第3話   「ばかこん」なんて呼ぶな!

バカリッセ作曲「ギター(小)協奏曲イ短調」さんからのお手紙


『やあ、日本のみんな、コンチハ。俺は、バカリッセさんが創ってくれた「ギター協奏曲」さ。

 のっけから苦情で悪いが、もうどいつもこいつも、ギターのための協奏曲というと、アランフェス君のことばかりだ(編者注:ロドリーゴさんの「アランフェスの協奏曲」のことです)。

 確かにあいつは優秀だ。しかもギターという楽器が、ポピュラーばっかじゃなく、立派にクラシックな楽器だぜと、世に知らしめる効果は抜群だ。

 第一あいつには「第二楽章」という、とっときの武器がある。

 クラシック分野だけじゃなくて、適当に短縮して、ポピュラーミュージックとしても立派に流通してやがる。

 俺にはできない芸当だぜ。

 大体、ギターのための協奏曲っていうのは、作曲家にとって厄介というか、音が小さいもんだから、オーケストラと合わせるのが、なかなか、結構、難しいからか、重厚長大趣味の19世紀には、余り流行らなかったらしい。

 まあ、あのベートーヴェン大先生が、ほめてくれたって話は有名だがね。

 

 けれど20世紀になって、どかんと作られたんだ。

 俺も、その一つさ。

 クラシックギターをたしなむ御仁には、多少は知られているかもしれないが、世間様にゃあ、あまり顔が利かないんだ。

 そりゃあ、ネットでCDの情報を見りゃあすぐわかる。

 俺の新品CDを探すのは、ちょっとは骨が折れるぜ。


 しかしだ、俺のまず第一楽章冒頭を聞いてみてほしい。

 もう、あまりの感動に、涙がちょちょぎれるってもんだ。(最近使われない言葉なので、気に障った方、すみません・・・編者)

 ギターの”バランバラン”ってー、つまり、分散和音ってやつかなー、にのっかってオケが、哀愁に満ちたメロディーを、めいっぱい弾きやがるぜ。ここはもう、最高だぜ。アランフェス君も、ここに関しては、一目置いてくれているらしい。(編者注:本人の勝手な想像で、根拠はない。)


 バカリッセさんは、1898年の生まれだが、スペイン内戦のあとの1939年に、あのフランコ政権への協力を拒否して、フランスに亡命したんだそうだ。

 苦労したんだろうなあ。で、俺は、1952年に作曲された。

 アランフェス君は1939年生まれだから、まあ、偉そうに言っても、俺は後輩だがな。そうした苦労も、あの冒頭に反映されてるのかもしらねぇな。


 でも、その後の音楽の進行もわかり安いし、聞くのに苦労はいらねえよ。

 ロマンチックに聞いてくれりゃあ、それでいいのさ。

 第二楽章は、さすがにアランフェス君には、ちょっと及ばないかもしれないが、けっして悪くないぜ。いいメロディーさ。うっとりするような、な。

 終楽章(第四楽章)はちょっと第一楽章を思い出させるが、これはこれで立派なもんだ。

 なんせ、俺のいいところは、オケとソロがお互いに美味しいところも、きっちり持ち合って、うまくやってるところかなあ。

 人間そうでなくっちゃな。

 一人占めはよくないよな。


 そういやあ、君たち、テデスコさんを知ってるか?

 この人も、俺のような、りっぱなギター協奏曲を書いてるし、ギターの曲も大量に作ったが、やはりイタリアのファシスト政権に追われて、アメリカに行った。

 この時代の作曲家のかなり多くが、独裁政権に自由を奪われてしまったのは、残念としか言いようがないぜ。もう、こうした事は、なしにしようぜ。

 じゃな!

                   聞いてくれよな、みんな!


 =====================


 *筆者は、この曲をバルセロナの住所が記された、解説も何もついていないCDで、聞きました。レーベルはPERFIL、ギターはManuel cubedoさん、指揮はRafael ferrerさんで、バルセロナ交響楽団。ネットを少し見るところでは、このCDの写真も出てきますし、同じ録音と思われるものもあるようです。この演奏者の演奏会らしき記事も見られましたが、まとまった解説が見つからず、詳しい録音のデータは分かりません。現在(中古ですが)、イエペス様のCDを注文しております。 作曲者のお名前が、J.Bakarisseとなっているのは、不明です。サルバドール・バカリッセさまだと思いますが・・・。正規盤かどうか、少し心配です。

ギター音楽にお詳しい方には、きっと歯がゆい事でしょうが、申し訳ございません。 

        

(追記1)

 LPレコードを見つけました。

      : (英)contour(2870 365)

マヌエル・クベドさんはスペインのカステリョー・デ・ラ・プラナ生まれのギタリスト。最初の公開演奏会は、なんと9歳の時だったと解説にあります。どの分野でも天才には、いつもびっくりします。やましんおじさんが、50年がんばって楽器を練習しても、始めて二年目くらいの中学生に歯が立たないなんてことがあるのは、ほとんど許せないことですよね。



 追記の付録


 (2021.11.6) 同録音の、国内盤のレコードも、見つけました。テイチク ULX-3261-V。です。オリジナルは、I.T.W.となっています。解説からすると、1976年くらいのレコードらしいです。



      📻

 


(追記2)

 ロドリーゴ作曲 アランフェス協奏曲

 バカリッセ作曲 ギータ小協奏曲   

                ほか

  ギター:ナルシソ・イエペス

  指揮 :オドン・アロンソ

  管弦楽:スペイン放送交響楽団

    DG(POCG-6026 国内盤) 



 (2021.11.6) もうひとつ、国内盤のCD。


 ナルシソ・イエペスさま、ギター


 ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスさま指揮


 スペイン・フィルハーモニー管弦楽団。


 ちょっと、こわもての、格調あるクラシックな演奏。                










 










 

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