第十二話 師と似徒とリリカルなこと

  マスター似徒ニート



 ますたーとは、それぞれの職において、高い能力とスキルを練界アルツァレトや現実世界で身につけ、職師しょくしによって認定された子どものことを言う。

 ただし、誰でもなれるわけではない。


 どんなに能力が高かろうと、マスターになれるのはケンザイの身分の子どもだけである。


 マスターではない者は似徒ニートと呼ばれる。

 

『似て非なる徒者あだもの』それが似徒ニートである。

 

 同じ仕事をしても収入の面でも大きく異なり、就ける職場も変わってくる。

 

 似徒ニートのほとんどは肉体労働者である。


 しかし、フウコのような例外もたまにいる。

 

 フウコはケンザイではなく、ワカツエヴァであるが探師のマスターである。

 

 ワカツであっても、二組のケンザイの両親の推薦があればマスターになることができる。


 ただし、生涯で1つの職においてのみである。


 フウコが選んだのは探師たんしマスターであった。

 

 ちなみに、ケンザイはいくつものマスターの称号を所持することができる。


 

すべては差別と区別のため。子どもを統制する秩序のためだと大人は言う。




「ところでよぉ、誰だよ、ツンデレ仕様だとか言ったヤツ。マーユおまえかぁ?」

 

 フウコは明るい声でマーユに言った。


「フウたんはアホにゃ。最初に言ったのは貴様たんにゃ〜!」


 マーユがフウコを指差しながら言った。


「まったく、なにが演出だ。わたしが正しかったってことだな」

 

とイリヤが威張りながら言うと、


「奥深いとかなんとか言ってたの誰だっけ?」


 フウコが言うとイリヤは耳の先まで真っ赤になった。それを見てフウコは、けたけたと笑った。



「さて、イリヤをイジって遊ぶのはこれぐらいにしてと……」


「わたしで遊ぶな!」

 

 イリヤがそのリアクションこそ遊びなのだと気がつかずに言った。


「シフティ。なにかいい情報は聴こえこないか?」


フウコは以外にも、この店に入ってまだ一言も話していないシフティに話題を振った。



「はい。フウマ様。どうやらここ数日、この街では【大人狩り】という事件が起きているようです」



 シフティが普段は開いているのか閉じているのか分からないその瞳をはっきりと開けてしゃべったのである。


 その瞳を初めて見たマーユとイリヤは絶句した。


 その瞳の色は左右で異なっているのである。

 

 右目は金色、左目は碧色のヘテロクロミア(虹彩異色症)であった。


「シフティがしゃべった……」


 イリヤは無意識のうちに心の言葉が口から出てしまっていた。


 イリヤは慌てて謝罪しようとするが、その前にシフティが、

「はい。わたしはしゃべりますよ。ただし、いつもは聴覚を常人の三倍にして情報収集するために目と口を閉じているのです。

 それにこの瞳ですからね。わたしは目立ちたくないものですから」



「綺麗な声にゃ……」

 マーユが口をポカンと開けながらシフティに見惚れている。


「マーちゃんめーですよ!シフティはボクのですから!」

 

 ヒニュンがシフティの腕を抱くと、シフティが言った。


「はい。わたしのすべてはヒニュン様のものでございます」



「すべて……」


 イリヤが自分で言った言葉に恥ずかしさを感じて顔が真っ赤になる。


 それを見て、フウコがまたけたけたと笑う。


「オヤジ狩りかぁ。な〜んか面白そうなことになってるじゃないか」

 

 フウコはこういう類の事件が大好きであった、探師の血が騒ぐらしい。





「お待たせいたしました」


 メイドたちがとびきりの笑顔で料理を運んできた。先ほどの騒ぎなどなかったかのように。


 それぞれの注文した料理が行き渡ると、メイドたちが奇妙な小さな棒きれを取り出して言った。


「料理はお揃いでしょうか?それでは――

 リリカル、リリカル、マジカルル〜♪

 丹精込めて作った料理たち♪

 美味しくなるためのおまじない♪

 それ、美味しくな〜れ♡」




「……」



「はい、ありがとうございました。どうぞ、ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

そう言って、メイドたちは下がって行った。



「これがメイド食堂か?」

 

 フウコが言うとマーユが、


「そうにゃ〜。これがメイド食堂にゃ〜」




「リリカル、リリカル~!覚えましたです~」

ヒニュンは大喜びである。


 何はともあれ、料理もおまじないによって美味しくなったところで、5人の旅人たちはようやく食事にありつくことができた。


 シフティは優雅に。ヒニュンは子リスのように。


 フウコ、マーユ、イリヤは猿のように。周りの客の視線が集まるのもお構いなしにお腹を満たしていく。


「はぁ〜、食った、食った」


 フウコがお腹をさすりながらそう言うと、反応したのは自分も食べ終わったばかりのイリヤであった。


「やめなさいよ、下品ね。あんたはその言葉遣いなんとかしなさい。見た目が美少女なら美少女らしくしなさいよね」



「うるせーなー。年下のおまえに言われたかねぇよ。それを言うなら、おまえだって巨乳らしい服装しやがれ」


「巨乳らしい服装ってなんだよ!バッカじゃないの!」


 お腹が膨れると、態度も会話も達者になるらしい。

 


 二人が食後のけんかを始めようとしたときだった。



「あの……すいません。もしかして、マヘル・シャラル・ハシ・バズの方々ですか?」

 

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