第13話 出た出た、ついに出ました!
カール・ニルセン作曲「フューネン島の春」さんからのお手紙
いやいや、「出た出た!」などと書かれると、ぼくはいったい何なのか、疑われてしまうではありませんか。
確かに、ぼくの生みの親である、カール・ニルセン先生は、デンマーク最高の作曲家と見做され、またフィンランドのシベリウスさんと同い年(1865年生まれ)であり、二人並んで、北欧地域最高の作曲家として認識されてきていますから、(あ、グリーグ先生ごめんなさい)この「詩編集」で初めての登場ということで、どうも、そう書かれたようですが・・・。
ニルセン先生は、まずは交響曲の作曲家として名高いと思います。
先生の6曲の交響曲は、すべてが傑作であり、それはシベリウスさんの7つの交響曲と同時並行的に作曲されて行きました。
完成度が圧倒的に高く、ブラームスさん以降では最高の交響曲群とも言われる一方で、比較的保守的とも言われるシベリウスさんの交響曲に対して、我らがニルセン先生は、20世紀音楽の先駆けとなった作曲家の一人としての評価があるように、ティンパニ演奏者の即興に任せてみたりとか、相当実験的な部分もあり、かなり、革新的な交響曲を書いています。 まあいろいろと対照的なところがあるお二人ですが、ここはまあ、本音は引き分けですが、新世界を切り開いていたニルセン先生が偉いと言いたいけれど・・・でもまあ、完成度と人気の高さで、ちょっとシベリウス先生がやっぱり有利かなあ・・・。(まあ、そうでしょうなあ。と、筆者。)
その生い立ちから見ても、シベリウスさんは、けっしてお金持ちじゃあないけれど、お医者様のご子息という、割と上流階級出身の(でも早くから母子家庭となり、なかなか、お母様は大変だったようですよ・・・筆者)ご出身で、夏には別荘暮らしをしてみたり、その後も、いつもお金はなくとも、なにかと高級志向の強かったシベリウスさんに対して、わがニルセン先生は、労働者階級の12人兄弟の1人として生まれ、子供のころから、必然的に必死に労働することが求められていましたように、対照的なおふたりなのです。
せっかくですから、もう少し、お二人の作品の概略を比較をしてみましょうか。ぼくの立場から、ですよ。
シベリウス先生がオペラ方面には、まったく力を発揮しなかったのに対し(・・・あの、実は一幕ものですが1曲だけあるんですが。「塔の中の姫君」といいます。確かに知られてはいないものの、結構よい音楽なのですよ。・・・筆者の少し遠慮がちな注釈です・・・)、ニルセン先生には、しっかりと「サウルとダヴィデ」「仮面舞踏会」という二曲のオペラ大作があります。ここはニルセン先生の勝ち!
協奏曲の分野では、シベリウスさんは「バイオリン協奏曲ニ短調」一曲しか協奏曲を書かなかった(・・・あのですね、とはいえ、この曲は人気と実力の総合力で、20世紀最高のヴァイオリン協奏曲の座を確保していますよ・・・筆者のかなり力が入った注釈・・・)シベリウス先生に対して、ニルセン先生は「ヴァイオリン」、「フルート」、「クラリネット」と三つの協奏曲を書いておりまして、どれも、まごうことなき傑作です。ここも、ニルセン先生の勝ち!(あらま!?と筆者・・・)
また室内楽の分野では、ニルセン先生の弦楽四重奏曲の1番から4番までの四曲は、一般の知名度はなかなか上がらないものの、バルトークさんの作品と並ぶ近代の傑作です! また「木管五重奏曲」という傑作もあります。 一方、シベリウスさんには、ニ短調の弦楽四重奏曲一曲くらいしか注目される室内楽はありませんね。なので、ニルセン先生の圧勝! (あのですね、ニ短調の弦楽四重奏曲は、それこそ非常に密度の高い傑作ですし、それにシベリウス先生は、プロとして独り立ちする前には、かなりたくさんの室内楽を書いておりまして、なかなかの名曲もあるのです。ただ「シベリウス印」が付くようになる前の作品は、ご本人がずっと隠していたので、今のところまだ知名度がなく、一般への普及は、これからなのですよ。と、少し、やはり遠慮がちな筆者の注釈・・・)
またシベリウスさんは、ピアノ曲に関しては、曲数はかなり多くありますが、大曲は見当たらないのですが、ニルセン先生には「シャコンヌ」というピアノ曲の傑作があります。ここもニルセン先生の勝ち! (あの、ですね、音楽の良さは、曲の大小だけでは決まりません。そこはぜひよく実際に聞いてみてくださいね、しべ先生のピアノ曲の、”じゅわっ”と、しみだす味わいは、なかなかのものですよ。・・・と筆者の静かな注釈・・・)
合唱音楽関係では、シベリウスさんはかなりの数の曲を書いており、またどうしてもメディアにも人気のあるシベリウス先生が有利になるのは残念です。でも、ぼくが、ぼくがいます!(おやおや、完敗ですか?)
またオルガン曲では、シベリウスさんにも、いくつか作品があるのですが、ここは、やっぱり「コンモティオ」という傑作のあるニルセン先生の勝ちでしょう。(まあ、特に反論は控えておきましょう、ふふふ・・・と含み笑いの筆者・・・)
で、いわゆる「交響詩」や管弦楽曲の分野では、ニルセン先生にも「サガの夢」という曲や「ヘリオス序曲」「フェロー諸島への幻想的な旅」などがあるものの、残念ながら、ここはシベリウス先生の圧倒的な一人勝ち状態で、ニルセン先生には、例えばシベリウスさんの「タピオラ」に匹敵できるような管弦楽曲は見当たりません。まあ、これは仕方ないです。(うんうん、その通りだね、と納得の筆者)
歌曲は、いい勝負ですよ。ニルセン先生は、歌曲に関しては、現代的な側面はほとんどお見せにならず、比較的民謡風の聞きやすいものが多いので、日本での知名度は低いですが、ぜひ聞いてみていただきたいものです。(まあ、そうだね、でも、やはり芸術性の高さでは、まあ、しべ先生が有利かな、と筆者・・・)
と、言っていると、もう永遠に続きそうなので、あとはまた、やましんさんがお得意のシベリウスさんについては、いずれ、別項を書くおつもりのようですので、このあたりでこのようなお話はやめます。勝ち負けというのは、まあお遊びですので、念のため。(はいはい。)
ところで、ここで登場するぼくは、いったい何なのかと言いますと、管弦楽付きの、独唱・合唱曲で「フューネン島(フューン島)の春」と申します。
実のところ、ニルセン先生の音楽には、独特の音の進行の特徴があります。また、すこし無理やりっぽい転調をしたりとか、聞けば、理屈はよくわからないけれども、「ああ、これはニルセンさんの曲だな」とすぐ感じる明確な特徴があるのです
人によっては、この音の特徴が「嫌い!」と言っておられた方もありました。
ところが、ぼくに関していえば、あまりそうした特徴を先生は強調していません。(無い事はないですが)
それよりは、暖かい民謡風のメロディーで、聞く人すべての心を癒してしまうような音楽なのです。
その内容も、先生の生まれ故郷である、フューネン(フューン)島に、春がやってきて、父や母たちや、猫の喜ぶ様子が描かれ、恋の喜びが語られ、目の不自由な楽師(たぶんニルセン先生のお父様になぞらえているのだと・・・)の歌、子供たちの元気な歌声、お年寄りたちがしみじみと歌う、間もなくやってくる永遠の安息へのあこがれ、そうして最後には全員が踊りながら、島の自然や、その中で生きる人々や動物たちや・・・もうみんなが一緒になって合唱して、楽しく終わってゆきます。
ニルセンの音楽嫌い! な方でも、きっと安心して聞いていただけると思います。
日本の皆様には、北欧の音楽に関する情報はなかなか普段の生活の中で触れる機会は少ないかと思いますし、ぼくたちニルセン先生の音楽を聴く機会は、そう多くはないでしょうけれど、どうか一度、ぼくを聞いていただいて、遠い国に思いをはせてくだされば、こんな幸せな事はございません。
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(参考)
筆者は、昔イギリスの「ユニコーン」レーベルから出ていた、この曲のCDが大好きですが、ここは日本語訳のついていたCDをご紹介。
* カール・ニルセン作曲
「クラリネット協奏曲」「フルート協奏曲」
「フューン島の春」 そのほか
指 揮:エサ・ペッカ・サロネン
管弦楽:スウェーデン放送交響楽団
そのほか
SONY(国内盤 SRCR 9470)
それから、ちょっと思い切って・・・録音は古めですが、ニルセンさんのヴィンテージ録音を集めた30枚組CDが出ています。ニルセンさんの主要作品がずらっと並んでいますので、参考までに。
*「カール・ニルセン オン レコード」
デンマーク dana cord(DACOCD801-830)
(最近出ている参考書)
* カール・ニルセン自伝「フューン島の少年時代」
カール・ニルセン著 長島要一氏訳
菜流社(2015年)
* ポホヨラの調べ
新田ユリ氏著 五月書房(2015年)
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(追加)
それから、デンマークの作曲家では、少し急進的な作風で、ニルセンさんの陰になってしまった側面もあったのか(ご本人は、どうも自分が認められないのはニルセンさんのせいだと思っていらっしゃったような・・・ニルセンさんを強烈に風刺した曲もありますし・・・)、なかなか社会に認められず、つまり成功できず、かなり苦しんだ方に、ルーズ・ランゴーさんがいらっしゃいます。この方は、早熟な大天才で、沢山の作品がありますが、日本ではニルセンさん以上に、知られていないでしょう。でも、今は、交響曲16曲全曲がCDになっていて、オペラ「反キリスト」もCD・DVDになっています。ピアノ曲や歌曲のCDもあります。当時は不人気だったとしても、今こそランゴーさんの時代が来たのかもしれません。例えば交響曲第2番を聞くと、この時期には、かなり、リヒャルト・シュトラウスの影響があるような感じもしますが、でも尋常じゃない感受性の強さをひしひしと感じます。後半にはソプラノのソロが入ってきますが、言葉が分からないのは残念として、でもなんだか自分が「交響曲」だなんてちっとも思っていないような不思議な新鮮さがありまして、終わった時には「いや、いいなあ!」と、とにかく思いました。ぜひランゴーさんも、聞いてみてください。
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