第7話   やはり省略すると失礼な例

   カレヴィ・アホ作曲「交響曲第五番」さんからのお手紙


 日本の皆様、パイヴァー! こんにちは。

 ぼくは、アホ先生作曲の「交響曲第五番」です。

 みなさんは、アホ先生の写真をご覧になったことがありますか?

 満面の笑みを浮かべた、素晴らしい写真があります。

 大体、学校の音楽室にある偉大な作曲家の皆さんのオフィシャルな肖像画や写真は、この世の中の苦しみを、すべて一人で請け負っておられるようなお顔をされている場合が多いですよね。

 でも、フィンランドの作曲家の方の写真を見ておりますと、ハッリ・ヴェッスマンさんも、ユッカ・リンコラさんも、エリク・ベルイマンさんも、なかなか、皆さんかわいい(失礼!)笑みを浮かべておられる写真があり、とても親しみを感じますよ。中でも、アホ先生の笑顔は、もう「うん千万ドルの笑顔」と言いますか、こんな素晴らしい笑顔は、なかなか見かけないくらい素晴らしい。しかも気品があり、才気にあふれています。(まあ、ぼくの生みの親ですから!)

 文章を書いても、なかなかのものです。

 ただし、やましんさんは、外国語はまったくダメですけれどね。

 ところが、ぼくを初めて聞く一般のお方は、ちょっと頭からどきっとするかもしれません。プロコフィエフさんが、腹を立てて突然怒鳴ったような、出だしの音のかたまり。その後もあっちこっちで音同士がぶつかり、リズムも三拍子なんだか二拍子なんだかわからないうちに、ますますいろんな音たちがぶつかり合い、せめぎあい、お鍋の中に放り込まれて、ごたごた煮えたぎったお湯の上でダンスを踊りまくるような状況となります。

 やましんさんも、寝るときに聞いていると、現実の世界と夢の世界とのはざまに放り込まれて、悪夢の中にうなされてしまうようだ、とおっしゃっていました。

 アホさんご自身がお書きになった「第二次世界大戦後のフィンランドの音楽」(後記)を読むと、「アホは・・・自らの美学を反抗の、あるいは問いただしの美学とも位置づけ・・・音楽は聴衆をはっとさせ、新しいやり方で人生と世界を認識させるようでなければならない・・・」と書いていらっしゃいます。

 いやまさに、そういう音楽なのです。

 でも、何回か聞いていると、「ここであの音がするぞ」とか、「ああ、こうだったのか」とか、少しずつですが道が見えてくるものです。

 ぼくは、「モダン」な、いわゆる現代音楽であり、旋律があふれ出す種類の曲ではないので、少し親しみにくいかとは思いますが、あの「満面笑顔」の方が書いたと思いながら、ちょっとその心理的ギャップも楽しんでみてはいかがでしょうか。(またまた失礼しました!・・筆者)それに、少し激しめの音をお好きな方々には「意外といいじゃん」と言ってただけるかもしれません。(と期待したり・・・)

 フィンランドのクラシック音楽は、長年シベリウス先生の巨大な威光のもとにありました。(やましんさんも、シベリウス先生を、あたかも神様のように慕っております。なかでも「交響曲第六番」こそが、やましんさんがこれまで生きてこられた力の源泉らしいです。これについては、『死ぬ前に書くんだ!』と言っています。ぼくは、早い方がよさそうな気もしますが、『それを書いてしまうと、すべてがおしまいなんだ』、とか・・・)でも、実は、多くの個性溢れる作曲家の方が、現代まで沢山生まれてきた国なのです。ぼくだけでなく、フィンランドの音楽を、たくさん聞いてくださいね。

 では音楽でお会いしましょう!  ナ(ネ)ケミーン!


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(参考)

 『カレヴィ・アホの個展』

  「交響曲第五番」「弦楽四重奏曲第三番」「ピアノ・ソナタ」

  「オーボエと弦楽のための五重奏曲」「ファゴットと弦楽のための五重奏曲」

     指揮:マックス・ポンマー 管弦楽:ライプチヒ放送交響楽団 ほか

     フィンランド(FINLANDIA:国内盤:WPCSー10216/7)


 『フィンランドの音楽』(本です)

    カレヴィ・アホ他著(オタヴァ出版印刷所1997)

                                





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