第10話 豪華・高級・華麗じゃないけど
カバレフスキー作曲「ピアノ協奏曲第三番」 さんからのお手紙
日本の皆様、お元気でしょうか?
私は、カバレフスキー先生の、「ピアノ協奏曲第3番」です。
カバレフスキー先生は、ソビエトの作曲家の中でも、とりわけ教育用の作品が高く評価されておりますね。「道化師のギャロップ」は、日本でも大変有名で、小学校の運動会でも最高の人気曲の一つではないかと思います。
私も、チェロ協奏曲さんなどとともに、教育用の作品として作られております。
初演は当時まだ15歳だった、あのアシュケナージさんがソロを受け持っていました。
その後、エミール・ギレリスさんが独奏者として録音され、これは今もCDで聞くことができますよ。ただし、さすがに音がちょっと古くなりましたが。
当時のソビエトの音楽事情は、とても難しくて厳しいものでありました。
「形式主義者」とか言われたりして当局から目をつけられると、もう命の危険さえありました。
このあたりは、素人がお話しするにはあまりにシビアな問題で、どうかそれぞれ専門家の方のご本をなどご覧くださいね。
カバレフスキー先生は、当初、「多少あやしい!」と見られかけたようなお話もありますが、穏健で民謡風な旋律を多用し、民衆にとって、とてもわかり易い音楽作風で、基本的には当局からの信頼も高く、力もあり、国から表彰も受けたりするなど、ソビエト音楽界の実力者のおひとりでした。
ところが、それだけ、ゆえではないでしょうが、わたくしなど、現在あまりに人気がございません。
クラシックは、「難しくて嫌い!」「権力の象徴のようだ!」とか「長いからいや、時間がない」とか、それはもう、いろいろ皆様のご事情がおありではございましょう。
しかし、もともと教育目的で書かれ、しかも子供だけじゃなく、大人からも愛されるような、分かりやすい音楽を作ることに長けたカバレフスキーさんの音楽です。私は、だから、とっても親しみやすく、理解しやすく、楽しい音楽です。
曲の初めから、ダンス調の楽しい主題から始まり、やがて少し憂いを含んだ、日本の皆様には、やや演歌的にも聞こえるかもしれない美しくも懐かしい第二主題、(この第二主題のはじまりあたりの雰囲気はとてもいいですよ!)再現部ではオケも加わりとってもよい感じ。ゆったりと、またまた民謡のような、わかりやすい主題が流れる第二楽章。その後に出てくる中間部の主題には「泣けます!」。なんといいメロディーでしょうか。そして、活発な中に、結構、演奏者の「腕」を披露も出来るような第三楽章は、最後に第一楽章の第二主題が大きく扱われて、感動的に盛り上がって終わります。
私が生まれた時代のややこしい状況は、この際、ちょっと脇に置いていていただいて、一度ぜひ聞いてみてください。
そうそう、やましんさんから、このお手紙では、誰かほかに聞いてほしい方を紹介するように!とも言われております。
時代が少しさかのぼりまして恐縮ですが、もう一昔前に「隠れ名曲」の代表として取り上げられて、その道の方には、大変な人気曲となりましたし、おかげで録音も結構増えて、もう「レアオン」ではないかな、とも思いますが、若くして極貧のなかで、燃やす「まき」さえもない中で亡くなったという、ロシアの薄倖の作曲家「カリンニコフ」さん作曲の「交響曲第一番」さんなど、いかがでしょうか?
当時は、この曲をエフゲーニ・スヴェトラーノフさんが指揮して録音したCDがあまりに素晴らしいという情報が日本の音楽ファンの皆様の中に広がりまして、このCDを手に入れようとして、かなりの方がお店に殺到し、一時混乱状態が起こった、「カリンニコフ現象」とも言えるようなお話がございます。
どなたが仕掛けたのかって?
すみません、それは存じません。
でも、この曲にはかなり古くから、トスカニーニ様が指揮した録音や、サモスード様の録音もありますことから、それなりに昔から知られた曲ではあったものと思うのですが。
まあ、現在は、他にも良い演奏の録音がいくつもございますし、なにしろ、第一楽章の第二主題は、ロシアの作品中でも最高の名旋律なんて言われることもあるようでございます。確かに非常にわかり易い名曲ですよ。
でも、やはり、わたくしの持つメロディ-の方が、いいんじゃないか、なんて言いますとお叱りを受けるかな?
では、音楽でお会いしましょうね。
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(参考)
ドミトリー・カバレフスキー作曲
「ピアノ協奏曲第三番」
「ピアノと管弦楽のためのラプソディー」ほか
ピアノ:Hsin-Ni Liu
指揮 :ドミトリー・ヤブロンスキー
管弦楽:ロシア・フィルハーモニック管弦楽団
(NAXOS 8.557794)
カリンニコフ作曲
「交響曲第一番」そのほか
指揮: エフゲーニ・スヴェトラーノフ
管弦楽:USSR交響楽団
(ALTO ALC1316; そのほかのレーベルからも発売があ ります。本家の「メロディア」からも、少し以前、やっと再発されまし た。)
*なお、筆者は、実は、ネーメ・ヤルヴィさんが指揮した演奏のCDの方が 好きなのですが、大方はスヴェトラーノフさんの指揮を賞賛されるような 感じです・・・。
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