曼珠沙華に彩られた、此岸と彼岸の放浪の夢

この物語は、一本の川の此岸から彼岸へ渡る話である。とても短い物語だ。咲き乱れる彼岸花の群れに誘い込まれ、幻想のように地に足の着かないまま物語は進行し、幕を閉じる。冷たくも暖かな春の夢。どこへも行けないけれど、どこかに帰って行くような川の流れ。現実と物語の境目がふと曖昧になり、彼岸花を道しるべに迷い込む、そんな小説である。