没落貴族が目指す、軍内部での確固たる地位のあり方について

くろね

第1話

 私は今、車内にいる。ぼーっと窓の外を眺めていると、何やら人だかりが出来ていた。


「何だ、あれは」

「ああ、先生。それは、この前の議会の決定に宗教団体が抗議しているんですよ。神への冒涜がどうとか」


「くだらんな」


 全くもって、くだらない。神などいるものか。そんなものは、所詮。人間の作り出したまやかしに過ぎん。そんなもので人は救われんよ。


『何故、信じない?』

「ん……? 君、何か言ったかね?」

「え? いえ、何も……」

「ふむ……そうか」

『何故、神の存在を信じない?』


 なんだ、この……頭に語りかけて来るような声は……幻聴か? まずいな、脳に異常があるかもしれん。病院に行くべきだろうか。


『お前の脳は正常だ。問いに答えよ』


 ちっ……先程から、うるさい。何様だ、貴様は。神だと? そんなものはいやしない!


『我がその神である』

 は、何を馬鹿げたことを。


『ならば、お前にしか聞こえていないこの声をなんとする』

 だから、幻聴だろうが。く、いかんな。幻聴と会話するなどと……ますますヤバイぞ。


『幻聴ではない。神を信じよ』

 断る。しつこい声だ。あの団体の熱気にやられたか。


『何故、信じないのだ』


 神が何をしたというのか。何もしてはいない。仮に神という存在がいたとして、それは人間の味方ではないだろう。無条件で全人類を救うお人好しがどこにいるというのか。


『信仰心がなければ、救うこともできまい』


 ならば、何故。こんなにも複数の宗教があるのか。神は一人ではない証明ではないか。複数の神が人間を奪い合っているのではないかね?


『……』


 おや、図星のようだ。何かと制限がありそうだな。ついでに、人間を使って代理戦争でもしているのではないかね?


『何者だ、お前は』


 こっちが聞きたい。真面目に病院に行った方がよさそうだ。

 私は電話をかけようとした。しかし、繋がらない。


『電話が繋がることはない』

 やれやれ、電波障害か。こんな都会のど真ん中で。


『神を信じよ』


 どの神をかね。信仰心がなければ、力が出ないなど、神の方が人類にすがっているではないか。世界各国は、ほとんど宗教が決まっている。無宗教の多い日本に目をつけたのだろう? そうやって一人ひとりに声をかけているなど、熱心なことだ。


『信じなければ、天国へ行けぬぞ』


 天国だと? そんなものはない。生物が死んだ先にあるのは、『無』だ。正確にいうならば、肉体は朽ちても原子レベルでは存在しているがね。脳の部分が欠如していれば、感覚を得ることはない。すなわち、無に還るということだ。


『生まれ変わりたくはないのか』


 だから、そんなものは存在しないと言っている。私は自分の目で見たものしか、信用しないのでね。


『そうか。ならば、「転生」させてやろう』


 何?


『お前は今から、交通事故に会う。そして、死ぬ。そういう運命だ。その後、別世界へ転生し、第二の人生を送ることとなるであろう。お前には過酷な試練を与えた。必ずや、神を信じることとなるであろう』


 ふざけたことを。ぬか──。

 その時だった。ピピーっというクラッションが鳴り響いたのは。


「ひっ──」


 運転手の声だった。そちらへ視線を移すと……巨大なトラックが飛び出して来ていたのだ。信号無視だ。


 瞬間、衝撃が走り……意識が飛んだ。



 声が聞こえる……何の声だ。

「よくやったぞ、セリーヌ。元気な女の子だ」

「あなた、名前をつけてあげて」

「そうだな……サリス、なんていうのはどうだ?」

「いいわね。ほら、サリスちゃん。ママですよ~」


 なんだと。私は伊藤健二だ。政治家の。ふざけたことを抜かすな。む、なんだ。体が動かん……いや、動くには動くが……関節が。


 なんだ、これは。どうなっている? それに、誰だこいつらは。私は抱きかかえられているのか。ありえない。ここは……病室か?


 ふと、視線を移すと……病室内の鏡を見つけた。

 そこには……なんと、赤ん坊の姿で映っている自分が存在していた。男に抱きかかえられて。

 な、な……なぁ!? なんだ、これはぁあああああああ!

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