第32話 破魔の矢


 ブラッディ・リーチ討伐のために館への道を進んでいたホークは、再び街道に辿り着いた。

 数時間前まで五○人もの死体で溢れていた街道から、遺体は綺麗に持ち去られていた。

 おそらくハシュール国騎士団が回収に来たのだろう。生々しく残る大量の血痕だけが、ここでおきた惨劇を物語っていた。


 事前に入手していた情報によれば、ここから館までは一キロ近く距離がある。

 しかし先の作戦では、ブラッディ・リーチは襲撃を察知していた。おそらく侵入者探知の結界が張られているのだろう。

 ホークには解除できないし、するつもりもない。

 潜入する必要はない。どうせ向こうも迎撃に出てくるはずだ。

 そこを正面から叩き潰せばいい。


「……」

 ホークの胸に少なからず不安がよぎる。

 S-70相当の魔物との交戦経験など、歴戦の戦士であるホークを以てしても数えるほどしかない。

 そんな敵と戦う際は必ず撤退戦だったが、今回は討伐が目的だ。

 しかも今回はホークただ一人での戦闘。

 ゼフィールに言われた通り、正気ではない。


「……ミリア」

 だが愛する妹が攫われている以上、他に道はない。

 ホークがそう覚悟を決めたとき。


「――ああ、あなただったんだ」


 あの時のデジャヴュのように頭上から声が落ちてきた。

「ッ!」

 一秒にも満たない時間でホークが弓を構える。

 その矢先には、月を背負った吸血鬼『ブラッディ・リーチ』の姿があった。


 ……しかしその姿を目にし、ホークは頬を引きつらせた。


 赤いローブを更に赤く染め上げているのは、夥しいほどの血液。

 血液が付着しているのはローブだけではない。手も靴も髪も顔も、およそ目に見える全ての箇所が吐き気を催すほど大量の血に塗れていた。

 ――疑う余地もなく、その全てが返り血だ。


 情報通りだ。

 執拗なまでに相手を痛めつけ、その血を全身に浴びて悦ぶ異常者。

 それは吸血鬼にあってなお『ブラッディ・リーチ』と呼称されるに相応しい異形だった。


「貴様……!」

 あの血が一体誰のものか……それだけがホークの心を逸らせた。


「なんの用かな? 私、とっても忙しいんだけど」

 上空からホークを見下ろしながらも、ブラッディ・リーチの意識はまるで別のところに向いているのがはっきりと窺えた。

 まるで遊興に水を差されたような不機嫌さがある。


「……ミリアはどこだ」

「え? 誰って?」

「ミリア・ヴァーミリオンだ! 貴様が攫った、私と同じ赤い髪のエルフだ!」

「あぁ」


 今思い出したかのように頷くブラッディ・リーチ。

「いたね、そんな子。どこって言われても、私のお家だけど」

「ッ……、何故エルフを襲う! 私たちは、貴様ら吸血鬼となど敵対していなかったはずだ!」

「――理由、か」


 ブラッディ・リーチは目を閉じ、かつての記憶を辿った。


「――私が初めて、自分から他人の血を飲んだのは……今から一年半前」

 彼女の運命を変えた日……思えば、あの日に起こった出来事が全てだ。


「それまで私にとって血を飲むことは苦痛を意味していた。絶望を意味していた。でもあの日……あの日に飲んだあの人の血だけは違った。喉が焼けるほど熱くて……脳が痺れるほど鮮烈で……言葉にできないくらい美味しかった」

 恋い焦がれるようにうっとりと瞳を濡らしながらブラッディ・リーチは滔々と語った。


「他の誰の血を飲んでもあんな衝撃は得られなかった。だから……あの味を思い出せるように、少しでも綺麗な子の血を飲むことにしたの。あの人ほど美しい女の人なんて見たことないけど、でも綺麗なほど……なんていうか、テンションが上がるっていうのかな」

「…………な、に?」

「だから人間だけじゃなくてエルフも襲ったの。エルフって、ほら――可愛い子多いし」


 つがえた矢が思わず緩むほどにホークは言葉を失った。

 ろくな理由があるなどと期待していたわけではない。

 例えどんな理由があったとしても許せるはずもない、が……ブラッディ・リーチが語った動機は、あまりにも、

「……なんだ、それは……」

 ギリ、と歯を噛みしだく音が響く。


「ふざけるなァ!」


 怒りと共に矢が放たれる。

 並の戦士では視認することも難しいほどの速度

 しかしブラッディ・リーチにかかれば見切るのは容易かった。


 矢にも劣らぬ速度で展開される血の盾。射線を遮られた矢が盾に触れた瞬間、盾は、バン、と乾いた音を響かせて破裂した。

 同時に矢も推力を失い、盾の形を失った血の雨と共に地面に落下した。


「――破魔の力」


 ブラッディ・リーチの呟きに、ホークの眉がピクリと反応する。

「触れたものの魔力を打ち消すんだよね? それを矢に付与できるなんて、確かに凄い能力だね」

「……」


 ホークの表情が険しくなる。

 先の戦いでホークがブラッディ・リーチの能力を見破ったように、向こうもまたホークの能力を看破していた。


 ――破魔の矢。

 それがホークの持つ最強の武器だ。


 ブラッディ・リーチの言葉の通りだ。ホークには触れたものの魔力を打ち消すユニークスキルがある。

 その力を矢に付与することで、矢は同様の効果を得る。


 本来であれば、ブラッディ・リーチの操る血はよほどの衝撃を受けない限りはその効果を失わない。

 仮に血の盾を突破するほどの攻撃を受け、盾が破られたとしても、散った血液自体はまだブラッディ・リーチの支配下にある。


 しかし破魔の矢に接触した血は一瞬にして内部に含む魔力を消し飛ばされる。

 結果、ただ一度の接触でブラッディ・リーチの支配を外れてしまうのだ。


 ――ではその破魔の矢を身体に直接受ければどうなるか?


 例えば魔人は、人間のように食事からエネルギーを摂取しない。魔人にとってのエネルギーは魔力そのものだ。

 故に、体内の魔力を丸ごと消し飛ばす破魔の矢は、ただの一度の接触で魔人にとって致命傷となるのだ。

 あの紫の少女も、軽く矢に指先が触れただけで破魔の力にあてられ意識を失った。


 人間であればあのような反応にはならない。この矢が特攻を持つのは魔族に対してだ。

 この能力があったからこそ、ホークは二○○年にも及ぶ戦争を生き抜くことができたと言っても過言ではない。

 エルフにとっての切り札。誰もが太刀打ちできないほどの魔人を相手取っても唯一有利条件を取れるのが、ホークの破魔の矢だった。


「この力が吸血鬼にも通用するか心配だったが、どうやら貴様には効くようだな」

「かもね」


 それは真実だった。

 魔人と同様に吸血鬼にとっても魔力は生命の源だ。

 おそらく矢が一本でも当たれば行動不能に陥るだろう。


「――でもさ」


 その上で街道に響くのは、ブラッディ・リーチの余裕に満ちた声だった。






「当たらなきゃ意味ないからね。弓じゃだめだよ」

 マリーの館のゴミ捨て場から出てきたパンダは、オレンジ色のバッジを指先で転がしながら言った。


「ねえベア。『一撃で相手を倒せる力を付与できる』としたら、あなたならどんな武器に付与する?」

「拳です」

 パンダを追従していたベアが即答し、パンダが首肯する。


「そうね、触れた端から魔力を破壊できるなら、小回りの利く武器に付与して振り回すだけで脅威よ。最たる例はあなたの言う通り。私なら短剣かな」

「しかしそれでは近接戦を強いられます。エルフには荷が重いでしょう」

「だからこその弓なんだろうけど、それなら援護が不可欠よ。弓一つでタイマン張ろうだなんて、無謀もいいとこね」


 話してるうちに館の玄関まで辿り着き、さて、とパンダはベアに向き直った。


「じゃあここであなたとはお別れよ。私がカルマディエを倒すまで好きに生きてなさい」

「畏まりました」

「好きにって言ったけど、」

「承知しております。これ以降パンダ様を監視したりはいたしません。また、貴女様の旅に直接干渉するようなこともいたしません」

「オッケー」


 ドアに手を伸ばすパンダ。

「パンダ様」

「んー?」

「この館と、その周辺には結界が張られてあります。このドアを開けた瞬間に吸血鬼に察知されます」

「分かってるわよそんなこと。だから早く開けてあげないと」


 言いながら迷いなくドアを開ける。

「早くしないとあの子死んじゃうしね」






「クッ……!」

 戦闘が開始してから僅か数分で形勢ははっきりと決まっていた。

 上空に陣取ったブラッディ・リーチは、そこから無数の攻撃を仕掛けてきた。

 操られた血が形を変えてホークを襲う。

 薄い刃が鞭のようにしなり、血の弾丸が降り注ぐ。

 それが同時に複数。さながら赤い暴風となって余すことなく戦場を支配する。


 長年培った戦闘技術とエルフ特有の動体視力で回避し続けるホークではあったが、それも間一髪。

 いくつもの切傷に加え、針の孔ほどの傷も数箇所存在する。

 この孔はブラッディ・リーチが繰り出した攻撃の一つ。血を散弾のように飛ばし、体内に自らの血を侵入させ内部から破壊する。


 ホークは既に数度この攻撃を身に受けた。他の者ならばその一撃だけで死を迎えるという凶悪な攻撃だが、ホークが存命しているのは彼女の持つ破魔の力によるものだ。

 ブラッディ・リーチの血に含まれる魔力がホークの心臓に到達するまでに、破魔の力でブラッディ・リーチからの支配力を失ってしまうのだ。


 故にホークは血の雨は無視し被弾覚悟で攻勢に出ているが、それでもブラッディ・リーチを前にまるで勝機を見出せていなかった。


「クソッ……!」


 襲い来る血の風をかいくぐりながら破魔の矢を放つ。

 回避から流れるように攻撃に転じる様はまさに歴戦の弓士。僅かの無駄もなく射られた矢は今のホークに出来る最高の一射。


 ――故に、ホークは絶望するしかない。


「あはは、何度やっても無駄だよ」

 嘲笑しながらブラッディ・リーチは血の盾を作り出す。

 いや、それは盾などというほどのものではなかった。

 ただ少量の血の塊を、矢の射線上に展開しただけだ。


 だがそれだけで十分なのだ。

 矢が血の塊に触れた瞬間に破魔の力が発動し、矢は血の塊と共に地面へと落ちていく。

 矢が到達するよりもブラッディ・リーチの血の方が遥かに早い。

 つまり破魔の矢がブラッディ・リーチを射殺す可能性はほぼ皆無なのだが、そうなると勝敗を分かつのは互いのの量だ。


 ブラッディ・リーチは自身の血を操るが、故にその量は有限だ。

 そこにこそホークは活路があると信じていた。ホークの矢を防ぐ度にブラッディ・リーチの血は破魔の力によって使用不能になっている。

 ならば長期戦になればやがてブラッディ・リーチは血を使い切り自滅することになる。


 ……だがその予想を裏切り、ブラッディ・リーチは無尽蔵に血液を出し続けてみせた。

 破魔の矢は既に二○本以上使用している。その結果ブラッディ・リーチはざっと三〇リットル以上の血液を失っているはずだ。

 人間で考えれば当然ながら失血死する量だが、ブラッディ・リーチの余裕が陰ることは一度もなかった。


「馬鹿な……」

 吸血鬼は血に特化した魔物だ。人よりも多くの血を体内に貯蔵していても不思議ではない、が……あまりにも多すぎる。

 ブラッディ・リーチの周囲を浮遊する無数の血の鞭。……今見えているその血だけで数十リットルはあるはずだ。


 奴が無尽蔵に血を生み出せるなら……最悪の想像が脳裏をかすめる。

 いや、そんなはずはない。あってはならない。そうでなくては――


「――矢はあと何本かな?」


 どくん、とホークの心臓が一層大きく脈動する。

 ……読まれている。

 ホークの額から一筋の汗が流れ落ちる。


 そう、もしブラッディ・リーチの血の貯蔵が無尽蔵ならば、先に底を突くのはホークの残りの矢の方だ。

 ホークは二つの大きな矢筒にそれぞれ一五本ずつ矢を入れ、計三○本の矢を用意した。

 それ以上は動きを阻害してしまうため装備できなかったが、それでもなんとかなると踏んでいた。

 今まで魔人と交戦になった際にも、八本以上も矢を使うことはなかった。


 だが既にその内の二○本を失っている。

 残り一○本。

 ……それであの化け物を倒せるとは、到底思えない。


「理解できたかなエルフさん。今この場を支配してるのは私なんだよ。長期戦に持ち込めば勝てるとでも思ってたみたいだけど、あなたはまんまと、」

「黙れ!」


 放たれる破魔の矢を冷笑で迎え撃つブラッディ・リーチ。

 目にも留まらぬ三連射。

 相手の攻撃に合わせたカウンター。

 いろいろと試すがいずれも実らず、ことごとくがブラッディ・リーチの血によって無効化される。


 せめて地の利があれば戦い方も違っただろう。

 手の届く場所にブラッディ・リーチがいれば、一か八か接近戦を仕掛けて掌から直接破魔の力を叩き込むこともできただろう。

 だがブラッディ・リーチは徹底して上空に浮遊したまま降りようとせず、高度の有利を手放そうとしなかった。


 何か足場になるようなものがあればよかったが、ここは平坦な街道。唯一足場になりそうなのは街路樹くらいだが、ブラッディ・リーチは当然のようにそれらの街路樹から距離を取っていた。

 そうなってしまっては、もう矢を射るしか攻撃手段はない。


 ――その矢の本数が残り二本となったところで、ついにホークの心が敗北の予感に軋み始めた。


「――終わり?」

 穏やかなブラッディ・リーチの声が敗北を宣告する。

 ホークの戦士としての勘はとっくに撤退を進言していた。

 それを奮い立たせているのは、他ならないミリアへの想いだ。

 ここで自分が負ければ誰がミリアを救うというのか。


「……ッ」

 軋む身体を懸命に動かす。

 既にホークの身体も無事ではない。致命傷こそ受けていないが、逆にそれ以外の攻撃は甘んじるしかないほどの波状攻撃に、ホークの身体は限界まで傷ついていた。

 至る所から流れ出る血で前身は真っ赤に染まり、わずかに動くだけで血の飛沫が周囲に散った。


 矢の本数だけではない。既にホークの身体もこれ以上の長期戦に耐えきれないところまできている。

 だというのにブラッディ・リーチは未だ無傷。


「ここまで……差があるのか」

 甘く見ていたつもりはない。

 敗北したとはいえ、吸血鬼は人類を除けば魔人と全面戦争を繰り広げた唯一の種族だ。

 だがこれほど手も足も出ないなどとは思わなかった。ブラッディ・リーチの能力との相性……そしてホークの能力が既に敵に知られていたのが決定的な敗因だ。


「――まだだ」

 もはや選べる手はない。

 特攻……それしかない。成功確率は頭を抱えたくなるほど皆無だが、やるしかない。


 意を決して、ホークは跳躍した。

 ブラッディ・リーチが浮遊しているのは地上五メートルの上空。その程度であればホークの身体能力であれば軽く跳躍できる。

 かくなる上は掌から直接破魔の力を流すしかない。有り得ない作戦だが、矢がない以上もうそれしかない。


「あはは! もうやけっぱちだね」

 ぎゅるり、と血の塊がうねる。

 ブラッディ・リーチの周囲を泳ぐ大量の血液がホークの無謀を迎え撃つ。


 八メートル以上の距離を開けても回避しきれなかった血の暴風へと飛び込む。

 もはや死なばもろとも。距離が詰まれば回避が困難なのはどちらも同じだ。


 至近距離からの二連射。しかも射線を変えず、一射目にぴったり続く形で二射目を放つ。タイムラグはゼロコンマ三秒。

 エルフ最強の弓士の名に恥じぬ連射を見せつける。


 しかしそれすらブラフに過ぎない。本命は、その二射でこじ開けた道に飛び込んでの近接戦。指先がブラッディ・リーチの皮膚に僅かでも触れればホークの勝利だ。


「くらえ!」

「無駄だよ」

 ――その瞬間、視界が真っ赤に染まった。


 世界が全て燃え狂ったのかと錯覚するほどの赤い空間に包まれる。

「――霧?」

 それは赤い霧だった。

 それが、血液を瞬間的に気化させたものだと気づいたときには既に遅かった。


 半径五メートルほどの範囲に拡大した血の霧は、放たれた二本の破魔の矢もろともホークを包み込んだ。

 その霧はブラッディ・リーチの血が霧状に変化したものだ。当然ブラッディ・リーチの支配下にあり、余すことなく彼女の魔力に満ちている。


 故に、二本の破魔の矢はどちらもその霧に


 バチン、と電流が走るような音が響く。それは周囲に満ちた霧に含まれる全ての魔力があげる断末魔の悲鳴。

 消し飛ばされた魔力によって支配から解放された霧が一気に霧散していく。

 それは、ホークの最後の攻撃すらも潰えたことを意味していた。


 その中心で、ブラッディ・リーチが妖しく笑い、ホークは敗北を悟った。

 上空に跳躍し身動きのできないホーク目がけ、血の塊が鞭のようにしなって襲い掛かる。

 咄嗟に弓をかざして防御を試みるが、木製の弓に耐久力を求めるのは酷が過ぎた。


 弓が真っ二つに叩き折られ、それでも勢いの止まらない血の鞭がホークの動体を打ち据える。

「ガッ……!」

 鈍い悲鳴と共にホークは地面へと叩き落とされた。

 衝撃は内臓にまで響き、ホークは血を吐き出した。


「終わりだね」

 地面の上で苦痛にもがくホークを見下しながら、ブラッディ・リーチは手の内に血で象った槍を作り出す。

 身動きのできないホークにこれを投擲すれば、そのまま心臓を抉り穿つだろう。


「じゃあ死のっか」

 愉悦に歪むブラッディ・リーチの口元が死を告げる。

 もはや起き上がることもできないホークは、それを黙って見ていることしかできなかった。

 手から死の槍が放たれようとした、その時。


「――え?」


 ブラッディ・リーチは不可解な気配を察知した。

 それは館に貼られていた結界から送られてきた報せだった。

 誰かが館の門を開けた。


 今あの館でそんなことができる者など、いるはずも――


「――パンダ!」

 悲鳴にも似た声を発し、ブラッディ・リーチは全速力で飛翔した。

 それはあり得ない可能性。パンダは瀕死の状態で頑丈な鎖に繋がれている。脱出などできるはずもない。

 しかしパンダならあるいは……そんな焦燥に煽られ、ブラッディ・リーチはホークなどまるで眼中に入れず館へ向かって飛んだ。


「な……!?」

 呆気にとられたホークを置き去りに、ブラッディ・リーチの姿は間もなく視界から消え去った。

「ま……ま、て……!」


 息も絶え絶えにそう叫んだときにはもう、ブラッディ・リーチの姿はどこにもなかった。


 再び静寂に満たされた街道で、ホークは悔しさに任せて地面を殴りつけた。

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