー、私何でもいいよ」

と、俺に丸投げするのに、朝でも昼でも夜でもご飯の時は一直線に動き出す。

元運動部で昔から早食いで有名だった俺よりも、正直言って早い。

「今日もご飯がおいしいね」

「遠慮するなよ」

「うん、いっぱい食べるー」

彼女とこのやりとりを何度行った事か。

ご飯代でバイトの給料を喰われたって構わない。

笑顔でいっぱい食べる彼女が俺は好きなんだ。

植物が大好きで家の緑を一生懸命育てる彼女。

時々トラックかなんかの音で驚く彼女。

瑞々しい肌が魅力の彼女。

まあ、トイレの使い道をいまいち理解していないのが難点だけどもそれもご愛嬌。

今度また教えてあげれば良いんだ。

今日も俺は、彼女を愛している。




「ねえあのさ」

「何だよ、今彼女と話してるんだから邪魔すんな」

「……いい加減の彼女作ったら?」

俺と彼女のスイートなワンルームマンションが、馬鹿の一言で一人暮らしの大学生のワンルームマンションにすっ、と戻ってしまった。

「お前、ポルカの魅力が分からないのか」

3日前に買ったばかりの安物のソファーに寝そべりながら馬鹿は続ける。

確かコイツは、俺の夕飯を作る約束を果たす為に来たはずだが。

「ポルカ? それが真っ黒い金魚の名前?」

水槽の中に居るポルカを二人で凝視する。

ポルカは何も言わずに馬鹿を一瞥し、ふわふわと泳いでいた。

「ポルカが機嫌悪くしただろ、謝れ」

「知るか」

大体さあ、と馬鹿は起き上がって机の上に置いてあったチューハイに手を伸ばす。

「金魚の水槽に便座置く人初めて見たんだけど」

やれやれこの馬鹿分かってないな。

「ポルカだって女の子だ。トイレの一つや二つ必要だろ」

「金魚に何を求めてるのかよく分からないよ」

「愛だよ」

「もっとわかんねえ」

その為に一人でミニチュアの専門店にまで行ったんだ。

それでも馬鹿は納得のいかない顔で続ける。

「元カノのジャンガリアンハムスターには買わなかったのに」

「ステイシーはちょっとパンチが強かったんだ」

ステイシーがご飯をヒマワリの種からカボチャの種に変えた時、怒って家を飛び出していってしまった事は今でも忘れられない。

喧嘩別れはやはり後味が悪い。




それに対してポルカは大人しいかも知れない。

だが確かにポルカを俺は愛している。

ポルカもきっと俺を愛している。

人間しか目に無いあの馬鹿には分からないだろう。

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