第5話 爆裂魔法 四発目
昨日、アクセルの街の雑貨屋で見掛けた一冊の本。
配下の魔術師に翻訳させた所、それは異世界の料理の本だった。
表紙の
その料理の名は『おでん』。
アクセルの街を今後も調査していく事に関して色々と考えを
というわけで俺なりのアレンジを加えた洋風おでんを作る事にした。
何故なら、当然なにもかも同じ様に作るのは不可能だからだ。
料理の具材のみならず鍋の素材や形からして俺たちの世界に存在する物とは異なる点が多い。
だが食べてみたい。
とりあえず
うむ、良い味だ。
これだけでも十分に飲める美味さだな。
とりあえず、これは蓋をして置いておこう。
次に街の朝市で買った
例のイタズラ書きをされた白い鎧を着て買いに行った。
もちろん胸のイタズラ書きは黒い布をオシャレに貼って隠してある。
白い布だとイタズラ書きが透けて目立つのだ。
…はぁ、全身真っ白な所が気に入っていたのに…。
茹で上がった蒟蒻芋の皮を
金のない新兵だった頃に、仲間と一緒に少しでも食事を楽しくする為に、
蒸かし芋のまま食べるより断然楽しく、美味しかった。
芋が、まだ熱い内に皮を剥くのが大変だったな。
指先が真っ赤になったもんだ。
…アンデッドの身では味わえなくなった痛みを少し懐かしく思い、寂しくも感じる…。
蒟蒻芋をすり潰して、お湯を加えながら練っていく。
最後に
タコの足は無かったのでスキュラの触手で代用しよう。
適当に捕まえてきたスキュラの触手の皮を
これは煮込むと固くなり過ぎるので最後に投入するつもりだ。
魚のすり身に塩を加えて
さつま揚げとやらの代わりだ。
スープに合うかどうかは何とも言えないが、雰囲気は再現したい。
合い挽き肉を使って肉団子を作る。
何の肉かは秘密だ。
アンデッドなので察して欲しい。
もちろん、スープに合う様にブレンドしてあるので百パーセントそれという訳では無い。
アンデッドになったからといって生きている肉を好んで襲うのは、ゾンビくらいだ。
しかも、それは仲間を増やす為であって、食べ物としては連中だって屍肉を好んでいる筈だ…と思う。
生き物の屍肉を好きなのは人間だって変わらないのに、アンデッドだけ後ろ指をさされるのは、不公平だなぁ…などと下らない事を考えてしまう。
飛んで逃げようとする大根の葉を握りながら胴体を真っ二つにする。
葉っぱを斬り落として皮を剥いて、少し厚めの輪切りにして面取りをしてから、片面に十文字の切り込みを入れる。
スープを入れた鍋を火にかけて沸騰したら弱火にしてから大根を投入して煮込み始める。
予め固く茹でておいた卵は、殻を剥いてから鍋に投入。
固まったコンニャクを適当な大きさに切って、各々に格子状の切れ目を入れてから、これらも鍋に入れた。
トウモロコシの粉をまぶして下茹でしておいた肉団子をスープの中に入れる。
十分に具材に火が通ったであろう頃を見計らって、最後にさつま揚げモドキとスキュラの触手のぶつ切りを鍋の中に足した。
…いい匂いがしてきたなぁ…。
出来上がりが楽しみだ…。
気が付いたら、もう昼を回っていた。
昼ご飯に夕食向けの料理もどうかと思うが、出来上がったので食堂へと運ぶことにする。
さきほど味見をしてみたが、完璧な出来だった。
非常に嬉しい。
きっと配下のアンデッドナイトや魔術師達も喜んで食べてくれるに違いない。
片手に頭を、もう片方の手に鍋をもって、俺は思わずスキップしたくなってきた。
「『エクスプロージョン』ッッ!!」
来ると思ったぜえぇーーーーーーーーっ!
俺は持っていた頭を廊下の高い天井に向かって投げ上げる。
次に『おでん』の入った鍋を振動の影響で落とさない様に両手でしっかりと持った。
初期の微振動の後に爆裂魔法の衝撃による本格的な振動が来る。
しかし、両手でしっかりと持った『おでん』の入った鍋は、スープすら一滴も零さずに無事だった。
勝った!
俺は勝利を確信した。
ぼちゃーん!
俺の頭が『おでん』の鍋の中に落っこちてきた…。
…。
食堂へと続く廊下を俺は、回れ右をすると台所へ戻った。
まず、鍋から自分の頭を取り出す。
次に具材を取り出して皿に移す。
そして鍋の中のスープを
それから濾したスープを鍋の中に戻すと、スープの中に先ほどの具材を入れ直して火をかけ直した。
…これを、このまま食堂で出したとしても…俺の部下達は仮に、その事実を知ったとしても、きっと喜んで美味しいと言って食べてくれるに違いない…。
だが、かえって完璧な出来だったが故に、この『おでん』を仲間達に食べさせるのは、俺のプライドが許さなかった…。
…だが、捨てるにはもったいない…。
…仕方がないから一人で食べよう…。
…物凄い量だが…。
夕飯の時間になった。
俺は昼もたらふく食べた『おでん』の残りを食べている。
配下の者達には、いつも通りのコックに頼んで、昼も夕飯も別の料理を食べて貰っていた。
…うえぇっぷ…。
正直、もう腹が一杯だ。
食い過ぎである。
ひとつだけ救いがあるとすれば、それは、とても美味しいという点だった。
…だがもう『おでん』は当分の間は見たくも無い。
これは、あの爆裂魔法を使うアークウィザードの少女が悪いのでは無い。
あまりの出来にスキップをしようとする事にだけ注意を払い、鍋に蓋をし忘れた俺の失点だ。
ウィズの屈託の無い笑顔を想い浮かべながら…そう思う事にした。
俺はアンデッドになれて今日ほど良かったと感じた日は無かった。
きっと人間のままだったら、この『おでん』は…涙の味でしょっぱくなってしまっていたに違いないからだ…。
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