JUMP4 また一緒にバスケをしよう!
① 本物の空を見に行こうよ!
神凪ヤマトは走っていた。
マルカを背負い、一心不乱に走り続けていた。
背中から伝わる体温が、やけどしそうなくらいに熱い。マルカの呼吸は荒く、身体はかすかに震え、ものすごい量の汗をかいている。
一体なぜ、こんなことになってしまったのか。
試合中、体調の悪い素振りなど一切見せなかったマルカが。
ついさっきまで、あんなに楽しそうにコートの中を走り回っていたはずのマルカが――どうしていきなり、こんな高熱を出して倒れてしまったのだろう。
ヤマトは困惑し、そして焦燥に駆られていた。
(とにかく、マルカを……マルカを助けなくちゃ!)
少年の脳裏には、この言葉だけが強く強く響き続けていた。
数分前。
ルナリアンの少年たちとの試合終了直後、その場で突然倒れてしまったマルカ。
ヤマトはすぐさま駆け寄り声をかけたが、すでにマルカは意識を失っているようだった。
汗に濡れたマルカの前髪をどかし、額に手を当てると、信じられないほどの熱が一瞬にして手のひらに伝わってきた。
苦しそうな表情で息を荒げるマルカを見て、ヤマトはことの重大さを痛感させられた。
一刻も早くマルカを医者に見せなければならない。
しかし、ヤマトもミコトも、近くの病院の場所などわからない。
ルナリアンの少年たちに場所を聞いても良いが、協力的になってくれる気はしなかった。
どうするべきか。
やはり一度、研究所に戻って、マルカを保護者に見せた方が良いのだろうか。
そう考えたヤマトは、真剣な眼差しで兄を見つめ、意見を求めた。
対して、思い詰めた表情でミコトは答えた。
「……マルカを研究所に連れて帰ろう。オレたちじゃどうするべきかわからない」
その言葉には、不安や後悔や焦りの色が複雑に入り混じっていた。
ミコトとしても、まさかこんなことになるとは思っていなかったのだ。
思えば、兄弟はマルカの身体のことを何も知らなかった。
なぜ過度な運動を保護者から禁止されているのか。どうして生まれてからずっと、あの〝宇宙遺伝子学研究所〟で育てられてきたのか。
そういった事情の詳細を、マルカは兄弟に話そうとしなかったのだ。
そして、兄弟からもあえて聞こうとはしなかった。
なんとなく、そのことを深く追求してしまったら、今の3人の関係が壊れてしまうような、そんな予感があったからだ。
しかし、それは間違いだった。
もっときちんと、マルカの身体の事情を知っておくべきだったのだ。
おそらく、マルカが過度な運動を禁止されていた理由は、今のような状態になるからだったのだろう。
ヤマトは後悔と罪悪感に心を貫かれながら、マルカを背負い上げた。
その細くて小さな身体は、重さ6分の1になっていることを加味しても、驚くほどに軽かった。
煮えたぎるように熱くなったマルカの体温が背中に伝わり、ヤマトはそのままマルカが燃え尽きてしまうんじゃないかと思って、心臓が張り裂けるような不安を感じた。
しかし、あらゆる負の感情を振り切り、ヤマトは言った。
「……っ……よし、行こう」
「ああ、急ごう!」
そのまま兄弟は公園を後にし、全速力で研究所へと向かった。
そして現在。
ヤマトとミコトは宇宙遺伝子学研究所に到着し、入口の門の前に立っていた。
マルカを背負ったまま走ってきたヤマトは、大きく肩を揺らして息を整えていた。そのあいだに、ミコトが門へと近づき、開いているかどうかを確認した。
「くそ、閉まってる」
ミコトは苛立たしげに言った。
こうしているあいだにも、マルカはずっと辛そうにしている。
一刻も早く、中にいる人間にマルカの容体を知らせなければならない。
こんなところで、足止めを食らっている場合ではないのだ。
「だれか、誰かいませんか! マルカを……マルカを助けて下さい!」
大きな声でミコトが叫んだ。門の向こう側、施設の中にまで届くように。
しかし、何の反応も返ってこない。
ミコトは『どうすればいいんだ』と言わんばかりの表情で、両拳を握りしめながら歯噛みした。
しかし、その様子を見たヤマトは、即座に行動を起こした。
「ミコト、マルカを頼む」
そう言って背中からマルカを降ろし、ミコトに預けると、門の前から10メートルほど離れた位置に立つ。
そして――。
「お、おいヤマト」
兄の言葉を聞く間すらなく、一気に助走をつけて大きく跳躍、門を飛び越えた。
6分の1Gのゆっくりとした速度で落下していくヤマトの身体。
地面にたどり着くまでのこの時間すら、もどかしい。
そう思いながら、ヤマトは着地を遂げた。
「すぐに、誰か連れてくるから――」
ヤマトは振り向くことなくそう言うと、そのまま奥にある施設に向かって駆け出した。
(ごめん、マルカ。あんなに辛そうにしてたのに気づいてやれなくて。もう少しだけ待っていてくれ。すぐにおれが助けを呼んで来るから……!)
心の中でマルカの無事を祈りながら、神凪ヤマトは走り続けた。
その日の夕方。
マルカ・ラジェンスカヤは、自分の部屋のベッドで目を覚ました。
「……ん、あれ、ここ……」
視界に入ってきたのは、見慣れた真っ白な天井。
頭を預けている枕も、マルカ愛用のものだ。
羽毛布団の上に毛布が数枚、重ねられていて、いつもより掛布団が重たい気もするが、ここは自分の部屋に間違いなかった。
念のため、横になったまま枕元を手で探ると、そこにはマルカお気に入りの大きなウサギのぬいぐるみ〝チャッピー君〟がちゃんといてくれた。
ひとまずマルカは、チャッピー君のお腹に『ぼふっ』と顔をうずめると、その体勢のまま大きく深呼吸をした。
(うー、なんかすごくだるい。頭痛い。でも……うん、私の部屋だ)
「ただいま、チャッピー君」
マルカはぬいぐるみを見つめて小さくそう呟くと、ひとまずほっと息をついた。
しかし、いつの間に寝てしまったのだろうか。前後の記憶がおぼつかない。
「確か、ヤマトとミコトと公園にバスケをしに行って、近くに住んでる男の子たちと勝負をすることになって、それで――」
マルカは思い出す。
そうだ――試合に勝った直後、自分はいきなり体調を崩して倒れてしまったのだ、と。
試合中盤から、動悸や息切れなど身体に異変を感じてはいたが、無理をして運動を続けてしまったのがいけなかったのだろうか。
とは言えマルカは、まさかあんなに短い時間、運動をしただけで倒れてしまうほど、自分がひ弱だとは思っていなかった。
それにしても、あれからどうなったのだろうか。
今こうして自分が部屋で寝ているということは、おそらくヤマトとミコトがここまで連れてきてくれたのだとは思う。
でも、だとしたら、2人は施設の人になんと言って事情を説明したのだろう。
クレア先生たちに内緒でバスケをしていたことは、もうばれてしまったのだろうか。……ならばもう、3人で一緒にバスケをすることはできないのだろうか。
と、マルカが悲しい気持ちでそんなことを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
同時に、扉の向こうから聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。
「マルカちゃーん、入るっすよー」
そのままゆっくりと扉が開かれ、メガネをかけた白衣姿の女性が部屋に入ってきた。どうやらクレア先生が様子を見に来たようだ。
「クレア先生……」
ベッドに横になったままマルカは返事をした。
「おや、目が覚めたんすね。良かった良かった」
クレアはそう言ったあと、マルカのベッドに腰をかけ、ポケットから体温計を取り出してマルカの熱を測った。
「ふむ、さっきより熱は下がったみたいっすね。でも、まだ安静にしてなきゃダメっすよ」
「……う……うん」
マルカは不安そうに答えた。
クレアに色々と聞きたいことがあったが、どう言葉にすればいいかわからない。
ヤマトとミコトはどうなったのだろう。今どこにいるのだろう。
それに、マルカが嘘をついたことを、クレアは怒っているのだろうか。
様々な想いが頭を駆け巡り、マルカは言葉を紡げないでいた。
すると、そんな姿を見かねたクレアは、1つため息をついたあと、母親のように優しい手つきでマルカの頭を撫でた。
「まったく、あれだけ過度な運動は控えなきゃダメって言ったのに、しょうがないっすねぇ」
クレアのその態度と言葉は、深い愛に満ちていて、マルカはそれに安心すると共に、とても申し訳ない気持ちになった。
「いいっすか、マルカちゃん。何度も言ったことっすけど、あなたは普通の子とは違う特別な子なんです。マルカちゃんの身体は普通の人間よりも免疫が弱い。
むやみやたらに外に出て、病原菌を貰ったりしたら、命にかかわることだってあるんすよ?」
「ご……ごめんなさい……」
「今回は軽い風邪の症状が出ただけでしたけど、今度から勝手に外で運動したりしちゃあダメっすよ」
「で、でも……クレア先生! わたし……私やっと……!」
『やっと初めての友達ができたのに』
その言葉を、マルカは口に出せなかった。
それを口にしてしまったら、もう二度とヤマトとミコトに会えなくなってしまうような、そんな気がしたのだ。
自分は、またひとりぼっちに戻ってしまうのだろうか。
せっかく2人と友達になって、あんなに楽しくルナバスケができたのに。
もうこれで、おしまいなのだろうか。
そんな風に思ってしまったマルカが、目に涙を浮かべて悲しそうにしていると、クレアは少し微笑んでから言った。
「安心してください。あの子たち……ヤマト君とミコト君って言いましたっけ?
彼らはまだ帰ってないっすよ」
「……え、本当!?」
マルカの表情が一瞬で明るくなる。
「はい。まったくびっくりしたっすよ。……お昼頃、あのヤマトって子がいきなり施設に駆け込んきて『マルカを助けて!』なんて叫ぶもんだから、慌ててついて行ったら、門の前でマルカちゃんが熱を出して倒れてて……。それからもうてんやわんやでしたよ!」
クレアは眉をひそめ、首をすくめながら続けた。
「すぐにキューブリック教授に報告して、大急ぎで治療と検査をした結果、大事に至らなかったのは良かったんすけど、そのあと教授が怒り出しちゃって……。
あの兄弟をすごい剣幕で追い出そうとしたんす。でも、それにヤマト君がものすごい勢いで反発して『マルカに会うまで帰らない!』なんて言って、その場にあぐらをかいて座り込んじゃって――」
ちなみに〝キューブリック教授〟とは、この宇宙遺伝子学研究所の責任者で、身寄りのないマルカの後見人でもある人だ。
とても厳格な老人男性で、マルカにとっては怖い父親のような存在だった。
「当然、教授は構わずつまみ出そうとしたんすけど、今度はお兄さんのミコト君の方から『マルカと友達でいさせてください!』なんて必死でお願いされちゃって、なんと結局、2人であの頑固な教授を説得しちゃったんすよ」
「……え……それって」
驚くマルカに、クレアは『ふふっ』と微笑を浮かべてから答えた。
「そうっす。キューブリック教授は『マルカと友達でいたいのなら好きにしろ』って、ヤマト君たちに言ったっすよ。……マルカちゃん、いい友達を持ちましたね」
「……っ……」
マルカはまるで、夢の中にいるような気分だった。
生まれてから約11年、マルカはこの施設の中でずっと過ごしてきた。
それは、マルカの身体が普通の人間とは違う、特別な治療を必要とする身体だったからだ。
低重力障害と成長障害。
マルカの身体は、普通の人間よりも骨や筋肉、循環器系などが弱く、そして地球人よりも成長が遅かった。
《月》という地球とは違う環境で生まれたがゆえに、遺伝子に変化をきたして生まれてきた特別なルナリアン。それが、マルカ・ラジェンスカヤという少女だ。
そんなマルカは、物心ついてからずっと大人たちに囲まれ、検査と治療に追われる日々を送ってきた。
そういった孤独で退屈な日常の中で、マルカはずっと願い続けていた。
いつか自分も、テレビや本の中に出てくる登場人物のように、《友達》と一緒に外で遊んでみたいと。
しかし、マルカの身体は一向に良くならなかった。
このままずっと、もしかして一生……この狭い研究所の中で閉じ込められるように暮らさなければならないのか。
そんな風に考えていた時――マルカの前にヤマトとミコトが現れた。
その出会いは、まさに神様が与えてくれた奇跡のように、マルカには感じられた。
2人と一緒に大好きなルナバスケができることを、マルカは心の底から嬉しく思っていたし、ずっとこの時間が続けばいいと思っていた。
だからこそ、ヤマトとミコトが《マルカと友達でいたい》と思ってくれていたことを聞かされて、マルカは本当に本当に……気持ちが溢れかえるほどに嬉しかったのだ。
もう、自分は1人ではない。
自分はヤマトとミコトの友達なのだ。友達でいていいのだ。
その事実を理解したとき、マルカの目からは自然と涙が零れ落ちていた。
小さく嗚咽を漏らし、マルカは身体を震わせた。
そんな少女を、クレアは優しく抱きしめた。
「ほらほら、そんなに泣いてると、友達に笑われちゃうっすよ」
「うん、そうだね……うん……」
マルカはクレアの温かいぬくもりに包まれ、その胸の中で幸せを感じながらすすり泣いた。
しばらくして――。
マルカが泣き止んだことを確認すると、クレアは立ち上がって口を開いた。
「じゃあ、私はヤマト君とミコト君を呼びに行ってきますから、マルカちゃんはこのまま安静にしてて下さいっす」
「うん! ありがとう。クレア先生」
マルカの返事ににっこりと微笑んだクレアは、カーテンを開けて夕陽が差し込むようにしてから、部屋をあとにした。
数秒後、マルカはなんだか力が抜けて、ため息をついてしまった。
キューブリック教授が、ヤマトとミコトを《マルカの友達》として認めてくれた。
改めてその事実を受け止めてみて、マルカは信じられない気持ちになったのだ。
教授はとても厳格な人で、マルカの身体や将来のことを第一に考えていた。
マルカが外を出歩くのを極端に嫌っていたし、外部の人間とマルカが会うことも極力ないように取り計らっていた。
そんなキューブリック教授を、ヤマトとミコトが説得してしまったことが、マルカはとても驚きだった。
――いったいなんて言って教授を説得したのかな?
マルカがそんな風に楽しい気持ちで考えていると、夕陽の差し込む窓の方から、神秘的な少女の声が聞こえてきた。
「良かったわね、マルカ」
その声の主は、真っ白なドレスに身を包んだ、銀色の髪の美しい少女だった。
いつの間に現れたのだろうか。
部屋の窓に背を預け、少女はマルカの方を向いて微笑んでいた。
それに気づいたマルカは、反射的にその少女に返事をした。
「……っ……いたのね……アイリス」
「当たり前でしょう? 私はいつだって、あなたと共にいるわ」
アイリスの瞳が美しい虹色に輝き、吸い込むようにマルカを見つめた。
しかしマルカは、今度は言葉を返さなかった。
「……」
「それにしても、心配したのよマルカ。あなたは身体が弱いのだから、あまり無理をしてはいけないわ」
マルカはそれでも、アイリスの言葉に返事をしない。
キューブリック教授にきつく言われているのだ。
アイリスと会話をしてはいけない。彼女は不幸を呼ぶ存在だ――と。
マルカの無反応に、アイリスはため息をついた。
「……つれないのね。せっかく、あの兄弟とあなたを引き合わせてあげたのに」
しかしその言葉を聞いた瞬間、マルカは思わず言葉を返してしまった。
「……っっ! やっぱりあなたが2人をここへ呼んだのね!! どうして!?」
「決まっているでしょう。マルカ、あなたが望んだからよ。あなたのためを思って私は――」
「そんなこと頼んでない!」
マルカは激昂した。
その態度に、アイリスはとても悲しそうな表情を見せた。
「でも、マルカ――」
「いいから早く消えて! いなくなってよ! 早くしないと、2人が部屋に来ちゃうじゃない……」
そう言って、マルカは消え入りそうな表情で俯いた。
アイリスは、その姿を寂しそうに見つめ、しばらく沈黙してから口を開いた
「わかったわ。あなたがそう言うのなら、今日はもう行くわね。
でも、これだけは覚えておいて。あなたが本当に外の世界に出ることを望むのならば、あなたは私を受け入れなければならない。
そうしなければ、あなたの身体はずっと不自由なままだわ。
もちろん、最後にどうするかを決めるのはあなただけれど、少なくとも、私はあなたの幸せを心から願っているから――」
その言葉が告げられた数秒後。
マルカが顔を上げて窓際を見ると、そこにはもうアイリスはいなくなっていた。
窓の外から差し込む橙色の夕日が、むなしくマルカの部屋を照らしていた。
彼らと顔を合わせ、何でもいいから楽しく話がしたい。
マルカは、どうしようもなくそう思っていた――。
とその時、再び『コンコン』というノックの音が聞こえてきた。
マルカは救われたような気持ちで返事をした。
「どうぞ」
扉が開き、3人の人影がマルカの部屋に入ってきた。
1人はクレア先生で、残りの2人はもちろん――ヤマトとミコトだった。
「「マルカ!!」」
兄弟は同時にマルカの名前を呼び、一気にマルカのベッドまで駆け寄った。
「ヤマト! ミコト!」
マルカが2人に答えると、兄弟は太陽のように明るい笑顔を見せて喜んだ。
「良かった、マルカ! 心配したんだぞっ……急に倒れてものすごい熱を出したから。もうオレ、どうしたらいいかわからなくて、それでっ……」
無事を確認して安心したのか、ミコトは珍しく声を震わせ感情を荒げていた。
そしてその目は、若干潤んでいるようにすら見えた。
「マルカっ……まるかぁぁ! 良かった……おれ、マルカが死んじゃうんじゃないかって思って! だって、あんなに身体が熱かったし、おれ……おれっ……!」
ヤマトは、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら言った。
2人のその姿を見て耐えられなくなったマルカも、再び涙を流した
「……うん、ごめんねミコト、ヤマト。ありがとうね」
それから兄弟は、ここまでの経緯をマルカに話した。
倒れてしまったマルカを2人で研究所まで連れて行ったこと。
キューブリック教授に怒られて、ここを追い出されそうになったこと。
しかし、教授に2人で懇願し、マルカに再び会わせてもらえるようになったこと。
そんな会話を交わしたあと、マルカは自分のために必死で行動してくれた2人の少年に、改めてお礼を言った。
「ヤマト、ミコト、助けてくれて本当にありがとう!」
「へへっ、なに言ってんだよ。友達なんだから助けるのは当たり前だろ?」
「ああ、オレたちは当然のことをしただけだよ」
2人の返答を聞いて、マルカは嬉しくてたまらなくなった。
初めてできた友達の存在は、この世の何よりも頼もしく、あらゆる不安を吹き飛ばしてくれるように思えた。
ヤマトとミコトと友達になれて、本当に嬉しい。
そして、もし叶うのなら、ずっとずっと友達でいたい。
マルカは心の底からそう思った。
とその時――マルカを真っ直ぐに見据えたミコトが、静かに言葉を発した。
「あのさ、マルカ。マルカが寝ているあいだ、オレたちクレアさんにマルカの身体のことを聞いたんだ。それから、マルカがずっとこの施設の中で、ひとりぼっちで過ごしてきたってことも……。だからさ、オレとヤマトで考えたんだ。マルカのために、何かできることはないかって、何をしたらマルカは喜んでくれるかな、って――」
「え、どういうこと?」
マルカが不思議そうにミコトを見つめると、今度はヤマトが、満面の笑みを浮かべながら元気よく言葉を発した。
「なあマルカ、体調が良くなったらさ。3人で一緒に、本物の空を見に行こうよ!」
それは、少女にとって、一生忘れられない一言になった――。
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