第17話   異国趣味はとっても魅力的

サン・サーンス作曲『歌劇「黄色の女王」序曲』さんからのお手紙


 みなさん、ぼんじゅーる!

 ぼくは、サン・サーンス先生の歌劇「黄色の女王」序曲ともうします。

 日本の皆様にお会いできて光栄です。

 と、いいますのも、ぼくは日本にゆかりのあるオペラの序曲だからです。

 え?なんで、序曲だけなの、って?

 それは、ヤマシンさんが、言葉が分からないから、「中身には責任が持てない」っておっしゃるからです。

 でも、ぼくの事は、紹介したい、と言うものですから。

 ぼくは、おそらくプッチーニさんの「蝶々夫人」とか、ギルバート&サリバンさんの「ミカド」とかの日本物オペラの先駆けなんだと思います。

 まあ、大概の方は、山や海の向こうの、遠い世界にあこがれを持ちますよね。そこでは、自分たちとは違う言葉が話され、違う服が使われ、なんだかおいしい食べ物や、不思議な魔法や、変わった習慣や、もしかしたら、ものすごい宝物があったりします。 

 行ってみたいけど、なかなかそうもゆきません。

 つまり日常ではない、『異世界』なのです。

 だから、人間の想像はどんどん果てしなく広がってゆきます。

 でも、サンサーンスさんくらいの時代になると、遠い日本の情報も、多少は入って来るようになってきました。

 さあ、そこで奇想天外なSF的世界が展開されます。

 主人公の青年(ちょっと世紀末的薬物中毒さんのような感じ)は、(多分)浮世絵の中に描かれた日本の女性に恋い焦がれてしまいます。そう、喜歌劇「メリーウイドウ」にでてくる『ヴィリアの歌』の主人公さんみたいにです。おかげで、彼の恋人さんは、まったく相手にされなくなってしまいます。さあ大変!

 で、すったもんだがあって、最後は浮世絵美人は、実は恋人だったとかなって、ハッピーエンド。

 

 ずいぶん前になりますが、ある雑誌(☞後記)の記事に、ぼくの全曲録音をした指揮者、トラヴィス様のインタビュー記事が載っていたことがあります。先生は日本で教鞭も取ったことがある、素晴らしい指揮者の方です。で、そこで、トラヴィス先生は、「サン・サーンスはペンタトニック(五音音階の事です)を使い、上手に日本の雰囲気を出しています。」と述べておられます。

 「まやましんさん」いわく、「それは、全くその通りなんですね。全曲通して、そのつもりで聞いてみると、たしかにそうなんです。でも・・・」


 でも、ぼくと「やましん」さんの出会いは、こうでした。

 もう二十年近くも前のある日、自動車でラジオを聞いていた「やましん」さんのお耳に、なんとも興味深い音楽が聞こえてきました。

 それが、実は、ぼくだったのです。

 でも、彼はまだぼくを知りませんでしたから、「いったいこれは誰なんだろう?」と考えました。

 当時「やましん」さんは、スウェーデンのペッテション・べリエルさんのオペラ「アーンリョット」に関心を持っていましたが、なんだか音楽の雰囲気がよく似ています。「ううん、これはもしかして、ペッテション・ベリエルさんあたりの北欧民族主義音楽系の作品ではないのか!」とか思ったんだそうです。

 でも、アナウンスされたのは、なんとサン・サーンス先生の「ぼく」だったわけです。

 その後、当時は、まだインターネットとかもあまり普及していませんでしたので、なかなかぼくの録音が、手に入らなかったようでした。

 でも、ということは、まず「やましん」さんは、ぼくを「日本的」とは認識しなかった、という事になります。

 これは不思議な事ですよね。

 ぼくから見れば、ぼくは十分「日本的」だと思っていたのに、です。

 実際、日本の方が僕を聞くと、日本的というよりは「中国的」な感じがするようです。

 でも、「やましん」さんは「北欧民族主義音楽」を連想した訳です。(「やましん」さんは、変な人ですし、もちろん、感じ方の個人差があるとは思いますけれど。)


 で、ぼくは思うのです。人間の音楽は、デジタル的に壁で仕切られてしまってるわけではないのだろう、と。実際、ペンタトニックな音楽は世界中に存在しているわけでしょうし、むかし、明治の初めに、スコットランドの歌が日本的に聞こえる、という事で、スコットランドあたりのよい歌が、日本にたくさん輸出されたのですが、これも、誤解と考えるよりは、狭い地球の上では、当然起こることだったんじゃあないかな、と。みんな同じ人間なんですから、ぼくたち、いろんな音楽はあっても、すべて地球の人間の皆さんが生み出したものとして、実はつながっているんだと、思います。どれも人類のすばらしい遺産なんですね。


 まあ、今は、いくらでも、世界にあふれている、ぼくたち音楽を、いつでも同時に聞くことができるよい時代です。

 地球上では、もう「異世界」なんていう場所はなくなってきたので、最近は「異空間」や「宇宙」が人気のようですね。ぼくも行きたいです!


 サン・サーンス先生は、器用貧乏と言いましょうか、どんな様式も、自由自在に書けた方なので、有名な割に、逆にいまいち評価されにくかったのですが、いまこそ、「サン・サン」先生の時代が来ています!

 「ピアノ協奏曲」さん五曲も傑作です。「やましん」さんは、「第四番」がお気に入りだとか。「ヴイオリン協奏曲」さんでは、なんといっても「第三番」くんが有名ですが、でも全三曲とも、とても良い音楽ですよ。「交響曲」さんたちもいますよ。

 どうぞ、ぼくたち、フランスの音楽もよろしく!

 

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(参考)

 サン・サーンス作曲

   歌劇「黄色の女王」序曲

   死の舞踏(歌バージョン・・・おもしろい!)

   「交響曲第三番」     ほか

  指 揮:ジョフリー・サイモン

  管弦楽:ロンドン・フィルハーモニック  ほか

    (英)CALA(CACD1016)


サン・サーンス作曲

  歌劇「黄色の女王」全曲  ほか

  指 揮:フランシス・トラヴィス

  管弦楽:スイス・イタリアン管弦楽団  ほか

    (英)シャンドス (CHAN9837)  



*☞「クラシック・プレス 2001年7月号」に掲載記事を参考。



 


 

 

 







 









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