#17 瞬きはシャッターのように
こんなことになるなんて思わなかった。ある程度の言い合いになると思っていたが、泣かせてしまうことになるなんて……
ああ、自分史上最悪な12月25日。
彼女にとって素敵な日になるようにしたかったのに、すべて裏目に出てしまった。しかも、初めてのケンカが寄りにもよってクリスマスだなんて。
良い記憶に変えたくて僕に会いたいと言ってくれたのに、僕は彼女の気持ちを踏みにじった。でも、まさかあんなに病院を嫌がるなんて……
誰にも触れられたくないところを僕は触れてしまったのだろう。
けれど、後悔はない。いまの彼女にはこの選択しかなかったんだ。
だけど、このまま自宅に戻る気になれなかった。足がずんと重くなって、下を向いてずるずると引きずるように歩いた。僕は気づけば、彼女の部屋からほど近い商店街にいた。
かっこつけて物分かりの良い男を演じて部屋を出た。けれど、ポケットに入れた財布とスマホ以外すべて置いてきてしまった。
ただのマヌケと捉えるか、それとも彼女の部屋に戻るための口実として置いてきた無意識の行動と捉えるか。
たぶん、僕は前者として捉えた方が間違いではないだろう。
僕が荷物を忘れたことに気づいた彼女はどう思うんだろう。
もしかして、風子ちゃんこんなふうに思ってたりして……
“あいつ、偉そうに説教してたくせに荷物忘れてやんの。へっ、ざまあみろ。明日ゴミの日だし、邪魔だから捨ててやろうかな?てか、しょーもないカバン忘れるくらいなら財布も忘れろよ。ほんと、使えねーやつ”
おい、風子ちゃんのことやぞ。そない思春期真っ只中の尖った女子高生みたいなこと思わへんはずや。しかも、“ざまあみろ”とか絶対言わへんわ!
俺、なんでそんな方向に変換してしまったんやろ。頭おかしなってんのかな。
そうや、きっと風子ちゃんならこう思ってるはず!
“あら?晴翔さんったら、荷物忘れちゃってる。どうしよう。教えてあげなきゃ!でも、あんなケンカした後だもの。取りに来てなんて私から言えない!……でも、晴翔さん困ってるはずだわ。これじゃ、明日会社に行けないもの。届けたいけれど、いまの私じゃ無理だわ。どうしよう……あれ、もしかしてこれは神様がくれた仲直りのチャンス?そうよ、そうに違いないわ!おお、神様。ありがとう!!さっそく電話しなきゃ。あら、小鳥さんたち。どうしたの?えっ、風子ちゃん電話もいいけどお手紙にしてみたら?文字の方が記憶にも記録にも残るし、仲直りしたら二人の素敵な思い出になるよ。もう、やだ小鳥さん。可愛い顔してキザなこと言うわね。えっ、風子ちゃんがお手紙を書いたら、僕たちが晴翔さんに届けに行くよ。僕たちの仲間に聞けば、すぐに晴翔さんの居場所はわかるんだ。さあ、お手紙を書くんだ風子ちゃん。ありがとう、小鳥さん。気持ちはとっても嬉しい。でも、ダメなの、それじゃあ!小鳥さんたちに甘えたら、いつまでたっても私は弱虫のまま!!自分の恋は自分でなんとかしなきゃ、想いは伝わらないの。だから私、晴翔さんに電話するわ!そして、晴翔さんに伝えるの“さっきはごめんなさい。言い過ぎたわ。でも、あなたへの愛は変わらない。さあ、早く戻って来てパーティーの続きをしましょう”って。私ならできるわ!さっ、晴翔さんにダイヤル回なきゃ!”
待って。風子ちゃん、昭和の少女漫画のヒロインみたいな喋り方せえへん。
しかも、小鳥飛んできて喋りよるし、なんや伝書鳩みたいなことをしようとするし。
それに、風子ちゃんがおお神様!とか間違いなく言わへんし、そもそもパーティーなんかやってへんから。
てか、俺に荷物忘れたこと伝えてへんし。そのために電話するはずやろ?本末転倒やないか。しかも、ダイヤルて、黒電話か。風子ちゃん、黒電話の使い方知らんやろ。いまどき黒電話て、おかしいやろ。
なんなん、この世界観は。現実から懸け離れすぎてるやろ。
あかん、明らかに俺の中の風子ちゃんがおかしなってる。こんな子やない!
ああもう!俺、なんでこんなときにアホなことばっか考えてんねん。どんだけ暇やねん。いや、暇やない!暇してる場合ちゃう!いま、俺らにとって初めての一大事なんやぞ。なにか打開策を!
くだらないことを考えていたら、自然と口角が上がっていた。
ああ、僕はやっぱり彼女のことが好きだ。こんなことくらいで、僕は彼女を嫌いになんかなれない。想えば想うほど、彼女への気持ちが溢れてくる。
君の“嫌い”は、ただの強がりだって知っている。本当に嫌いなら、言い争うこともないし、本当に嫌いなら、僕が買い物から帰って来たときにあんな顔をしないだろう。
まるで飼い主の帰りを待ちわびていた猫のように、不安と嬉しさが入り混じった顔で「おかえりなさい」だなんて。
猫のようにそっと脚に体を擦り寄わせて、自分の匂いをつけながら“どこにも行かないで”と瞳で言わないはずだ。猫が愛する人にだけ送るメッセージのように。
僕は彼女を抱きかかえたとき“どこにも行かないよ”と瞳で約束したんだ。
あのとき、確かに僕たちは言葉がなくても通じていた。
そして、彼女を助けなきゃと強く思ったんだ。
だから、敢えて彼女の傷をえぐるようなことを言って出て来た。
少し荒っぽくなったけど、助けるためにはこれしかなかった。きっとこれでよかったんだ。
それなのに僕は彼女の部屋を出てから、ため息ばかり吐いていた。
僕に放った“嫌い”がウソだとわかっていても、その矢は深く刺さったまま、胸をズキズキと痛くした。
痛みはじわじわと広がっていき心の奥まで浸透して、僕に確実にダメージを与えていた。
吐く息が地面へ向かって落ちていく。寒さもあって白くなった息が、下に向かって落ちる様はまるでマーライオンのようだった。
ここがどこだかわからないまま、僕は浮遊霊のように商店街を当てもなく彷徨い続けた。
マーライオンの浮遊霊は吸い込まれるようにスーパーに入っていき、彼女の好きなプリンを二つ購入してはまた彷徨い、一度だけ彼女と行ったカフェが視界に入ると吸い込まれるように入っていき、気づけばレジに並んでいた。
けれど、頭の中は罪悪感でいっぱいで、目の前がまったく見えていなかった。
「いらっしゃいませ」
ああ、ほんまに嫌われてたらどうしよう。風子ちゃん泣かせてもうた。クリスマスに女泣かすって、ほんま最低や。
「店内ご利用ですか?」
初めて彼氏と過ごすクリスマスやで。それやのに、ひっどい風邪もらうわ、ケンカして泣かされるわ、風子ちゃん散々やで。可哀想すぎる。
「それとも、お持ち帰りですか?」
俺が風子ちゃんやったら、絶対嫌いになるわ。そんな男、すぐ別れる。もう顔なんか見たないわ。はい、俺完全に嫌われた。
「あの、どちらにされますか?」
最低な男でごめん。風子ちゃんの大切な初めていっぱい奪ってごめん。もっと素敵な初めてにしてあげたかった。でも、あかんかった。
「あの……お客様?」
風子ちゃんのこと笑顔にしたかったのに、大好きやから会いに来たのに、やることなすこと全部逆効果になってもうた。
こんなはずじゃなかったのに、ごめんな。
「おっ、お客様!ご注文はどうなさいますか?」
「えっ?あっ!この、だっ、ダークマシュマロカフェモカで!」
店員の声で我に返り、僕は咄嗟に“冬季限定おすすめ”とメニューに大きく書いてあったダークマシュマロカフェモカを指差した。
いつもならこんな呪文みたいな名前のドリンクを頼んだりしない。
けれど、このカフェにいると気づいた瞬間、僕の脳内で「私はダークマシュマロカフェモカで。晴翔さんは?」と微笑む彼女の姿が流れた。
そういえば、これ前に来たときに彼女が頼んでいたやつだ。僕が「甘いのか苦いのか、ようわからへん名前やな」と言うと、彼女は「結構美味しいですよ。晴翔さんも飲んでみます?」と言って、ひとくち味見させてもらったんだった。
名前の通り、ちょっと甘くてほろ苦い複雑な味だった。僕はあまり好きじゃない味だったけれど、彼女はとても美味しそうに飲んでいた。
そして、二人で次の日観に行く映画を決めていた。なかなか決まんなかったんだよな。悩みに悩んだ挙句、自分たちの観たかった映画じゃなくて、単館系でしか上映されていないアメリカのドキュメンタリー映画を観たんだ。
観終わった後なんとも言えない気持ちになって、気まずくてお互い映画のことにあんまり触れないようにしてたんだよな。
でも、彼女のぎこちない笑顔がおかしくて可愛かったな。
「すごい映画やったな。タイトルと内容がまったく合うてへんし、こんな難しい映画やと思わへんかった」
「確かにすごく難しい題材でしたね……でも、これも社会勉強の一つと思えばいいんじゃないですか?自分の知らないところでこんなにも大変な思いをしてる人がいるんだって、知らなきゃいけなかったんですよ今日!」
「今日?」
「そう、今日!今日が知るのに、ちょうどいい日だったんですよ!」
「そっ、そうやな!どおりで朝から頭ん中スッキリしてんな思たら、そういう日やったのか!おかげで、バシバシ頭ん中に入って来たわ。バシバシ悲惨な映像が……」
「あっ!晴翔さん、あそこの雑貨屋さん入ってみません?ほら、“猫好きさん集まれ~”って書いてある。しかも、看板猫ちゃんがいるんですって!ねえ晴翔さん、猫派でしたもんね!」
「俺、猫派でも犬派でもないんやけど」
「じゃあ、晴翔さんは今日は猫派です。行きましょう!」
「おっ、おお!店が俺を呼んでるんやからしゃーないな!」
僕を必死に笑顔にしようとしてくれる姿が愛しくてたまらなかったな。
この前来たときは、二人並んで注文したドリンクを待っていた。けれど、いま僕の隣に誰もいない。窓に映る僕は、いまにも泣き出しそうな情けない顔でひとりぽつんと立っていた。
頭の中をぐるぐると想い出が巡っていると、注文していたダークマシュマロカフェモカが出来上がった。
窓際のカウンター席に座りひとくち飲むと、また彼女の姿を思い出した。
【晴翔さんはいつも同じもの飲んでますよね。飽きないんですか?】
ダメだ、なにを見ても彼女のことが浮かんでしまう。
そういえば、ここに来るまでもそうだった。
なにを見てもすべて彼女に変換されていた。アルバムをめくっていくように、一つひとつ蘇っていく。
きっとシャッターのように押し続けた瞬きが、僕の頭の中にたくさんの写真を残したせいだ。
デジタルなんかじゃ現わせない。フィルムに焼き付けた景色は、色濃く強く残るんだ。
そして、細やかで温かな記憶は一つひとつ僕に問いかける。
お好み焼き屋の看板を見れば、二人で食べたお好み焼きのことを。
客自身が焼いて楽しむ店に行き、僕たちはそれぞれ別の味のお好み焼きを焼いて、ひっくり返してはしゃいでいた。
彼女はひっくり返したとき、派手にキャベツをこぼしてしまい落ち込んでいた。
僕は彼女の雪辱を晴らすべく、焼きそばがたっぷり挟まれた難易度高めのお好み焼きに挑んだ。
そして、僕は隠し芸のテーブルクロス引きのようにお好み焼きを華麗にひっくり返した。すると、さっきまで落ち込んでいた彼女に笑顔が戻った。
「わあああ!すごい!!さすが関西人。晴翔さん、お好み焼きひっくり返す大会出たら優勝できますよ」
「なんやねん、そんな大会ないわ」
精肉店の前で揚げたてのコロッケを美味しそうに食べる部活帰りの中学生を見れば、コロッケを買って二人並んで食べながら歩いたことを。
彼女は「晴翔さん、ソースついてますよ」と僕の唇の端についたソースをティッシュで拭いて「晴翔さんはコロッケ好きですか?」と言った。
僕が「好き。大好物」と言うと、「じゃあ、今度作るから晴翔さんも手伝ってくださいね」と彼女は微笑んだ。
八百屋に並んだみかんを品定めしてるおばあちゃんを見れば、外出せずに一日中だらだらと僕の部屋で過ごしていたことを。
姉から大量に送られてきたみかんを、僕たちはテレビを観ながらソファで寄り添って食べていた。彼女は何個もペロリと口に運び、ハムスターみたいにもぐもぐと嬉しそうに頬を膨らませていた。
「こんなに食べたら、お肌ツルツルになりますね」
「ツルツルになるかもしれへんけど、ビタミン摂り過ぎて肌黄色くなるで。ほら、手少し黄色くなってんで」
「ウソ?うわあ!ビタミンが手に流れちゃった〜!」
「えっ、驚くのそこ?手だけちゃうと思うで。ほら、顔もそのうち黄色くなんで?」
「ウソ?!じゃあ、お肌ツルツル間違いなしってことですね。よし、もう一個食べちゃお!」
「そこはええんかい!肌、黄色くなるんやで?風子ちゃん、みかん色になるんやで?そんなんあかんて!はい、みかん没収!」
「ちょっと、私のビタミン!」
母親と手を繋ぎ楽しそうに話す小さな女の子を見れば、二人で行った郊外のアウトレットモールのことを。
いつものように手を繋ぎ歩いていると、前から走ってきた小さな女の子が転んだ。
レンガで舗装された道は大人でも少し歩きづらく感じるから、子どもなら躓きやすいのだろう。
女の子はわんわんと大きな声で泣き出し、彼女は僕の手を解いて急ぎ足で駆け寄った。僕よりも早く駆け寄る彼女は、かっこよくて頼もしかった。
彼女は女の子を抱き上げて、体に付いた砂を払いながら「大丈夫?痛かったね」と言ってなだめていた。
迷子だと知ると、僕たちは女の子を迷子センターに連れて行った。心配になった彼女は女の子の親が来るまで待ちたいと言った。僕はもちろん快諾して、彼女と一緒に女の子の親が迎えに来るのを待った。女の子を間に挟んで、三人で手を繋ぎながら話していた。きっと家族みたいに見えていたかもしれない。
少しすると、女の子の母親が迎えに来た。安堵から泣いて喜ぶ女の子に、彼女は「よかったね。もうお母さんの手離さないでね」と言って頭を撫でて目を細めた。
洋菓子店でケーキの並んだショーケースの前で楽しそうに悩んでいる大学生くらいのカップルを見れば、この間の前倒しのクリスマスのことを。
イルミネーションを見に行った帰りに、僕の部屋に向かう前に近所の洋菓子店に立ち寄った。
彼女は色とりどりのケーキを見て目をキラキラと輝かせて「可愛い。どうしよう、どれも美味しそう!ねえ晴翔さん、クリスマスケーキじゃなくてお互い好きなケーキ3つくらい選びませんか?」と言った。
僕を見つめる瞳が純粋無垢な少女ようで愛おしくて、二人分なのに8個もケーキを買ってしまった。
帰り道。隣を歩く彼女の弾んだ表情を、瞬きのシャッターが僕のフィルムに強く焼き付けた。
「なあ、ほんまにこないケーキ食えんの?」
「余裕です。こんなの一瞬です」
「ほんまか?」
「大丈夫です!晴翔さんがギブアップしたら私に任せてください!だって、この前友達とスイーツビュッフェ行ったんですけど、2時間なにも喋らず二人でずっと食べてましたから。もうあのときの私たち、吸引力のすごい掃除機みたいでした」
「掃除機て、表現独特やな。場所はだいぶ女の子らしいのに、食べ方が体育会系の合宿みたいやな。風子ちゃんたちフードファイターやで」
「フードファイターなんかじゃないです、ただの大学生です。それでね、私たち食べ終わった後、お互いの食べた数を数えてみたんです。食べる前に写真撮っていたので」
「スイーツビュッフェやし、そりゃ写真撮るやろな。みんな、ようSNSに上げたりするもんな。映える写真いっぱい撮れそうやもんな」
「いえ、SNSのためじゃないです。あくまで記録用としてです」
「ガチやん。ほんまの競技みたいやん。写真判定ってとこか。そんで?」
「そしたら、なんと私が勝ちました!」
「ほんまに勝ち負けありで食べてたんやね」
「僅差の戦いでした。勝敗を分けたのは苺のマカロンでした」
「僅差で勝つとか、正真正銘のフードファイターやん」
「おかげで元が取れました」
「否定しなくなったな。フードファイト勝てて良かったな、おめでとう!」
「ふふふ。それほどでも」
「ついに認めたな」
「そうだ、今度スイーツビュッフェ行きません?負けませんよ!」
「勝ち負けなしなら、ええけど」
「やった!それじゃあ、年が明けたら行きましょう。今の時期だと、苺メインのビュッフェとかありますよ。きっと私を勝利に導いた幸運の苺のマカロンもあるはずです」
「またフードファイトする気なん。俺、ほんまもんのフードファイターと戦う気ないで」
「安心してください、晴翔さんとは戦いませんよ。晴翔さんは大事なチームメイトですから。チーム戦頑張りましょうね!」
「誰と戦うねん」
僕たちは付き合ってまだそんなに時間が経っていない。けれど、彼女のいろいろな顔を見るたび、僕の中の“好き”という感情が溜まっては、すぐにいっぱいになって溢れてしまう。
時間なんて関係ないくらい、想い出のアルバムがいくら増えたか数えきれないほど。少女みたいにはしゃいだ顔も、腕の中で僕を見つめる儚げな顔も、髪がぐしゃぐしゃになった無防備な寝顔も、どんな顔も好き。
渇いた地面を優しく潤わせていく雨のようにすっと染み込む彼女の存在は、僕の中で必要不可欠になっていた。
過去になにがあっても、どんなに闇が深くても、僕は彼女を照らすランプになって、その暗いトンネルから光が燦々と降り注ぐ花畑に連れて行きたい。
だから、簡単に嫌いになんかなれないんだ。むしろ、熱に苦しむ彼女を渋々置いて来たことが気掛かりでしょうがない。
【もう私なんか……ほっといてください!!】
思い出すと、いますぐ彼女のもとへと走り出したくなった。
けれど、それじゃ意味がないんだ。お互い、いまは冷静にならなきゃいけない。
軽々しく僕から戻れば、なんのためにケンカしたかわからなくなる。
そんなことしたら、僕はずっと彼女を助けることができないだろう。
ここで折れてはいけない。彼女からの連絡を待つんだ。
戻りたい気持ちをグッと堪えて、いまの僕の気持ちみたいに複雑なダークマシュマロカフェモカを飲みながら、祈るような気持ちでスマホの画面を見つめた。気がつけば、ここに来てもう30分は過ぎていた。
タイムリミットが近づいている。もう少しで病院の受付時間が終了する。
「ああ、やっぱあかんか……」
諦めて空になったカップを持って席を立つと、ジャケットのポケットの中が激しく振動した。
急いでポケットに手を入れると、液晶画面には【吉川 風子】と着信が表示されていた。
僕は安堵と不安で手を震わせながら、電話に出た。
「もしもし」
「晴翔さん。助けて……」
「風子ちゃん?!」
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