第57話 雪の蜂


 ハシュール国、交易都市シューデリア。

 パンダが通うレストラン内で、一つのテーブルを挟んで三人の男女が向かい合っていた。


「フルーレ?」


 ホークが眉を寄せる。

 先程まで同じテーブルに座っていた男は、パンダを『フルーレ』と呼んだ。

 ホークには聞き覚えのない言葉だが……。 


「ええ。私の本名よ」

 その一言で、ホークにも事情が見えてくる。

 同時に、ぞわりとした怖気が走る。


 パンダの本名――つまり、四代目魔王の名を知っており、それを今のパンダと結び付けられる者。

 そんな者はそう何人もいない。


「……おい。こいつ、まさか」

「ええ。彼はムラマサ。私が魔王だった頃、四天王だった魔人よ」


 弾かれるようにホークの右手が動き、瞬きほどの時間でホルスターから銃を抜き払ってムラマサに向けた。


「ふざけるな。何を呑気に!」

「呑気に話してたのはあなたでしょ?」

「……っ」


 パンダとパーティを組んでから二週間。

 魔王討伐に向けて、ホークは魔族の基礎知識をいくつか教わっていた。


 ムラマサのことも名前だけは聞いていた。

 かつて四天王を務め、パンダが一目置くほどの剣士だったという。

 そんな奴が何故こんな場所に……その疑問以上に、何よりも四天王と出くわしてしまったという危機感がホークを逸らせた。


「ホーク、とりあえずその銃仕舞ったら?」

「馬鹿なことを言うな。お前こそ剣を抜け!」

「無駄無駄。もう完全に間合いに入っちゃってるもん。何したって勝てっこないわ」

「……」


 ムラマサまでの距離は、僅かテーブル一つ分しかない。

 ムラマサの武器はあの長刀だ。確かに既に彼の間合いに入っている。


 だがムラマサは脚を組み、だらしなく両手をソファの背に乗せてニヤニヤと二人を眺めているだけだ。

 彼は愛刀に手をかけてすらおらず、明らかに戦闘態勢に移行していない。

 一方でホークは既に赤の銃『レッドスピア』を構えムラマサに向けている。

 指先に少し力を込めれば音速の魔断が撃ち出され、それが一発でも当たればムラマサは倒せる。


 ――何より、ムラマサは魔断の脅威を知らない。

 たかが鉛玉と侮っている今が最大の好機であるのは間違いない。


 ……だというのに、パンダは初めからムラマサとの戦闘を選択肢に入れてすらいない。


「それより命乞いを考えましょ。私も今頑張って考えてるから」

「だはははは! そりゃいい! お前の命乞いが聞けるなら俺もちょっと意地悪してみようかね。ほぉれほれ、なんか面白えことしてみな。俺を笑わせられたらワンチャンあるぜ」


「オッケー。こうなったらムラマサを笑わせるしかないわ。ねえホーク、あなた面白い一発芸とかないの?」

「あると思うか?」

「仕方ないわね。こうなったらアレをやるしかないわ。この前酒場で教えてもらった『割り箸芸』よ。割り箸を鼻の穴に入れてそのまま口にも入れるの。覚悟しなさいよムラマサ、あれほんと笑うから。――さあ、いくわよホーク」

「死んでもやるか」


 ホークが即答すると、何気にやりたそうにしていたパンダとそれを見たがっていたムラマサが同時に落胆の溜息を吐いた。


「私はエルフの誇りにかけて絶対に魔人に命乞いなどしない。だいたい、間合いに入ってるのはこっちも同じだ。この距離で銃を構えてる私の方が早い」

「それはないわね。引き金を引く前に銃が真っ二つにされるのがオチよ」

「……」


 にべもなく一蹴される。

 普段は大口を叩き、自信満々に魔王を討伐すると息巻いているパンダが……これほど無様な姿を見せるのは、ホークにとっても腹立たしい光景だった。

 自分よりも強い者には平然と媚び、道化になってまで命乞いをする。

 そういう姿はホークが何よりも嫌う、薄汚い人間そのものだ。


 こんな奴が自分の仲間などと、ホークは思いたくもない。

 ……が、一方でその怒りを抑え込めていられるのは――ホークの脳裏に、かつてのパンダの姿が焼き付いているからだ。


 ホークが二度の敗北を喫し、そして文字通り全てを擲っての三戦目……それすらも返り討ちにした恐るべき吸血鬼『ブラッディ・リーチ』。


 パンダはあの吸血鬼を手玉に取ったのだ。

 弓の名手たるホークすら戦慄するほどの銃の腕前で、見事にホークを勝利に導いた。


 ――そんな彼女が、勝負をする前から全面的に降伏している。

 つまりはそういうこと……ムラマサとは、それほどの魔人ということだ。


「……」

 パンダはこの店に入店し、ホークを探し……すぐにムラマサと相席していることに気づいたはずだ。

 その上で彼女は声をかけてきた。一人で逃げ出すこともできたはずだが、彼女はそうしなかった。


「……」

 ……つまり、パンダが今守ろうとしているもの。それは己の命ではなく、不幸にもムラマサと相席してしまったホークの命なのだ。


 その理解が、ゆっくりとホークの中の怒りを鎮火させていった。


「ねぇ~ムラマサおねがぁい。見逃して? 三回回ってワンって言うから」

「だははははは! やべえ超みてえんだけど!」


 こうして見ている分には仲のいい兄妹のように見えなくもない。

 どちらもあまりにも無防備。特にムラマサからはまるで戦意を感じない。

 隙あらばいつでも引き金を引く準備はしている……が、それが馬鹿らしくなるほどにムラマサは隙だらけだ。


 いつ撃っても命中するビジョンしか見えない。

 だがそれがかえって不気味。

 仮にも勇者であるホークから武器を突きつけられ、まるでそれが見えていないかのようにパンダと騒ぐ姿は、端からホークなど相手にしていないかのようだ。


「……くっ」

 言いようのない緊張感がホークの指先を鈍らせる。

 いつでも撃てるが故に撃てない。そんな奇妙な時間だった。


「ビィから私を始末するように命令されてるの?」

「いんや。そんな指示は出てねえな。ただ、新参者の四天王がやけにお前を殺したがっててな」


 そこで初めてパンダの瞳が鋭くなる。

 その四天王のことはホークも聞かされていた。


 ――カルマディエ。

 パンダも聞いたことのないような魔人が、今代で突然四天王に名乗りを上げた。

 そして四天王になるや否や、カルマディエは世界中に配下の魔人を放ち、パンダの抹殺を命じたのだ。


 その最初の戦場となったのが、ハシュール国リビア町の国営ダンジョンだ。

 辛くも勝利したパンダではあったが、そこで生まれたカルマディエとの因縁は未だに残り続けている。


「そいつからは『お前を見つけ次第、即時対応せよ』って指示が出てる」

「即時対応だと?」

 ホークの指に力がこもる。

 対応、とはつまり抹殺せよということだろう。

 それ以外に解釈のしようがない。


「あんな奴の命令なんざ聞いてやる義理はねえが……とはいえ俺も腐っても四天王の一人だ。お前らには悪いが、仕事を任された以上、きっちりさせてもらうぜ。どんだけ命乞いされようともな」

 その言葉で、一瞬にして場の空気が張りつめる。

 ホークが思わず息を呑むほどの緊張感。

 それはムラマサによって意図的に放たれた、無条件に死を予感させる無言の殺意だった。


「……対応、とは?」

 ホークがギリギリまで引き金に力を込める。

 それとは真逆に、パンダはあえて一切の戦意を見せようとしない。

 そうすることこそが生き残る最善の策だと言うように、二人の生殺与奪の権利を全てムラマサに委ねていた。


「……それなんだがよ」

 やがてゆっくりとムラマサがホークの問いに答えた。



「――困ったことに何をすりゃいいのかさっぱり分かんねえんだわこれが」

「アーッハハハハハ!」



 途端、ダムが決壊したようにパンダが爆笑した。

 おかしくてたまらないという風に涙を流しながら机をバンバンを叩く。


「あなた本当に変わらないわね!」

「だはははは! いや笑い事じゃねえって! だって『対応』っつっても具体的に言ってくれなきゃ分かんなくね? これ完全に向こうの指示ミスだろ」

「ええ、ええ! まさにその通りね。あーおっかしー」


 ひとまずムラマサにこの場でパンダ達を攻撃する意思はないと悟り、パンダがひょいと席に座った。

 ホークも毒気を抜かれたように引き金から指を離し、呆れたように嘆息して銃を仕舞った。


「……こんなふざけた奴が四天王なのか?」

「同感だな。ったく、まさか二代に渡って四天王なんかやる羽目になるとはよ」

「実力的に言えば当然よ。すみませーん、フライドポテト一つ!」


 能天気に注文までするパンダを見て、ホークもすっかり戦意を喪失し、彼女に続いて席に座りなおした。

 だがムラマサを信用などできるはずもない。

 かつてのパンダの臣下であり少なくとも今は戦うつもりはないようだが……今では二人にとって最悪の敵の一人だ。


 まずはこの男の目的を突き止めることから始める必要がある。


「貴様はパンダの目的を知ってるのか?」

「は? パンダ?」

「ああ、私の新しい名前よ。流石に魔王の頃と同じ名前は使えないし」


 既にパンダという名前で覚えてしまっているホークとは違い、ムラマサにはパンダという名は違和感があるようだ。

 ホークにしてみれば、パンダがかつて『フルーレ』と呼ばれていたという方が違和感しかなかった。


「ああ偽名か。……パンダぁ? ひっでえ名前だ。犬の名前だってもう少し真剣に考えるもんだ」

「そう? 慣れてくると案外この名前も違和感なくなるものよ」

「おい、話を戻すぞ。ムラマサ。貴様はパンダの旅の最終的な目的を知ってるのか?」

「ああ、もちろん。魔王討伐だろ?」


「……貴様は四天王だろ。何故そう平然としていられる」

 自分の王の討伐を目論む者が目の前にいるというのにまるで頓着しないムラマサ。

 血の盟約で繋がれている以上、魔王の死は魔族全体の死に繋がる。ムラマサにとっても他人事ではないはずだ。


「そりゃ魔王も承知してるからな。つーか俺らはむしろ、こいつらの悪ふざけに付き合わされてる側だぜ」

「失敬ね。こっちは大真面目よ」

「ま、こいつの突拍子もねえ暇潰しは今に始まったことじゃねえしな」

「……暇潰しだと?」


 激しい怒りを覚えるホーク。

 確かにパンダは見るからに不真面目だし適当だしろくでもない女だが、ホークは少なくとも彼女と同じ目的地を見ていると思っている。

 今や魔王討伐はパンダだけの悲願ではない。ホークにとっても、その命を賭けるに値する大望だ。


 それを暇潰しの一言で片づけられるのは不愉快に過ぎた。


「ま、やりたいことやりゃいいのさ人生なんて。お前もせいぜい好きに遊べ。……しかしまあ、こんな国でまったり冒険者生活なんてしてたら、いつまで経っても魔王討伐なんかできねえだろうけどな」

「こんな国っていうなら、あなたこそどうしてこんな国にいるわけ? 四天王が人間領を散歩してレストランでご飯食べてるなんて大問題でしょ」


 それをお前が言うのか、とホークは内心ツッコミを入れた。


「ああ、そりゃもちろん、こっちも仕事で来てんだ。野暮用でな。――くく! これがまた傑作な話なんだよ。あー言いてえ! でもさすがにこれは言えねえな」


 最高のジョークを聞いたようにムラマサは顔を歪めて笑いを堪えていた。

 酒場の冒険者たちが、その日あった仲間のミスを笑い話にするような笑い方に――ホークは何故か強烈な既視感を覚えた。


「……」

 ホークは無意識にパンダの顔を覗き見た。

 すると同じタイミングでパンダもホークの顔を覗いていた。両者の視線がぶつかり合い、そして両者ともに同じ確信に至る。


 そう、パンダとホークが初めて作戦会議をしたときもこのレストランだった。

 そしてそのときに、パンダもある一つの出来事がいたくツボに入り、ひとしきり爆笑していたのだ。


「ねえ、まさかとは思うんだけど……それって?」

「……ほー?」


 初めてムラマサが神妙な顔を浮かべた。

 彼にとっても思わぬ話だったようで、ソファに預けていた身体を僅かに乗り出してきた。


「答え合わせしてやるよ。言ってみな」

「偶然に四天王の盟約を手に入れた吸血鬼がいたわよね? マリー・イシュフェルトっていう吸血鬼なんだけど、まさか彼女を殺しにきたんじゃないわよね?」

「……そいつと会ったのか?」

「ええ。少し前にちょっと因縁があってね」

「そうか、やっぱハシュールにいたんだな」


 その反応は暗にパンダの言葉を正解だと言っているも同然で、故にホークの心に激しい焦燥感が生まれた。


「……ってことは、そうなの?」

「ああ、そこまで分かってるなら別に隠す必要もねえな。そうだ。俺はその吸血鬼を始末しにこの国にきた。この辺にある館で昔あいつがその吸血鬼に血を飲ませたらしくてな。今もいないか見に来たのさ。ま、空振りだったがな」


 その可能性自体はパンダも想定していた。

 マリーが四天王の盟約を手に入れたことは魔族にとっても看過できる出来事ではなく、新たな四天王を選定できないことは大きな痛手だ。

 マリーの存在は魔族にとって百害あって一利なし。

 故にマリー抹殺のため魔人が差し向けられること……それ自体は十分に有り得た話だ。


 だが、その可能性は既に消えたはずだ。

 何故なら……。


「空振りどころか、その吸血鬼もう死んだわよ? 私たちが殺したもの」


 そう、パンダとホークがマリーを討伐したからだ。

 既に吸血鬼が死亡した以上、わざわざこんな辺鄙な国まで魔族が……まして四天王が出向く理由もない。

 マリーの死によって四天王の盟約が失われたことは魔族も当然認識できているはずだ。


 だがムラマサはそんなパンダの言葉を受け、気の抜けた声を漏らした。


「は? 何言ってんだ? そいつなら今も生きてるぜ」


 バン! とホークが机を強打した。


「デタラメを言うな! 奴は死んだ!」

 椅子から立ち上がりテーブルに身を乗り出してムラマサを睨み付ける。


「なにキレてんだよ。仕留め損なったんだろ?」

「有り得ん!」

「そいつが死ぬとこちゃんと見たのか?」

「もちろ――っ」


 そこで言い淀んでしまうホーク。

 魔断を受け瀕死の状態にあったブラッディ・リーチに、とどめの魔断を撃ち込んだ。

 それは間違いなく彼女の命を刈り取るに足る一撃だ。

 そういう意味ではホークはブラッディ・リーチの最後を見届けたと言える。


 ……だが、より厳密な意味で言えば……確かにホークはブラッディ・リーチが息を引き取るその瞬間を目撃してはいない。


「まあ落ち着いてホーク。……でもねムラマサ、ほんとに有り得ないことなのよ」

「何を根拠に言ってんだ?」


 そこで一瞬だけパンダが躊躇を見せる。

 根拠を説明するためにはホークの魔断の力を明かすしかない。

 それは大きな不利益ではあるが……パンダは決断した。


 どの道ホークが勇者を続けていけば、破魔の力のことはいずれ世界中に広まる話だ。

 それよりも事情が変わった。マリーが生存しているのなら魔族の動きはパンダの想定よりも大きく変わってくる。


 マリーを抹殺するまで人間領はムラマサのような刺客が次々と送り込まれることになる。ただでさえカルマディエの配下がどこに潜んでいるか分からないというのに、何の情報もないままではもう迂闊に出歩くこともできない。


 ムラマサから情報を引き出す必要がある。

 そのためには、まずはこちらからとっておきの情報を差し出すべきだ。


「この子の能力は、血の盟約を破壊できるのよ」

「おほっ!? マジ!? やっべ。ほーん……それで勇者ねえ」

「奴には二発ぶち込んだ。生きているわけがない」

「あなたでも一撃で瀕死にさせる魔断よ。二発撃たれて生きてるわけないっていうのは、私も自信をもって言える」


「そう言われてもなあ。実際に盟約がまだ生きてんだからしょうがねえだろ?」

「…………そうね。そうなるわね」

「おいふざけるな! どういうことだパンダ!」

「……」


 いくつもの可能性が瞬時にパンダの脳裏をよぎる。

 だがどれも想像の域を超えない。

 そもそもからしてマリーが死に損なったということ自体が異常事態なのだ。そんな結論に辿り着く可能性など、どれだけ考えても空論に過ぎない。


 どの可能性も有り得そうにないが、唯一ありそうだと思えるのは『ビィの勘違い』だ。

 血の盟約の存在を黒魔法の天才であるビィが勘違いするなど本来ならば有り得ないが……彼女ならそんなうっかりをしそうな気もする。


「……吸血鬼の盟約が生きてるのは、ビィも確認済みなのよね?」

「そりゃな。まだ人間領内にいることも感じ取ってるらしいぜ」

「……?」


 そこでぴたりとパンダの動きが止まった。

 今、ムラマサはなにか聞き捨てならないことを口にした。


「……ちょっとまって。? そんなこと……」


 普通はできない。

 血の盟約は魔法的な呪いの一種だ。その存在を感知すること……それ自体は不可能ではない。

 特にパンダやビィのように、黒魔法に長けた魔王であれば、直接盟約を結んだ者がどこにいるかを知ることも可能だ。


 だが、この手の探知というのは距離によって著しく精度を落とす。

 単純に探知魔法の性能の限界だ。

 探知に特化した占星術ですら、国一つ分も距離が開けば信憑性を損なうほどだ。


 まして魔族領の最奥、魔王城から人間領にいるマリーの位置など、まともに感じ取れるはずがない。


 ――それを可能にする条件。それは単純明快。



「まさか、ビィが来てるの?」



 その言葉にホークも、ハッとしたように目を見開いた。


 ――ビィ。

 パンダの後を継いで五代目魔王を襲名した魔人。

 パンダから力を譲り受けた、史上最強の魔王――


「ん? ああ、人間領に来てるぜ。今はバラディアに向かってるはずだ。――あー、道に迷ってなけりゃな」











 音のない森の中で、シィム・グラッセルは身体を震わせていた。

 物理的に身を震わすもあったが……何よりも彼女の身体を揺さぶったものは……恐怖だった。


「……あ、あな、た…………な、なにもの……」


 見渡す限りの銀世界。

 雪の結界と化した森の中に、その少女はゆったりと佇んでいた。


 謎の魔人との戦闘から逃げ延びたゴード部隊の面々が遭遇した、謎の少女。

 真っ白なドレスに純銀の髪。美しすぎる程に整った顔立ちで微笑むその少女によって、シィム以外の部隊員は皆同様に命を散らせた。


 唯一生き残ったシィムに向けて、少女は少し頭を下げた。


「ああ、これは失礼いたしました。そういえば自己紹介を忘れていましたね」


 うっかりしていました、と少女は照れくさそうに頬を赤らめた。


 シィムの視線が少女に釘付けになる。

 雪を思わせる、透き通るような青い左目。


 ……そして、先程まで眼帯で覆われていた右目が、今ははっきりと見て取れた。



「――わたくし、スノウビィと申します。以後お見知りおきを」



 その右目は、禍々しい紫の輝きを放っていた。

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