第123話 迷宮の法則-2


 廃虚の町に転移してからおよそ一日が経過した。

 およそ、というのは、この町では正確な時刻を知る術がないためだ。

 何時間が経過しようともこの町は一向に夜が明ける気配はなく、月光が同じ高さから同じように町を照らし続けた。


 故に時間の経過は体感時間でしか測る方法がなく、特に仮眠を許されたルゥとアッシュは今が何時なのかが体感できずにいた。

 しかしあれから不眠で警戒を続けるホークだけは、およそ一日程度の時間が経過したことと、だというのに静か過ぎる町の気配を感じていた。


 当面の避難所に定めた北東の宿屋の三階から、ホークは弛まず町中を監視し続けていた。

 窓辺に身を寄せ、極力窓から頭を出さないようにしながら鋭い目つきで町をくまなく調べ続けるという作業は、見た目以上に体力と根気を要する。

 それを丸一日続けるというのは普通の人間であれば多大な疲労感を伴うが、ホークには慣れたものだ。

 人間や魔人と日夜戦争を繰り広げていた頃はこんなことは日常茶飯事だった。


「少しお体を休まれてはいかがですか?」

 そう声をかけてきたのはシラヌイだった。


「いらん。敵が近くに潜んでいる状況で呑気に眠れるそいつらこそ神経を疑う」

「ふふ、辛辣ですね。ですが無理もありません、お二人ともとてもお疲れの様子でしたから。安心して眠れるのも、ホークさんを信用しているからでしょう」

「戦場では助け合える機会の方が稀だ。……少なくとも、エルフの戦争はそうだった。こんな急場で誰かを当てにしているようでは生き残れん」

「エルフの戦争……ですか」

 シラヌイは悲しそうに俯いた。


「ホークさん達は未来から来られたのですよね? 私の記憶では……エルフは争いとは縁遠い種族だったと思います」

「貴様らが三〇〇年前の人間ならそうだろうな。平穏なエルフの歴史はそこまでだ」

「……悲しいことですね。人も、エルフも……これから終わりのない戦乱の時代を迎えるなんて」

「まったくだ。貴様らがこの時代にレベルシステムなど獲得したせいで、エルフがそのとばっちりを喰らい戦争に巻き込まれることになるんだ」


「……レベル……システム」

「まだ知らないか? 魔人が持つ、魂を操る術を体系化したものだ」

「……知っています」

「だろうな。でなければインクブルの強さが説明できん」


 レベルシステムを手に入れるまで、人間という種族に強い個体は極めて少なかった。

 他者を殺すことでその魂、生命エネルギーを自身の内に溜め込めるのは全ての種族において共通だ。だがその取り込んだ生命エネルギーを全て魂の強化に消費できる種族は魔人しかいない。

 自然に上昇するパラメータ、自然に獲得できるスキル。そういった形でしか成長できない他種族に比べ、取り込んだ生命エネルギーを全て理想的な配分で強化に費やせるという点がレベルシステムの最も優れた点だ。


 そして人間はその『自然に上昇するパラメータ』という点において劣等な種族だった。

 取り込んだ生命エネルギーの多くを魂の強化のために消費できず、脆弱な個体しかいなかった。


 それがレベルシステムの台頭によって劇的に変化しだしたのが、ちょうどこのあたりの時期。三〇〇年前頃だったはずだ。

 まだレベルシステムが普及して間もないこの時代に、インクブルはB-27レベルのアッシュを超える力を持っていた。

 既にレベルシステムの恩恵に与っている証拠だ。


「貴様はインクブルとパーティを組んでいるのか?」

「パーティ?」

「仲間なのか?」

「……仲間、というよりは……私は、インクブル様に付き添わせていただいているだけです」

「なるほど、従者か」


 インクブルがホークに敗れた際、シラヌイは二度もインクブルを庇った。

 あれはただの仲間の庇い方ではなかった。インクブルに仕える従者であるならば納得できた。


「――静かに」

 ホークが言い、耳を澄ませる。

 宿屋の階段を上ってくる音。極力足音を殺すよう配慮しているが、ホークの鋭敏な聴覚は聞き逃さなかった。

 魔法銃に手をかけ部屋のドアを凝視する。


 ドアが開けられ、インクブルが入室してきた。

 ホークとシラヌイは安堵の声を漏らした。


「どうだった」

「何も見当たらなかった。この宿屋には誰も近づいた形跡がない」

 ホークが町の外を警戒している間、インクブルは宿屋の裏手を監視していた。宿屋の位置関係から、窓辺から確認できる視界には限界がある。宿屋の裏手は同時に警戒できないのだ。

 その任をインクブルか、アッシュとルゥのペアで担うことに決まった。今はインクブルの時間だった。


「ホーク、お前たち以外にもこの町に来ている者がいるのか?」

「そうだ。私の……パーティメンバーがあと二人来ている。今ははぐれてしまったが。それと、魔人が三人」

「その魔人はお前たちを追っているんだな?」

「ああ。パンダという少女を殺すために差し向けられた刺客だ」

「そうか」


「お前たちも魔人に追われているんだったな?」

「……そうだ」

 インクブルとシラヌイは揃って顔を曇らせた。


「もう一度確認しておくが、私たちが今いるのは西大陸の南方、U字型の大陸の最南端付近なんだな?」

「そうだ。俺達は西大陸の北部から下りてきて、最終的には東大陸の最北端を目指している。そこに、魔人の支配から解放された人間たちが世界中から集結しているらしい」

「混迷の時代だな。魔人歴305年というと、まだルドワイア帝国もできていない時代か」


 遠い場所で、魔人の支配から逃れている者たちがいる――そんな儚い希望を頼りに魔族に反旗を翻し、あるかどうかも分からない人類の新天地を目指して明日も見えない暗闇を旅する。

 東大陸の果て。そこに人間が人間らしく生きられる安息の地があると信じて。

 そんな者たちが世界中で発生した時代だ。インクブルとシラヌイもそんな類の者たちだろう。


「ホーク。お前たちが未来から来たというのなら教えてほしい。――人類は……安息を手に入れたのか? この絶望的な状況を打破し、文明を取り戻したのか? 家畜でなく、玩具でなく、尊厳をもって生きることが出来たのか?」

「人間の生活など知らん。私がこの世に生を受けたとき、エルフは人類と戦争の真っ只中だったからな」

「……」


「ただ……レベルシステムを手に入れた人類は、強かったよ。種としての格は魔人に劣るが、人類は数と策略で上回った。魔族とは全く異なる意味で、人類は強かった」

「……そうか」

 インクブルは安心したように息を吐いた。

 こんな奇妙な形での邂逅ではあるが、ホークとの出会いによってインクブルは自分がしてきた旅は間違っていなかったのだと安堵できたようだ。


「なら後は、俺達がその場所に辿り着けるかどうかだな」

「きっと大丈夫です、インクブル様。誰一人頼れる人のいなかった私たちの旅に、今はホークさん達がいてくださるのです。きっと東の果てへ辿り着けると信じましょう」

「そうだな」


 そっと寄り添い合い、手を握り合う二人。

 シラヌイはインクブルの従者だとホークは見立てたが、その姿にはただの主従関係を超えた絆が見て取れた。


「頼るのは構わないが、まずはこの状況を打開してからだ。インクブル、二人を起こせ。見張りを交代させろ」

 雨風を凌げる密室で大勢と一緒にいるという現状に安堵の様子を見せる面々だが、ホークに限ってはそんな気の弛みはなかった。

 そういう油断がどれだけ命取りになるか、――そして、そういう安堵はどれほど容易く覆されるか。ホークは身に染みていた。






「……どうなってるんだこの迷宮は」

 シュティーア遺跡に入ってから何度目になるか分からない呟きを漏らすリュドミラ。

 傍にはシェンフェルしかいなかった。つい数秒前まで共に行動していたアドバミリスとテラノーンの姿はなかった。


 が、次の瞬間にはその二人が姿を現した。

 何の前触れもなく、二人の目の前に一瞬にして。


「ふむ……ここに飛びましたか」

 アドバミリスは興味深そうに周囲を見回した。


 リュドミラ達は騎士から隠れながら抹殺対象の少女を探すため町を探索していたが、その途中で不可思議な現象に直面した。


 ――ある地点まで移動すると、別の場所に転移してしまうという怪奇現象だ。


 黒魔導士であるシェンフェルに解析させたが謎は解明できなかった。

 が、少なくとも再現性は確認できた。

 座標的には、町の北東に向かおうとするとそこに到達する前に別の場所に飛ばされるのだ。今はその現象を検証中だった。


 リュドミラとシェンフェル、アドバミリスとテラノーンのペアに分かれ、前後に一定の距離を開けて進む。その状態で北東に進み、どうなるかを検証した。

 結果は、リュドミラとシェンフェルだけがまず別の場所に飛ばされ、続いてアドバミリスとテラノーンが追いかけるようにこの場所に飛ばされてきた。


「騎士は……いないようだな」

 周囲の気配に感覚を集中させるリュドミラ。

 検証の度に謎の転移現象は発生した。

 その度にうっかりあの騎士の目の前に転移などしないかという緊張感があったが、今のところそんな不運には巡り合わなかった。


「アドバミリス、どうだった」

「ええ、前方を歩いていたお二人は一瞬で消えましたよ。予兆は確認できませんでした。蝋燭の火を消すように一瞬で消えました」

「これで、一応北東に向かう道はほぼ検証しつくしたな」


 リュドミラ達は丸一日かけて町をほぼ全域に渡って探索したが、転移現象が起こるのは北東付近だけだった。

 町の角に位置する北東にどうにか突入できないかと、九〇度に渡って様々な角度から侵入を試みたが、結果は全て同じ。ある一定の地点まで近づくと別の場所に飛ばされるということが分かった。


 四角形の町の一角。北東付近を扇状に『何か』が囲んでおり、そこに接触すると転移が発生してしまうようだった。

 何か手はないかと方法を模索しているが、妙案は浮かばなかった。


「……とはいえ、このまま放置もできん」

 何故なら、町に来て最初に探知魔法を放ったとき、この付近に何者かの気配を感知したからだ。


 探知魔法で感知できた反応は、大きく四つ。

 あの少女のパーティと思しき五人組の反応。騎士と思しき反応。テラノーンの反応。

 そして北東……今リュドミラ達が侵入を阻まれている領域に、謎の二人の反応を捕えたのだ。

 状況から考えて、その二人がテラノーンの探している人物の可能性は高い。近寄れないからと言って無視はできない。


「あれからかなり時間が経ったし、もう別の場所に移動してるんじゃない?」

「そういう問題じゃない。私たちが入れない場所に入る手段があるというのが重要なんだ」


 少なくともその二人はこの謎の転移の壁に阻まれることなく北東に到達できている。

 つまりこの転移の壁を超える手段はあるのだ。もしその方法をあの少女たちも見出したなら、リュドミラ達だけが入れない領域に逃げ込まれて追跡が不可能になってしまう恐れすらある。


 この謎は絶対に解明しておかなくてはならない。

 が……その手立てがない。そして先述の通り、予期しない場所に転移してしまうという現象はあの騎士と遭遇してしまうリスクを大きく孕み、もし遭遇しなくとも騎士を警戒しての移動は時間がかかるため、検証の度にかなりの時間を要した。

 その代償に数十時間もの時間を空費してしまったという焦燥感だけを得る結果となってしまった。


「この町から逃げられる心配はない、という点だけは不幸中の幸いですね」

 アドバミリスの言葉にリュドミラも内心で強く同意した。


 探索を開始した初期の段階で判明したのだが、この廃虚の町は四方を謎の見えない壁に囲まれている。

 押しても叩いてもびくともせず、触れた感触すらしないというのに、そこからはどうやっても先に進めないという不可視の壁。


 まるでこの廃虚の町だけがぽつんと世界から切り離されたかのような錯覚すら覚えた。そんな壁が、調査不能な北東区画を除いてほぼ全域に渡って展開していた。

 訳は分からなかったが、とにかくあの少女たちがこの町の外へ逃げる心配はなさそうだというのは嬉しい誤算だった。


「ねえ、例の騎士がいるせいで探知魔法を使うと危険っていうのは分かるんだけどさ、それでもやっぱり使うべきじゃない?」

 テラノーンが不満げにそう漏らす。

 彼はあの騎士の戦闘力を言伝にしか聞いていない。侮るのも無理はないが、何よりこの不可解な町の中で長時間の足止めをくらっているという状況に納得がいっていないようだ。


「駄目だ。あの騎士に見つかれば無事では済まない。遭遇するリスクは可能な限り避けるべきだ」

「怯えすぎじゃない? 魔族ともあろうものがさ」

「そうじゃない。あの騎士に見つかれば、もう標的を殺すどころの話ではなくなる。私は偉大なる盟約に連なる者として死をも覚悟しているが、何よりも優先すべきは賜された使命を果たすことだ」


 リュドミラの慎重さは、決して単なる死への恐怖からではない。

 標的を抹殺できるのであれば死ぬ覚悟はある。あの騎士と戦闘になってしまえば、その使命が果たせない可能性が高いというだけの話だ。


「……でもさ、肝心のそのターゲットがまだこの町にいるかどうかも分からないじゃないか。探知したっていうのももう古い情報だ。町の外に出られないのも、もしかしたら僕たちだけかもしれないじゃないか。もしそうなら、僕らはターゲットのいない無人の町をビクビクしながら歩く間抜けだ」


「その理屈で言えば、どの道同じことですよ。仮に我々の標的が既にこの町から脱出していたとしても、見えない壁のせいで我々は追跡する手立てがないのですから」

「……」

「それに、少なくとも私たちの標的はまだこの町にいる。――見ろ」


 リュドミラは一つの家屋の扉を数センチだけ開け、中を指さした。

 開いた扉の隙間、その上部にワイヤーが仕掛けられている。これ以上扉を開けば何らかのトラップが作動する仕掛けだ。


「これで三つ目ですか。任せてください、解除します」

「これは私たちの標的が仕掛けたものだ。奴は間違いなくまだこの町にいる」

「これだけ歩き回って一度も見つけられてないってことは、相当上手く逃げられてるね」

「向こうの狙いは間違いなく、私達とあの騎士が潰し合うことだ。それまで粘るつもりだろう。だからこそ、私たちは絶対にそれだけは避けなくてはならない。逆にそれにさえ気を付けていれば、この町の中にいる以上いずれ必ず追い詰められる」


 この町が閉ざされた閉鎖空間である以上は、どう足掻いてもいずれはあの少女と出会う機会が来るだろう。

 リュドミラ達の敗北条件はあの騎士と遭遇してしまうこと。それさえなければ勝利は時間の問題なのだ。焦る必要はない。


「正確には、北東の不可侵領域に逃げ込まれなければ、という条件もあります。町の外に逃げられるのと同じくらい、それはまずい」

「そうだな。だからこそ、あの区域に進入する方法をなんとしても見つけなければならない」

「じゃ、まずは罠が仕掛けてあったこの辺りを調べてみようか」


 アドバミリスが罠を解除したのを確認し、四人は中へ踏み入った。






「――大体分かったわね」

 一日かけて、パンダは廃墟の町の探索を終えた。

 魔人たち、そして謎の騎士との遭遇を常に警戒しながらの移動は牛歩の如く進まなかったが、それでも少しずつ探索を進めた。


「疲れたっす……」

 それに付き合わされたキャメルも疲労困憊だった。アンデッドの肉体を手に入れたため肉体的な疲労はなかったが、曲がり角を曲がる度に魔人たちと出くわすかもしれないと身を強張らせながらの探索は精神的な疲労を伴った。


 それだけでなくキャメルはパンダの指示のもと、町の至る所にトラップを仕掛けてきた。

 森のようなトラップゾーンは作っていない。あれはホークからの的確な援護があると期待してのもの。そして、強引にでもあの四人の魔人の幾人かを倒し戦力を削いでおきたいという狙いで仕掛けたものだ。


 だが今回に関してはその必要がない。

 そもそも森ではないためホークからの援護が期待できない点と、あの騎士の存在があるためだ。

 森で戦ったときはあんな騎士がいるとは思いもしなかった。だから今ある戦力でなんとか渡り合うしかなかったのだが、騎士がリュドミラ達を倒してくれる可能性がある以上無理に戦う必要はない。


 それに、この廃虚の町がいつまでも続くとは限らない。突然森に転移し、そして突然迷宮に戻ったのと同じように、今回も不意に町から迷宮に飛ぶ可能性が十分にあるのだ。

 今は万が一の保険として罠を町に張り巡らせつつ、騎士と魔人が潰し合うのを期待して陰に潜んだ。


 だがそう上手くはいかなかった。あるいは考えることは同じということか、今のところ騎士とリュドミラ達が戦闘を開始したような気配は全くなく、廃墟の町は不気味なほど静寂を保っていた。


「姐御、もうほとんど罠を使い切っちゃいましたよ。いいんすか?」

「仕方ないわ。これだけ広い町だもの」

 未知の遺跡に潜るということでかなりの備えをしてきたが、そのほぼ全てを森と町で使い切ってしまうことになってしまった。

 だがどうしても必要な仕掛けだった。いざリュドミラ達に見つかって逃走することになれば、仕掛けた罠だけが頼みの綱だ。ここでケチることはできない。


「集めた情報をまとめるわよ」

 パンダとキャメルは町にある一つの家屋の中に身を隠しながら、状況の確認に移った。


「まず、やっぱり例の見えない壁は町を覆ってたわね」

「そうっすね。やっぱ閉じ込められたんすよね……。北東の部分は確認してないっすけど」

「そこには入れないものね。入ろうとすると別の場所に飛ばされる……厄介よね」

「どうなってんすかねアレ? どうやれば入れるんすかねー」

「その考え方は一旦やめなさい。『何故入れないか』が重要よ」


「……? 『なんで入れないか』と『どうすれば入れるか』って同じことっすよね? だって入れない理由が分かれば、入る方法もわかるじゃないっすか」

「逆はどう? 入る方法が分かれば、入れない理由は分かる?」

「それは……うーん……」

「例えば穴を掘って侵入すれば北東区域に入れたとして、それって結局なぜ入れなかったのかは分からないままじゃない。たまたま入れたってだけで」


 パンダの言いたいことは分かるが、キャメルには重箱の隅をつつくような指摘に思えた。


「でも……入れたんならもうそんな事どうでもいいんじゃないっすか?」

「この迷宮においてはそれじゃ駄目なのよ。この迷宮はデタラメなことが起こり続けてるようでいて、実際には明確なルールが存在するの」

「ルール……っすか」

「法則と言ってもいいわ。そこを把握できてないと、この迷宮は攻略できない」


 ただ迷宮を彷徨うだけでなく、森での終着点と迷宮の出発点に関係があると見抜けたことで、パンダは迷宮の『空白地帯』に侵入する方法を発想できた。

 『どうして空白地帯に入れないか』は未だ分からないが、『どうすれば空白地帯に入れるか』には当たりをつけたことになる。


 が、それではまだ不十分だとパンダは考えているのだ。

 パンダはあくまでもこの迷宮の全貌を暴き出すつもりのようだ。


「……で、そう言う姐御はなんか分かったんすか? そのホーソクってやつ」

「多分だけど、『魔族』というカテゴリーを弾いてるんだと思う」

「なんでそう思うんすか?」

「森から疑問に思ってたのよ。迷宮から森に転移したときも、私とあなた、そして四人の魔人が同じ場所に転移して、ホーク達は別の場所に転移してたでしょ?」

「あー、そういえばそうっすね」

「そして今度も同じように分断させられた。魔族だけが入れない……いえ、『近寄れない』場所がある、と考えていいと思う」


 まだ憶測の意気を出ない話だが、起こった現象だけを考慮すればそれなりの信憑性はあるようにキャメルは感じた。


「ってことはあの魔人たちも北東区域に入れてないってことっすか?」

「多分ね。ホーク達は入れたはず。あの辺にさっき想定してた潜伏場所の条件に合いそうな建物もあったしね。もしホーク達もあの区域に入れず町を彷徨ってるなら、私達、騎士、リュドミラ達の誰とも遭遇せず一日中隠れ続けるなんて無理だと思う」

「あー、まあアッシュとルゥがいたんじゃ無理そうっすね」


「ってことはホーク達は北東区域で潜伏中で、リュドミラ達はそこまで到達できてない可能性が高いわ。リュドミラ達もあの転移に阻まれてると考えていいでしょうね」

「なんか頭がこんがらがってきたっすよ。で結局何が原因で転移が起こってるんすか?」

「まだ分からないけど……あの森にあったもう一つの要因といえば、ホーク達が出会ったっていう二人組なんかは関係してそうよね」

「確か、インクブルとシラヌイ、でしたっけ?」

「もしホーク達がその二人と北東区域で出会っているなら、かなり確率は高そうね。――――ッ、シッ!」


 不意にパンダが人差し指を唇にあてて閉口を促す。

 音の途絶えた家屋の中、耳を澄ますと……外から何者かの足音が聞こえてきた。


「……」

 二人の間にいっきに緊張が流れる。

 足音は複数。そして、かすかに話し声のようなものが聞こえてきた。

 声は小さかったが、それがリュドミラ達のものだと分かった。


「ひっ……」

 キャメルが息を呑み、パンダは険しい顔で家屋の外を睨み付ける。


 ――ギィ、と音を立て、パンダ達がいる家屋の扉がゆっくりと開けられた。

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