第16話  同じ日に逝きました

ヘイノ・カスキ作曲「夜の海辺にて」


 みなさん、こんばんわ。

 またまた、フィンランドからの参加で、ちょっと申し訳ありませんが、やましんさんがお好きなものですから・・・。


 さて、ぼくは、いつも夜なので、ご挨拶はいつでも「こんばんわ」です。

 この地球上で、一番ぼくを好んで聞いてくださっているのは、多分、日本の方だと思います。

 また、日本では、先生の「フルート・ソナタ」もフルート吹きの方には、わりと知られていると思います。とても良い曲で、楽譜もCDも出ています。


 でも、カスキ先生が、一番世間に認めてほしかったのは「交響曲ロ短調」さんだったんだと思います。

 ところが、この曲、イギリスのBBCが放送したり、一部ネットで流されたりとかはしましたが、今のところ一般に発売されたCDが見当たりません。 

 仕方がないので、現状では、ぼくたちピアノの小品を聞いていただくしか、なかなか手がないようです。

 ほんとうに惜しい事ですが・・・・


 ところで、フィンランドの英雄、シベリウスさんは1957年の9月20日に91歳で亡くなりました。直前までお元気だったので、ほんとうに大往生だったのです。その葬儀は国をあげて、9月29日に行われました。

 しかし、その同じ日、9月20日に、ぼくの生みの親である、カスキ先生もお亡くなりになったのです。

 なんという偶然でしょうか。

 雄大な交響曲の作曲家だったシベリウスさんは、雄大な葬儀で天国に送られましたが、カスキ先生は、そういう事では無かったようです。

 でも、新聞に小さな記事だけは載ったというので、まったく無視されていたのではないのだろうとは思い、少しだけ、ほっとはしています・・・

 とは言え、なんとなく気の毒な気もします。よりによって、あの方と同じ日、とは・・・。

 それは、ぼくを聞いていただけると、本当に「そうかな」と思っていただけるのではないでしょうか。ぼくは、ロマンティックで、夢見るような、とても美しいメロディーを持っております。それは、「フルート・ソナタ」君も、そうなのですよ。

 

 別に不満を言うのではけっしてありません、と申し上げまして、当時のフィンランドの作曲家の方の中には、民謡風のわかり易い作風で、シベリウスさんをしのぐくらいの人気があった作曲家の方もいらっしゃいます。

 オスカル・メリカントさんですね。

 この方のピアノの小品で「ゆっくりしたワルツ」なんか、とっても良い曲ですよ。歌曲の「アンニーナ」もいいです。

 歌曲と言えば、交響曲とかの大曲では、やはりシベリウスさんを向こうに回しては、なかなか生計を立てられるような評価が得られないという事もあってか、特定の分野に特化して大成功した方もいらっしゃます。

 例えば、ユリヨ・キルピネンさんとか。(1892~1959)

 この方の歌曲は、実はかなりのむかし、日本で相当人気だった時期があったのです。

 そう、今よりも、遥かに日本で有名だったのです。

 それは、日本でとても人気があった歌手、ゲルハルト・ヒュッシュさんが、キルピネンさんのドイツ語歌曲を、日本に紹介したためです。


 フィンランドの作曲家のなかで、シベリウスさんの生きているうちに、「交響曲」で成功できた人は、たぶん、おひとりだけです。

 それは、レーヴィ・マデトヤさん(1887~1947)です。

 この方の三曲の交響曲は、確かに素晴らしい力があります。つまり、とっても個性的で、聞いていて、何かすっごく面白いのです。(二番はちょっと重苦しい、戦争の影が大きい曲ですが。)おすすめです。


 ですが、なんとか、カスキ先生の「交響曲」さんが、皆様の前に、ドドーンと、デビューできる日が早く来てほしいな、と思います。

 じゃあ、良い夜を。音楽でお会いしましょう。


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(参考)


『フィンランド ピアノ音楽 ベストコレクション2』

 ~シベリウス、パルムグレン、O・メリカント、カスキ、クーラの作品集

   ピアノ:館野泉

  ポニー・キャニオン 国内盤 CD(D32L0002) ほか


*メリカントさんは、息子さん(アーレ・メリカントさん)も著名な作曲家です。

 トイヴォ・クーラさん(1883~1918)は、もし長生きしたら、シベリウスさんを凌ぐ大作曲家になれた可能性の大きい方ですが、内戦のごたごたの末、兵士にピストルで頭を撃たれて亡くなりました。もうひとり、早熟の天才がいました。エルンスト・ミエルクさんです(1877~1899)。フィンランドで最初の本格的な交響曲を書いたのですが、まだ二十歳そこそこだったんです。シベリウスさんは、もう三十歳を越していましたが、まだ第一交響曲を書いていませんでした。でも、ミエルクさんは、その後すぐに病死してしまいました。天は、天才に、必ずしも時間を与えてはくださらないようです。


・・・次回は、サン・サーンスさんの「あるオペラ」さんからのお手紙ゆきます。



     




 

 

 




 





 

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