第17話
我に返るまでどのくらいかかったか知らないが、とりあえず俺はまだ給水塔の上で突っ伏していた。
記憶が飛んでいる。
何をひっくり返しても時枝から断りの台詞が出てくるとは思えなくて、注意力とか思考力とかそういうのが全部その一言に持っていかれた。というかほぼ放心状態だった。だからその後の断った理由とか上野はどうしたかとかの話がまるっきり頭に残っていない。
屋上は静まり返っている。
……というか、上野と時枝はもう屋上から出て行ったのだろうか。それすら確認できていない。
どのくらい経ったのかと腕時計を確認してみるが、むしろ時間が巻き戻っていたので何もわからなかった。放心している間に自動調整されたのだろうか。
どうしたものかと額に手の甲を当てるが、まあこの静寂だ。こんだけ静かならさすがにもういないだろう。フったフラれたの後だし、これだけの静寂の中まだ一緒にいるってことはないだろう。
そう一人でうなずいて、じゃあ俺もそろそろ帰ってよさそうかな、と思ったとき、すぐそばでカンカンと金属質な音がした。
そう、ちょうど梯子を上る感じの音――
「あれ?」
「お……ッ、あァ!?」
転げ落ちなかっただけマシだ。
ひょっこりと顔を出した時枝とバッチリ目が合って、俺はとっさに後ずさろうとするのを死ぬ思いで抑えねばならなかった。
「ああ、いたんだ。……え、なんで?」
「なんでって、いや、なんでって」
「……あ、もしかして、聞いてた?」
「聞いてたって」なんて答えればいいんだよ。
何か言わなければと思いつつ、その思いは口パクという形でしか表に出てこない。
そうしている間に時枝は梯子を上り切って、あまり広くもない給水塔の上、へたり込んでいる俺の隣に仁王立ち。
おでこのあたりに手をかざし、キャンプファイアーの炎を見つめて――
「まあ、別になんにもないよね」そう言って笑った。
「……ないんだ?」何がしたいんだろう。
「で、まだ帰らないの?」
「え?」
「私は、そろそろ帰るけど」
「……」
なんか、一緒に帰ることになった。
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