1-1掃きだめの国



「…」


目を開けるとそこは穴だらけとなった天井が見える。俺は体が怠いのを理由にまた睡眠の世界に入ろうと試みる



「起きた?」

耳元から甘えるような声が響く



俺は睡眠の邪魔をしてきた声の主を見つける



「フフフ、かわいい寝顔だったわ。どうする続きでもする?」


そこには先程まで抱いた少女がシーツで上半身を隠しながら笑っていた。


「いや、いい…」


「…そう、なら支払いお願いね。200よ」


俺は手のひらから真っ赤な水晶のような物を生み出し渡す。

受け取った彼女はニコリと笑い、飲み干す。


「また、お願いね。ユート君」


「ああ」


少年はボロボロになったバラック小屋を出る



眼前には先程出たのと同じバラック小屋が並んでいた。




常識のある者がこの町を見ると貧民街スラムに見えるだろう。


しかし…



ここは立派な栄えた町である。そう、かつて、マレクス神聖国が存在し、現在は瘴気と毒素に満ち溢れ、外では凶暴な魔物がひっきりなしで人間を喰らい続けるこの島では、こんなゴミに包まれたゴミの王国DUST COUNTRYこそがこの島の首都である。



「ねぇ、そこの白髪のお兄さん。うちに寄ってこない。サービスするわよ」

娼婦が胸を見せながら寄ってくる


「先程、別の女を抱いた後だ。別の日にしろ」


「んもう、そんなこと言わずに、お兄さん結構持ってるんでしょ?魔力。ここらへんだと、白髪隻眼左腕無しの少年は腕利きだという話は伝わってるよ?それ、お兄さんのことでしょ?」

女は俺の腕に抱きついてくる


俺は口の中に先程抱いた女に与えた赤い石を生み出し、眼の前の女の唇にキスをする。ついでに石を飲ませてやった。


しばらくキスして、口を離す



「ハァハァ、凄い舌使いだったわ。ハハッ、腰が抜けちゃった。お兄さん魔力ありがとう」


俺はへたりこんでいる女を後にする




ここはゴミの王国、道端の露店で売ってる物を覗くとロクなのがない。食えるのかどうかわからない植物や魔物の肉を使った料理、血まみれの鎧、刃がこぼれた剣、死んだ奴から剥ぎ取ったものを売る奴が殆どだ。食い物は魔物か、そこらへんに生えている植物、上質なものは魔生植物だろう。しかし、ここの支配者層はここで一番高級な人肉を喰ってることだろう。



そう考えてるうちに目的地にたどり着いた。


他の建物と大して変わらないバラック小屋に入ると…


そこには、紫色の液体を飲み、寛いでいる鍛冶屋がいた。

彼は俺に気づくと


「ユートか…お前の剣とナイフきっちり仕上げたぞ」


そう言って、棚を指さす。


そこには長さ180もある特大なグレートソードとダガーがあった。


「支払いは…」


店主は手をひらひらと振る

「いらねーよ。お前が持ってくる素材で十分以上のお釣りが来らぁ」


俺は黙って受け取り、店を出る。


ゆっくり歩を進め、先程店主が飲んでいたものは何の魔物の血なのかを考えながら自宅を目指す。



この地では真水は手に入らず、渇きを癒すには、たまに振る毒の雨をろ過器でろ過し毒素を薄めた水か、強力な酸の湖から取れる水に魔物の骨を入れ、中和させた水、最後は魔物の血である。



この地の住民はどいつもこいつも狂ってるように思えるかもしれないが、これが正常だ。世界で異常とされてる奴らが最後に集まる地…


それこそがこの掃きだめのようなゴミの王国だ。



ここでの生活方法は至ってシンプル。金の代わりに自分が所持する魔力を交換の道具として使う。この地は魔王か魔族かは知らんが蟲毒の世界らしく、魔物を殺したら、その魔物が持つ魔力を己の物にすることが出来る。そして、合意があれば自分の魔力を他人に譲渡出来るようになっている。つまり、力がある奴は魔物を狩り、魔力を掻き集め、必要なものを魔力を使って買うだけだ。力のない奴は物を売り、売るものがなければ女は股を開き、男は奴隷になればいい。



「まっ、待ってくれ!俺はまだ死にたくねぇ!」


一人の男がこちらに向かって走ってくる。


俺はその男を無視しようとした瞬間、男は絶命する。


後頭部にナイフが刺さっていた。

死んだマヌケの魔力が眼の前の全身鎧姿の男に流れ込む


「犯罪者とそれを追う賞金稼ぎか…」



俺は二人を後にして、歩を進める。




この地の外の住人だろう。この地には外の世界で犯罪を犯し、追われる身となった犯罪者とそれを追う賞金稼ぎが多く集まる。奴らはここの人間ではなく、外の人間だ。賞金稼ぎは犯罪者の首を取ったあとは国に帰るのだろう。奴らにとって、この地の空気を含め全てが毒なのだから…



「アイツはバカな奴だなぁ…」


野次馬がぞろぞろ集まってきた


「外の住人があの騎士のように加護を持たずに来るなんて、死に行くようなもんだぜ。それでもあれだけ走ってきたのは来たばかりか?」

「そうだろうなそれでも一か月したら瘴気にやられて死ぬんだがな」

「それにしても…あの聖属性の加護はうっとうしいなぁ…俺らは奴らに近づくだけで吐き気がするぜ」


ザクザク


「おい、来たぜ…ゴミ漁りスカベンジャーだぜ。相変わらず気味が悪いぜ」


無数の男たちが首を失った遺体に群がり、マヌケが持っていた装備や服を剥ぎ取る。そして剥ぎ取り終わったら、今度は痛いの解体を行い、食用になる部位を次々と箱に入れる。



奴らはこの後戦利品を商人に売りつけるのだろう。


商人はこの地では欠かせない存在だ。奴らは俺らハンターが狩った魔物を買い取ったり、俺もたまに副業としている探索者トレジャーハンターの戦利品を買い取ってくれるからな。



「腹が減ったな…師匠せんせいはたぶん研究に没頭していることだろうしな。先に食べるか」


俺は目についた店に入る


店主は俺を見て、興味を失ったのか、作業に戻る


「何か食える物を…」


俺はカウンターに赤い石を置く


「50だ」


店主は俺が置いた魔力50の石を受け取り、握り潰す。これで契約は成立だ。


店主は皿一杯に盛られたそこらへんに生えてる草と魔物の肉を入れたシチューが出される。そして、魔物の血で作られた酒が置かれる。


「…他のはまだ時間がいる…待て…」


店主はそういい、小分けにした魔物の肉を串に刺して焼く


俺はシチューを飲み、カウンターに並べてある皿の上に盛られてる大量の昆虫に目がいき届く。


「おい、店主…こいつを貰っていいか」


「…幼虫1と成虫1ずつだ…」


俺は拳大まで丸々と太った芋虫にかぶりつき、その間に固い甲羅を持った成虫の甲羅を剥いでいく


「…あとは好きに注文しろ…」


店主は焼きたての串焼きを3本、俺に渡す。


「いや、結構だ」


俺は食べ終えた後、店を出る。


「いい店だったな。また来るか」


手ごろな値段でうまい飯が食えたことだし…



町から外れたところにある丘を見る


そこには他のと同じようなボロいバラック小屋がある。アレが俺の家だ。


あそこに師匠せんせいがいる。腹を空かせていることだろう。まぁ、家の中にある食材を勝手に使うだろうし構わん。


俺はゆっくりと歩を進め、家路をたどる




俺はこんなクソみたいな掃きだめの地で平凡に暮らす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る