1-3 終わりを遂げた旧日常

俺は家の扉に手をかけて、背中にある大剣に手をかける。俺の身長をゆうに越える180センチの剣だ。



師匠せんせいただいまー」


扉を開くのと同時に剣を振るが、目の前にいた謎の 男は掌で剣を弾く。


俺はその勢いに乗り、後方へ逃げようとして、失敗する。


腕を掴まれ、男の後方へ投げ飛ばされる。剣を投げ、敵の意識を逸らした瞬間、ナイフを3本、男に向けて投げる。


このナイフはお前が剣を避けた瞬間刺さるように投げた…剣より殺傷力は低いが、そのナイフに塗った毒は強力だぜ


剣を避けた瞬間に当たるはずのナイフは予想外の結末を迎える。


男は向かってくる剣を弾き、その場で縦に180°回転させ、柄を掴む。


後は簡単だ…三方向から同時に飛んでくるナイフを弾くだけだ。


男はナイフを弾いた後、一瞬で俺の間合いに入る。


俺は腰に差しただがーを抜き…顔を殴られる。

意識が吹き飛びそうになるが…眼をしっかり開け、敵を見失うまいと眼を動かす。その間にダガーを抜く。



男は追撃してこなかった…


男は逆上がった薄い金髪を撫で、少しずれたサングラスをかけ直す。


「うん、悪くねぇなぁ。悪くねぇ。家に入る前に異変に気付き、さも気づいてねぇようなマヌケの振りをして、俺が近づいた瞬間に剣を振る。その剣のキレ、タイミング全てが完璧だ。当たれば俺は死ぬだろうな」


男はウンウンと頷いている間に動き出そうとして…


後頭部を踏まれる。地面とキスするはめになった。


「驚きはその隙と油断の無さだ。自分の攻撃は外れて当然という常識で戦ってやがる。そんなことが出来る奴は少ない。剣を投げて視線を逸らすという機転も効くし、その間に投げたナイフの軌道を見れば狡猾さも伺える」


男は息を吸う


「あとよく鍛えられている。俺に殴られた時、お前は眼を閉じなかったな。これは訓練を重ねて身に付けるしか方法がない。これらを踏まえて…ふむ…」


男は息を吐く


「ただそれだけだ…ただの一流だ。本当にただそれだけだ。悪くないと言うことは良くもないということだ。お前じゃ、俺には一生勝てねぇーな」


俺は腕を動かそうとして、踏まれる。


ああ、骨が砕けたようだ。


「動くなよ。俺はお前を殺しに来たわけじゃねぇ。むしろ逆だ」


師匠せんせいはどこだ…」


「南方の賢人か…アイツは命を狙われていた。世界中の奴等からな、それでアイツは俺らに助けを求めたわけだ」


「お前は…」


男は足をどける


「俺は傭兵団DOWの頭をやってるマスティフだ。一応、世界で最も規模がデカイ傭兵団で、世界中から色んな依頼が来る。そして、傭兵と言ったら金の為なら何でもするクソッタレ野郎だ。世界中であらゆる国をぶっ潰したり、守ったりする。そして人も同じだ。金の為で殺すこともあれば、その逆もある。南方は世界中から命を狙われている。奴一人じゃぁ、自分の命は守れねぇ。残りの二人のように殺されるのがオチだ。だから奴は俺らに依頼をした。護衛をな」


「その話が本当なら、居場所を知ってるはずだ…教えろ」


「無理だな。テメェは弱すぎる。南方を追いかけても、途中での垂れ死ぬし出来ねぇよ。だが、安心しろ。南方は殺させねぇよ。俺らは貰った分の仕事はする。んで、南方から追加の依頼だ。お前の保護と、南方にたどりつけるぐらいの力量を仕込めと言う無茶ぶりだ。手っ取り早ぇ話、ウチの傭兵団に入れってことだ。そこで仕事をし、力をつけ、南方を追いかけろと言うことだ」


俺はじっくり考えて…手を伸ばす


「よろしく頼む…」


マスティフは手をパンと叩く


「よしっ!交渉成立だ。ついて来い」




俺ら二人は黙って歩く。そのまま街に戻り…


「おい、ここは…」


目の前に金属の塀が並んでいた。


「ここは、街の中央じゃねぇか。一部の人間しか中に入れねぇはずだ」




このクソッタレの地にも例外なく階級が存在する。この金属の塀に囲まれた地はいかなるものの侵入を許さない。そして、一部の者はこの魔物にも侵入できない安住の地で暮らすことが出来る




「俺は入ることが出来る《DOW》はこの地で生まれたからな。そして、総本部が中にあるんだよ。ついて来い」


俺はマスティフについて行くと、金属の塀に入口が現れる


「こいつは高さは10メートル位だが、上空に見えないバリアがある。そして、入口は俺みたいな資格を持つものが近づくと現れる」



そして、中に入ると…そこは、退廃的な雰囲気を醸し出した歓楽街だ。


多くの人間が謎の飲み物を飲み、謎の煙を吸い、女を抱き、賭け事をやっていた。



「奴等は腐ってやがる。酒を飲み、クスリをやり、女を抱き、魔力を賭けてやがる。この地の75%は壁の外に住み、13%はここで骨抜きにされる。俺らはそれらに抗った2%なんだぜ。さぁついたぜ」


目の前には小屋があった。


「さっき総本部って言ったよな…小さくねぇか」


マスティフは笑う

「そうだな!世界で最も規模がデカイっても総本部はこれだけだ。こいつは俺らが生まれた時に使っていたものだ。今は最高幹部の集まりにしか使わねぇよ」


木の棒が渡される


「こいつを折れ、本部まで飛ぶぞ」


俺は言われた通りに木の棒を折ると、目の前の景色が一変し、賑やかで…巨大な建物に変わる



そして…俺は天から注ぐ謎の光を浴びたとたん失神した。






俺は眼を開けた…目の前には木の天井があった


「あら、目覚めた?」

心地よい声が耳元で響く


俺は声がした方向へ首を動かすと…


目の前には漆黒色の髪を首もとまで切り揃えた女性がいた。


「ふふふ、太陽の光にあてられたのね。始めて太陽の光を浴びた人がよくおこすのよね。体がびっくりしちゃったのよ。けど大丈夫よ。少しずつ馴れていけばいいの」


女性はにっこり笑ったあと、後ろを振り返ると…そこにはマスティフがいた。


「マスティフ、もう大丈夫よ。先程の話なんだけど、先にみんなに伝えるわ。僕君、バイバイ、また後でね」


ゆっくりと歩いていく。



「体は大丈夫か?ずっとこっちにいたから忘れてたぜ。今まで日に当たったことが無いものが当たると体が拒絶するんだよな。俺は違うが、前に同じような奴が倒れたぜ」


「ここは…」


「ここは南方にあるリベール連合にある本部だ。ペーパーカンパニーである総本部と違って、ちゃんと活動してる。立てるか?…立てるならついて来い」


俺はベッドから降り、マスティフについて行く




本部の中は、大勢の人間が忙しなく動いていた。


「ええと、軍の派兵の要請ですね。数は300でよろしいでしょうか?」

「軍資金が枯渇したから融資を受けたいと…ふむ、まずは金貨1000枚ならすぐにお出しできますが」

「矢10万本のご購入希望ですか…お待ちください」



大勢の女性…受付嬢が窓口で対応していた。その後ろでは大勢の職員が紙束を運んだり、紙に記入したり、石に向かって怒鳴っていた




「ここじゃねえ。ついて来い」



そして、さらに奥に入ると、男達が掲示板を覗いていた。


「へぇ、この羽振りがいいじゃねぇか」

「これはうん臭そうだな」

「おい!嬢ちゃん、これを受けるぜ」



マスティフは息を吸い

「お前ら!!俺の話を聞け!」


男達は硬直する


「団長…びっくりするじゃないですか…」


バンダナを着けた男がため息を吐く


「横にいる小僧は…先程アネさんが言ってた子ですかい?」


「ああ、先に説明されたと思うが、こいつは今日から俺たちの仲間になる。んで、こいつはあの南方の弟子だ。戦い方は荒いが、出来る奴だ。もちろん、階級は一番したからやらせるが、南方の依頼もある、中途半端な奴には任せたくない。幹部で誰かやる奴はいねぇか」



「なら俺が…」

先程のバンダナを着けた男が手をあげるが…


「コリー、貴様は統括だろ。お前が手をあげてどうする」

覆面をし、鷹のような目付きをした男がその手を下ろす。


「ハウンド…」


「団長私にお任せを!私が兵士として鍛え上げましょう。そして、彼を我が軍に加えることをお許しください」


ハウンドと呼ばれた男は俺に視線を向けると

「小僧、我が軍に加われ、俺がお前を導いてやる。俺は統括補佐で親衛隊を指揮するハウンドだ。俺が指揮する親衛隊は俺が統率するゆえ、最強の軍隊だ」


ハウンドは後ろに視線を向けて

「お前ら、文句はないよな?」


ほとんどは口をつぐみ、一部は好き勝手に自分のことをし始める。


ただ一人除いて…


「文句あるわ!彼は私が面倒見るわ。逆にあなたこそ私に文句あるかしら?」


ハウンドが口を開く

「あなたは副団長だ。そこのコリー統括と違い、このギルドの運営を任されている。あなたはそれを放棄するのか」


「いいんじゃない、私もうそろそろ傭兵引退しようと思っていたし、私の業務の一部を引き継いでくれる人を探してたの」


「その小僧が運営を…」


「いいえ、彼は私の本業をやってもらうわ。あと、先程彼倒れたのよ。太陽の光を浴びたせいでね。このままだと彼は一ヶ月で死ぬわよ。彼は体質的にこの世界にはいられないのよ。あなたは戦闘面ではカバー出来るけど、生活面は無理でしょ?彼を献身的に支えれるのは私だけ、だから文句なんて発生するわけないじゃない。もしあるのなら潰してあげるわ」


ハウンドは首を振る



「さて、じゃあ奥に行きましょ。私はライカ。ここで副団長をやってて、マスティフの腐れ縁よ。君の名前はどうしようかな?ここでは本名を使わないのよね…うーん…シュナウザーはどうかしら?うん、それがいいわね!今日からシュナウザー、シュナ君よろしくね」



俺に新しい名前がついた



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