第5話   身は小さくとも・・・

     ランゲ作曲「花の歌」 さまからのお手紙


 皆さん、ハロー。

 私は、ランゲ先生作曲の「花の歌」です。

 ランゲ先生の「花の歌」といいますと、ピアノのお稽古を思い出す方もきっと多い事でしょう。

 グスタフ・ランゲさんは1830年、当時のプロイセン王国に生まれました。400曲以上のピアノ曲を書いたとされていますが、小品が大部分で、その中でも「花の歌」は日本でも人気です。

 でも、ピアノの練習用の曲という感覚も強く、芸術として認識されることはあまりない気はしております。

 もちろん、あたくしは、自分が「げいじゅつだ~!」なんて申し上げる立場にはございません。

 もっと、つつましやかな、存在ですもの。

 でも、このあたくしを、本当に一つの音楽として、全身全霊を傾けて向き合い、録音してくださった音楽家の方が日本にいらっしゃいます。いえ、いらっしゃまいました。

 中村紘子さまです。

 中村様の「花の歌」の録音は、それはもう素晴らしいものでございます。

 私、という、この小さな小さな体から、信じられないくらいの、多様なニュアンスと、すばらしく美しい、はかない、花の香りを引き出してくださったのです。

 あたくしのような、こんな、小さな小品からでも、このような素晴らしい音楽の世界が導き出されるのです。

 大昔の大演奏家の方々は、カザルスさんも、モイーズさんも、ハイフェッツさんも、みなさまこうした「小品芸」が、とてもお上手でした。


 そういえば、ジャン・フィリップ・ラモーの「やさしい訴え(嘆き)」さまとか、フランソア・クープランの「葦」さまとかの小曲を、やはり日本の宮沢明子さまが、すばらしい演奏で、録音をしてくださっています。「やましんさん」は、よく、あたくしたちをお聞きになりながら、泣いていらっしゃいました。


 また、館野泉さまは、シベリウスの小品をたくさん録音されていますが、その中でも「ロマンティックな情景作品105の5」さまなんて、もうあまりの美しさで、わたくも、すっかりとろけてしまいそうでございました。


 今は、CDやダウンロード、その他で、手軽に音楽を聴いていただける世の中になりました。

 どうか、わたくしども往年の小品たちに、もう一度、お目を向けていただければ、こんな幸せはございません。

 

 では、音楽でお目にかかりましょう。

                        さようなら



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(参考)

 筆者がよく聞いたもので、すぐに手元に出て来てくれたレコードを、書いておきます。1と3は、CDも確認しています。



 1 ランゲ作曲 「花の歌」そのほかいろいろ。

    ピアノ:中村紘子

        LPレコード(CBSソニー 50AC454-6)


 2 ジャン=フィリップ・ラモー作曲 

       「やさしい訴え」「村の女」

   フランソワ・クープラン作曲 

       「葦」「フランス人気質」「小さな風車」

                          そのほか

    ピアノ:宮沢明子

        LPレコード(トリオ PA-5043)


 3 シベリウス作曲

    「ロマンス作品24の9」「樹の組曲」

  「ソナチネ第一番・第二番」「村の教会」「ロマンティックな情景」

                          そのほか

    ピアノ:館野 泉

        LPレコード(東芝TA-72021) 

                    


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