第2話
この世界の一年は、十二の月によって成り立っている。十二の月を味気無く数字で呼ぶ者もいるが、多くの人は違う。その月の特色から生み出された名を持って、その月を呼ぶ。
一の月。新しい年を神々が祝福し、天上から白い花が吹雪のように降ってくる。故に、
二の月。春の気配に、そこかしこで鳴いているような、雪融けの音が聞こえ始める。故に、
三の月。冬眠していた虫達が目を覚まし、這い出る事で土が起こる。故に、
四の月。温かな空気が辺りに満ち、陽の光に浸かる事で安らぎを得る。故に、
五の月。初夏の訪れを告げる風に、木々の葉が爽やかに騒ぎ始める。故に、
六の月。呑める程の雨が降り、生きとし生ける全ての者に潤いを与える。故に、
七の月。夜空に星々が輝き、飾り付けたかのように美しくなる。故に、
八の月。巨大な雲が湧き立ち、人々は夏に秘められた力強さを実感する。故に、
九の月。次第に陽の光が弱まり始め、長々とした夜が育ち始める。故に、
十の月。秋の空は清々しく晴れ渡り、澄んだ青色が人々を魅了する。故に、
十一の月。木々の葉は色付き、夕焼けが里を染め、世界は紅を塗ったようになる。故に、
十二の月。一年を最後まで終えた事を神々が祝福し、氷が独りでに美しい音を響かせる。故に、
これで、一年一巡り。一つの月が三十二日で、一年は三百八十四日。これ以上にも、これ以下にもなる事は無い。
だが、実は誰も知らぬ間に訪れる、十三番目の月があるのだと。そう言う者がいる。
それがいつ、どのようなタイミングで訪れるのか、はっきりと説明できる者は無い。十三月というぐらいなのだから、氷響月の後に来るのだろうとは言われるが、氷響月の三十二日が終わった後に来るのは、必ず花降月の一日だ。その目で十三月の訪れを確認し、証明した者はいない。
その、本当に存在するかどうかもわからない十三月が訪れた時。一人の狩人が現れるのだと、訳知り顔で言う者がある。
新月の夜空のように黒い衣装を纏い、顔も影に支配されたかの如く黒くて表情が窺えない。黒塗りの弓と、黒羽の矢を携え、獲物として選ばれた人間を狙い、追い続ける。
怪談話のようなその存在を、彼が現れるという時に因んで、十三月の狩人と呼ぶ。
十三月の狩人に狙われた者は、花降月を無事に迎えるため、逃げ続けなければならない。逃げ切れなければ、命を落としてしまう。
逆に、逃げ切る事ができれば何か良い事があるという話もあるのだそうだ。しかし、どのような良い事があるのかは、定かではない。
何が起こるのか、実在する存在なのか。何もわからないまま話は独り歩きし、そして次第に消えていった。この話が広まったのは、今から何十年も前。今となっては、老齢の者達が、子どもの頃を懐かしんで語る事がある、という程度の物になってしまった。
それが、十三月の狩人という話の実態である。
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