③ 245cmって……そ、そんな人間ありえるの!?
アリーナ全体の照明が落ちると、建物天井から釣られている巨大な4面スクリーンに、選手のプロフィールとプレー映像が映し出された。
しばらくすると、ものすごい数のカラフルなスポットライトに照らされて、映像に映った選手がゲートから入場して来た。
手を挙げて歓声に答えつつ、コート中央に向かってゆっくりと走っていく。
まずは、ホームチームである赤いユニフォームを着た、ニューテキサス・パイレーツの選手から入って来るようだ。
スクリーンの映像が別の選手に切り替わり、新たな選手が入場してくるたびに、観客席を埋め尽くす赤色のTシャツを着たファンたちの大きな歓声が――。
オォォォォォォォォォ!!
と、ものすごい圧力で巻き起こった。
お腹の底にまで響いてくるような轟音に包まれて、ヤマトもミコトも、ただただ圧倒されていた。
「す、すごいなー! ミコトー! この歓声ー!」
「あ、ああー! そうだなー!」
歓声に負けない様にお互い大声を出さないと、近くにいても聞こえないくらいだ。
しばらくして、一番最後に入場してきたのは、ドレッドヘアーの黒人選手だった。
背番号11を付けたその選手が入場してくると、会場はさらに激しく沸き立った。
どうやら彼が、ニューテキサス・パイレーツのエースであるらしい。
しかし、客席中の大歓迎と共に登場してきたエースを見て、ヤマトは思わず驚愕の叫び声を上げてしまった。
「うわぁ、なんだあれ! でかぁーー!! 大きすぎでしょあの選手!!」
ヤマトが驚くのも無理はない。
なぜなら、肩口くらいまである鞭のようなドレッドヘアーをたなびかせ、いかつい表情でのっしのっしと走っていく筋骨隆々のその選手は、実に身長が245cmもある超・超大型選手だったのだから。
「ああ、出てきたな。あの選手は〝デレク・シャーザー〟
パイレーツの絶対的エースで、超鉄壁の大型センター。
「にっ、245せんちーー!?」
ミコトからその選手の身長を聞いて、ヤマトはさらに絶叫した。
ちなみに、地球のプロバスケ選手の最高身長は約230cm、平均身長は約200cmであることを考えると、この選手の身長がいかに異様に高いかが伺える。
身長150cmの神凪兄弟と比べると、1メートル近くも高い。
「えええええ!? 245cmって……そ、そんな人間ありえるの!?」
「まあ、そうだな。地球人の常識で考えたら、そんな人間は生まれて来ないのかもしれない。だけど、あの選手は〝ルナリアン〟だからな」
「……る、るなりあん?」
と、ここで聞きなれない言葉を耳にしたからか、ヤマトの目が即座に点になり、ぽかーんとした表情になった。
その反応に呆れたミコトは、頭を抱えながら口を開いた。
「おいヤマト……社会の授業で習っただろう? ったく、しょうがない奴だな……。
いいか、ルナリアンってのはな《月生まれで月育ち》の人間のことだよ。
俺とヤマトみたいに、月で生まれたけど、すぐに地球に移住して育った人間とは違って、ルナリアンは生まれてからずっと6分の1Gの環境で生活してきたからな。
地球人よりも身長が高くなる傾向にあるんだよ」
「おぉ……! そ、そうなのか!」
「ああ。バスケってスポーツは、身長が高ければ高いほど有利だからな。
今のLBAの選手は、そのほとんどがルナリアンだ。
ちなみに、LBA選手の平均身長は220cmほどもあるんだぞ。
ほら、パイレーツの他の選手を見てみろよ。みんな見たこともないぐらい背が高いだろう?」
改めて見てみると、身長245cmのデレク以外の選手も、確かに地球では見たこともないような巨躯の選手ばかりだった。
「とはいえ、デレクはLBA現役最高身長の選手だし、いくらルナリアンとは言え
ミコトの説明に補足をすると、ルナリアンとは狭義で言えば《月生まれ月育ち》の人間のことを言うが、近年では《月育ち》や《月永住者》などの意味も含めて、総括して単に〝月面人〟という意味合いで使われる場合が多かった。
一昔前までの月面都市では、低重力による骨密度の低下や、地球と異なった環境によって成長障害を引き起こすことがあるため、『月で人類が生まれ、永住していくことは難しい』と言われていた。
しかし、理想的な月面コロニーが完成して久しい現在では、ルナリアン特有の症状や病気を改善する薬の開発が進んだことや、月で体を弱くしないための正しい運動法・生活法などの研究が進んだ結果、『月で生まれた人間が月で一生を終えることは不可能ではない』というのが通説となっていた。
結果、月面人=ルナリアンは、西暦2107年現在では、月面都市全体で約1億人ほども存在する、ごくありふれた人々と化しているのである。
と、そんなルナリアンについて神凪兄弟が会話をし、シャーザーのありえないほどの巨体に見とれたりしている内に、どうやらビジターチームであるノースカルパティア・ソニックスの選手たちもコートに出そろっていたようだ。
と思った矢先、兄弟の並びに座っている神凪家の両親たちが、コート上に立つ青色のユニフォームを着たソニックスの1人の選手に対して、
「キングぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「ブライアン様ぁぁぁぁ!!」
とか、
「頼むぞブライアぁぁン! 俺はお前を信じているぞぉぉぉ!!」
「ぎゃぁぁ! キングぅぅ! 愛しているわぁぁぁ!!」
といった様子で、夫婦そろって恥ずかしげもなく大絶叫で応援し始めた。
そんな両親の姿を若干引きながら見たヤマトは『はてさて、自分の家族の応援している選手はどんなものか』と思い、そのキングだかブライアンだかついて、ミコトに聞いてみることにした。
「ねえミコト。あのキングとか言われている人って、どんな選手?」
「ん、ああ、ブライアンか? ほら、あそこにいる金髪の選手がそうだぞ」
そう言いながらミコトは、コート上にいる背番号23のユニフォームを着た選手を指さした。
その選手は、フィジカルの強そうな鍛えあげられた肉体に、ハリウッドスターかと思うほどの甘いマスクを兼ね備えた、金髪の白人選手だった。
「あの選手はノースカルパティア・ソニックスのエース。
〝キング〟こと〝ブライアン・ワイズ〟だ。ポジションはスモールフォワード。
得点力・パス能力の高さはもちろん、シュートスキルも図抜けて高く、ものすごい確率で3Pシュートを決められる。
しかもその身体能力は群を抜いていて、LBA屈指のジャンプ力を誇るんだ。
さらには、5つのポジション全てをこなせるほどの守備力と器用さまで併せ持っていて、コンプリートプレイヤーとまで呼ばれている男さ!」
ミコトが熱心に説明してくれた情報を聞いて『ふーむ、なるほどわからん!』と思ったヤマトは、ひとまず当のブライアンをじっと見てみることにした。
すると、すぐさまその姿に
「あれ? あの選手。なんか、ほかの選手に比べて……小さい?」
ヤマトには、どう見てもブライアンの身体が両チームのどの選手よりも小さく思えた。
そして、その疑問が予想通りだったからか、ミコトがやや嬉しそうに説明を始めた。
「そう見えるだろう? あれでも、ブライアンの身長は203cmもあるんだけどな!」
と、ブライアンの話を始めた途端、ミコトの表情はみるみる楽しそうになっていった。
「いいかヤマト。ブライアンはな、ルナリアンではなく生粋の地球人なんだ。
地球のプロバスケットボールで頂点を極めた後、今シーズン、若干25歳にして彗星の様にルナバスケ界に現れた期待の新星!
それまで弱小チームだったソニックスがここまで強くなったのは、ブライアンのお陰と言っても過言じゃないんだ。
仮にデレク・シャーザーをLBAにおける
そう、今日のこの試合は、チームとチームの戦いというだけではなく、デレクとブライアン、そのどちらが本当のLBAのトップ選手なのかを決める、頂上決戦でもあるのさ!!」
と、口調は淡々としていたが、ブライアン・ワイズのことをやけに熱く語ってくれたミコト。
対して、その話を黙って聞いていたヤマトには、正直もう話が難しすぎて何が何やらさっぱりだったので、とりあえず――。
「す、すごい……!!」
と力強く言っておくことにした!
そんなこんなで、ここまでヤマトとミコトで色々と話をしているうちに、試合開始の時間が訪れたようだ。
コート上のセンターサークルの近くには、両チームのスタメンの選手たち5人ずつが集まっていた。
ジャンプボールをするため、サークルの真ん中にボールを持った主審が立つと、続いてジャンパーであるブライアン・ワイズとデレク・シャーザーの2人もサークルの中に入った。
同時に、両チームの残った4人ずつがサークルの外に待機した。
これであとはもう、主審がボールを高くトスすれば、試合は始まる。
さあ、試合に勝つのはニューテキサス・パイレーツか、ノースカルパティア・ソニックスか。
そして、最強の選手はデレク・シャーザーか、それともブライアン・ワイズか。
今、まさに、
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