第8話 気味が悪い絵は魅力的
アンドレアス・ハレーン作曲 交響詩「死の島」さんからのお手紙
日本の諸君、こんばんわ。ぼくは、アンドレアス・ハレーンさん作曲の交響詩「死の島」です。
諸君は「死の島」という有名な絵をご存知かな?
1880年、未亡人マリー・ベルナさんという方が、フィレンツェにいた、画家のアルノルト・ベックリーンのもとを訪ね、「夢想のための絵」の発注をした。
ベックリーンの絵には有能な画商の発案で「死の島」と名前が付けられた。第1版はバーゼルの美術館にあり、第2版が夫人に販売された。
第3版はやがて一時ヒットラーが所有するところとなっていた。他にもあと2版作られたので、結局「死の島」には1880年から86年にかけて描かれた五つの版があり、うち一つは行方不明になった。たぶん戦争で焼失したらしい。
【一艘の小舟が、全体が要塞のようにも見える小さな島に近づいている。島には、その島と一緒になったような建物があって、いくつかの窓が見える。
船の一番前には、白い布に包まれた棺桶のような箱らしきものが横向きに置かれ、その後ろに、真っ白な装束の人物が立ち、一番後ろに、舟のこぎ手がいて櫓をこいでいる。島の中央には大きな木がうっそうと立ち上がる。波は穏やかだが、空の色は暗い・・・。】
ところで、これらの「死の島」の絵には、多くの芸術家が触発されたようなんだね。
画家たちは、カリカチュアを書き、はがきにもなり、オペラの舞台にも応用された。(パトリス・シェロー演出のワーグナー「ニーベルングの指輪」)
作曲家もしかり。有名どころではラフマニノフさんの「死の島」さんがある。作曲は1909年。
また、マックス・レーガーさんは、「ベックリンによる四つの音詩」さんを、1912年から13年にかけて書いている。
そこで、我らがハレーンさんは、1846年生まれのスウェーデンの作曲家。
ベックリンさんの絵と、オイゲン・フォン・エルツベルグさんという方の詩に霊感を得て、1898年に書いたのがぼく。
つまりぼくは、ラフマニノフさんやレーガーさんが書いた兄弟よりも、かなり早く生まれたという事だな。
ぼくはあまりでっかい音は出さない、わりとおとなしい音楽ではあるが、前半はかなり不気味な感じを持った短調で書かれ、後半になると一転して長調の割と明るい音色が中心になる。でも、前半で暗い色調を聞かされている聴衆にとって、(特に絵を見たことがある人にとって)この後半に至っての転調は、かなり効果的。
あたかも、天国が、だんだん近づいてきている感じなんだ。
ほんの少しだけ、お塩が隠し味で入ると、一層甘く感じるでしょ。
まあ、そんなところもあると思う。
そうして、曲のおしまいの少し前のところで現れる不思議な上昇音階は、まるで最後、ゆっくり天国に昇天してゆくような印象さえ与えてくれるが、一番最後の音だけは、昇りきらないで少し沈んでいる。
これをどう感じるかは、あなた次第ですね。
そうして、眠るように、最後を迎えます。
たぶん、ほとんど日本の社会には知られていないぼくだけれど、とても美しい旋律を持った、割と日本人好みの音楽だと思うんです。
聞いてもらえると、うれしいな。
では、音楽で会おう。 またね。
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(参考)
「ベックリーン【死の島】」 ・・・ 書籍
フランツ・ツェルガー著 髙阪一治訳(三元社1998)
アンドレアス・ハレーン作曲
「スウェーデン狂詩曲第二番」
交響詩「死の島」 ほか
スウェーデン(MUSICA SVECIAE MSCD621)
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