リア充が異世界で苦労する?──ざまぁw

イロハ

第1話

ーリア充、と呼ばれる人達がいる。

彼らはリアル、現実世界が充実している者たちの事をいう。


そんなリア充の1人として黒野 くろの まことという男がいる。

彼はまず、富に恵まれていた。彼の親は、日本でも有数の大企業の社長を勤めていた。

そして、学力の面でも恵まれていた。実際に、現在高校2年の彼が1番苦手だという国語のテストの最低点数は98点であった。

極めつけには、彼の容姿が優れており、性格もそれに比例したものであるという事だ。...表面上は、だが。

こうして、ある意味最強の彼を放っておく女性がいるはずもなく、また彼が女性に強くでられない事も幸いし、彼と恋仲にいる女性は数え切れないほどいる。


そんな彼は今、屋上にいる。しかも1人ではない。


俺の目には緩くうねった短い茶髪を指で遊ぶ女が写っていた。確かあかりと名乗ったその女性は先程から頬を赤く染め、明後日の方向を見たまま動かない。

俺は彼女を見つめたままじっと待っていた。

それから数秒して、燈は意を決した様にばっと顔を上げると、俺と目が合い、より一層顔を赤らめまた目を逸らした。

ーこの子、燈ちゃんだっけ?さっきから長いなぁ…大体、俺が告白こんな状況の返事なんて俺の彼女の数的に分かってるだろうに、何を悩むことがあるんだろうか。いつも思うけど、なんで女の子って告白にこんな時間かけるかなぁ…

さすがにうんざりし、俺は燈ちゃんに気付かない程度に小さく欠伸をすると、

「なんか俺に用かな?」

と、なるべく優しく言ってやった。

一方燈ちゃんは、俺の声にビクッと反応すると、そっぽを向いたまま話し出した。

「あ、あのさ、うち・・、真君のこと、前からいいなって思ってたんだけど、なかなか言えなくて、で、えっと、そう!て、手紙...を書いたんです。受け取ってください!」

言いながら、燈ちゃんは、後ろ手に隠していた片手を俺の眼前に差し出した。そこにはシンプルに白い無地でハートのテープを貼られた手紙が握られていた。

「嬉しいな。ありがとう。」

俺は言うと、燈ちゃんから手紙を受け取った。燈ちゃんは、手紙を受け取った事を確認すると、屋上から走り去った。

「はああああああぁぁぁぁぁ。」

俺は、燈ちゃんが完全に屋上から出ていったのを確認すると、大きく、そして深くため息を吐いた。腕時計を見ると、呼ばれてから10分強もの時間が経っていた。

ーあー、長かっった!燈ちゃん、話すまで長かったのに、話してからはだいぶ短く終わったなぁ。しっかし疲れた。

俺は、その場に寝転がった。空は、オレンジと赤を混ぜたような見事な秋晴れで、綺麗だった。

「さて、と。」

俺は1人言うと、背を起こし、胡座をかいた。そして先程もらった手紙を取り出し、ハートのテープを剥がした。そして手紙を開くと、

「え?」

俺の視界は一瞬で白に染まり、そのまま意識も薄れていった。


「は?」

目が覚めると辺り一面草原だった。もう、すっきりするほど周りに何も無かった。

ーちょっと待って。いったん落ち着こう。

俺、屋上に居たよな?それがなんで草原に変わったんだ?……意味わかんねえ。ほっとけば誰かしら通るだろ。

俺は思いながら、草原に寝っ転がった。

「...ん?」

そこで俺は気付いた。気付かない方が良かったであろうことに。

「空の色ってこんなに赤かったか?」

空は、一面りんごの様に真っ赤に染まっていた。さらに、太陽も月も見当たらない。唯一見えたのは、白い光点だけだった。

先程まではどうにかなると過信していたが、さすがに焦ってきた。日本国内かと勝手に思っていたが、ここはどうやら日本でも地球でさえもないらしい。

「おいおいおいおい...」

俺は、ゆっくり立ち上がった。そして、直感的に移動することを決意した。


「……はぁ。」

歩き始めてゆうに1時間は経ったと思う。どうやらこの世界の気温は春の如く、暑くなく、また寒くもなく、ウォーキングするには最適だった。が、ここまで歩いて建物も生き物も見当たらないのはどうかと思う。まるで砂漠だ。

ここまで何も無いと、普通に歩くよりも疲れた気がしてしまう。

俺は、その場に寝転んだ。すると、一気に疲れと空腹を感じた。

ーそういえば、この世界に来てからなにも口にしてねぇな。腹減ったし、喉もかわいた。それに、だいぶ眠い。これ以上歩いても何も無いだろうし、いいや。寝よ。

俺が目を閉じた時、さっきまでの空腹と喉の渇きが消え、まるで死んだように即座に眠りについた。


ーなんか、顔が冷たい。

そう感じ俺は、目を開けた。目の前は黒くて、湿っていた。気になったから俺は、とりあえず黒の空間をつついてみた。ぷよぷよしていた。なんか肉を素手で触ったような感触だった。

すると、黒の空間にだんだん明かりが出てきた。そして、大半が明るくなった時、俺は理解しがたい事実に気付いた。

どうやら俺は、何かの口内にいたらしい。鋭く、大きな歯が何本も見えた。顔に感じた冷たさは、唾液みたいだった。

「クロ?...たべ、ない?」

「グルルッ」

ふいに、頭上から少女の声と何かの鳴き声が聞こえた。

そして、完全に黒は消え、真っ赤の空が見えた。そこで、とりあえず俺は体を起こした。

「!!」

ーびっ、くりしたぁ。

それは、影で俺を覆えるぐらい大きく、分厚く黒い鱗に覆われていた。そして、背中に羽をしまっていた。極めつけに、漫画やアニメで見るような恐竜の顔だった。いや、完全に恐竜そのものだった。

恐竜は、俺の顔を見ると口を大きく開けて、また俺を飲み込もうと...

「だめ!」

急に少女の声がし、恐竜は慌てた様に口を閉じ、お座りの体制をとった。それから数秒すると、恐竜の後ろから少女が現れた。

俺は、少女を見た時、目を奪われた。

なぜなら、少女はまるで人間離れした、人形のような美しさだったからだ。

真珠のような腰まである髪にルビーのような赤い瞳。透き通るような白い肌。それに、ノースリーブのシンプルな白いワンピースは、少女の魅力をより一層引き立てていた。

少女は俺と恐竜の間まで来ると、目を大きく見開き、俺をまじまじと見た。


「あなた、いきて...る?」

少女は、こてんと首を傾けた。

俺は、そんな大したことない動作にも目を奪われた。

俺らの間には沈黙が流れた。

「グル?」

すると、その沈黙を破るかのように、かろうじて疑問だと感じられる鳴き声を恐竜が発した。

「...返事は無いけど.....多分、生きて、る?」

「グルッ。」

「うん。...この世界の住人、でも無さそう、だし、...行こう?」

「グル。」

「ちょっ、まっ!…」

気づいた時にはもう遅かった。少女達はまるで初めからいなかったかのように、すっと消えてしまった。ひとり草原に残された俺は、途方に暮れた。

恐竜が居て、美女がいて、ついでにここは地球上のどこでもないと来た。

「俺、これから生きてける自身がないんだが。」

俺の呼びかけに答えるものは誰もいない。

むしろだんだん虚しくなって来た。

「あー!もう、いい!」

とうとうやけくそになった俺は、憂さ晴らしに草原を走った。しかし、恐竜の唾液が邪魔をして上手く走れなかった。

「ぐっ!」

どれくらい経ったか、大げさに足を動かしていた俺は、唾液に滑り顔面からこけた。

「はぁっ、はぁっ。なんなっんだよ、この液体!っぬめぬめするし、乾かねーっし、汚ねーし!」

俺は、その場に座り込んだ。

そこでぐ〜、と腹の虫が鳴った。

ー腹減った。そういえば、俺がここに来てからどれくらい経ったんだろう。燈ちゃんに返事してないし...って、そうだ!俺がここに来た原因は、多分燈ちゃんだよな?燈ちゃん、可愛い顔してこわいことするなぁ。でも、何でこんなことしたんだ?俺が好きすぎたか?...なんちゃって。

「あれ、もしかして...真、君?ですか?」

ふいに頭上から、声が聞こえた。見上げると、腰まである金髪と碧眼の尖った耳の女性がいた。

女性は、日本ではコスプレでしか見られないような胸元が大きく開きネグリジェの様な薄い翠のワンピースを着ていた。

ーやっば、めっちゃかわい...じゃなくて、今俺の事...

「あ、違いますか?ごめんなさい。人違いでした。」

女性は、そう言うと回れ右をし、俺の元から去ろうと...

「ちょ、ちょっと待って!なんで俺の名前知ってんの?」

俺は、慌てて声を掛けた。すると、女性は俺の近くまで来ると、嬉しいそうに胸の前で両手を合わせた。

「やっぱり、そうですよね。私の事、覚えてますか?同じクラスだった木城 由梨きじょう ゆりです。」

ー木城?木城って言ったら、お下げに眼鏡にそばかすのいかにも堅物、真面目女子ってイメージだけど...

「えぇっと、失礼だけど、ほんとに木城?なんか、その、イメチェンした?」

そんな俺の軽い発言が、木城の堪忍袋の緒を切ったようだった。木城の顔はすっ、と無表情に変わった。

「失礼な方ですね。こちらの世界にきたらこうなっていたのです。説明のしようがありません。」

「そうか…」

ーせっかく俺が話しかけてあげたのに失礼な奴だな。ブスのくせに…今は可愛いけど。

「質問します。貴方がここへ来たのは、同意の上ですか?それとも不可抗力ですか?」

不意にされた質問に俺は、説明しずらすぎて戸惑った。そして何も答えられずにいると、

「何をモタモタとしているんです?」

と怒られた。俺は即座に答える。

「は、はい。答えます。…で、何の質問でしたっけ?」

思わずいつものイケメンキャラを忘れ、敬語になる。

「本当に使えませんね。貴方は、同意の上でこの世界にきたのかと聞いているんです。モタモタしないで早く答えてください。」

「あぁ…」

俺は、木城にことの全てを事細かに話した。木城は、ほう。と頷きながら、俺の話を真剣に聞いていた。

「ふむ。大体わかりました。要するに貴方は自分が好かれてると自意識過剰になった結果、こうなった訳ですね?」

「本当に全くその通りです…」

全てさらけ出して悲しくなってきた俺は、返す言葉も無かった。

「なるほど...分かりました。ありがとうございます。では、私はこれで」

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!」

俺は、用件はもう過ぎたかのように去っていく木城を引き止めた。木城は、心底嫌そうな顔をして振り返った。

「何か?」

「俺さ、さっきも言ったけど、ここがどこだか分からないし、帰り方も知らないんだ!」

「だったら?」

「小間使いでもなんでもいいから、俺を連れてってくれないか?!」

もう必死だった。俺は恥を捨て、土下座した。

頭の上からは、長いため息と共に、圧力を感じた。

「確かに、元の世界とこの世界の行き来を調べてはいます。しかも、貴方はイケメンです。」

「!じゃあ...」

俺は、期待に顔を上げた。

「しかし、私が調べてる理由は、もう二度と元の世界に帰りたくないからです。」

俺は、頭から冷水をぶっかけられた気分になった。そして、俺の前にしゃがみ込むと、木城は言った。

「それに、この世界には、貴方の様な顔の方、珍しくないんですよ?」

とびきりの笑顔で。

「あ、それとこれあげます。情報料です。ブスに付き合わせちゃって申し訳ありませんでした。」

木城は、草の上に何かを置くと、笑顔のままどこかへ去っていった。

「嘘だろ…?」

俺は、そう言う事が精一杯だった。

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